須永辰緒のインクレディブルDJ’s Vol.3開幕
渋谷区宇田川町にて「須永辰緒のインクレディブルDJ’s Vol.3」が開催された。
本イベントは「レコード番長」の異名を持つ日本のトップDJ須永辰緒さんが主宰する同名のオンラインサロンで企画される定例イベント。
オンラインサロン「須永辰緒のインクレディブルDJ’s」は、DJを始めたい人やDJのスキルアップを図りたい人のためのオンラインサロンで、オンライン上ではサロンメンバーが作成したミックス音源を須永さんに講評してもらうコンテンツがあったり、楽曲や機材に関する情報交換が行われたりしている。クローズドなコミュニティならではの情報交換が行われ、日々盛り上がりを見せている。
また、オフラインコンテンツとして定期的に開催されているイベントは、イベントを立ち上げる経験を少しでも多く積んで欲しいという須永さんの思いから、サロンメンバーがイベントの準備や運営を全て行っている。このイベントの特徴は「DJ講座」と「パーティー」の両方が1つのイベントになっているところにある。詳しくは前回のイベント「須永辰緒のインクレディブルDJ’s Vol.2」のレポートを是非ご覧いただきたい。
今回レポートするのはそのオフラインイベントの第3回。前回に引き続き、DJ講座初級編はDJ林大介さん、中級編は須永さんがメイン講師を務める。会場を提供してくださったのは、レコードハンティングの休憩所としても最適な場所にある「Cafe&Dinerスタジオ」だ。
今回は、須永さんから声をかけていただき、Synapse編集部員である私も特別にDJ講座に参加させていただいたので、その様子も併せてお伝えしたい。
アナログだけではなくCDJ・PCDJも
「レコード番長」の異名を持つ須永さんと言ったら、やはりレコードでプレイするイメージが強い。しかし実際は使用機材に関係なく、PCDJやCDJも指導している。曲のかけ方は違えど、DJとしての基礎は共通していると須永さんは考えているからだ。
「レコードではなく、PCDJだからこそできる表現方法もある。PCDJがメインの人には、まずPCを活かしたプレイとは何かを考えてみて欲しい。そのヒントは、別の方法に触れてみることで分かるかもしれない。ここで得た経験を元に自分に合ったスタイルを確立して欲しい。」
と語る須永さん。
実際、サロンメンバーの中にはCDJ、PCDJでプレイする経験が豊富なDJも在籍している。イベントでは、そのようなレコード以外の方法も得意とするDJの方に教えを請うこともできるので、どのようなスタイルでも安心だ。
今回のDJ講座初級編では、レコード以外に挑戦する参加者もおり、CDJやコントロールヴァイナル(PCから音楽を再生し、レコードのようにプレイするための道具)の使い方についても解説が行われた。普段自分がしないプレイのスタイルが学べるため、中級者以上の方もじっくりと耳を傾けていた。プレイスタイルに縛られず、様々な方法を学んでおくことは、DJスキルの上達につながるに違いない。
DJ講座初級編に参加
初級編も最後となり、私の番が回ってきた。やはり、人前で、しかも日本のトップDJである須永さんの前でプレイするというのは緊張する。
私の今回のテーマは、DJをやる上で必ず身につけなければならない基礎中の基礎である「曲の繋ぎの練習」だ。ターンテーブルやミキサーの扱いは一通り把握していたので、まずはアドバイスなしで恐る恐る実際に曲を繋いでみた。
持って来たレコードをターンテーブルに乗せ、慎重に針を落とす。そして、次にかける曲をヘッドフォンで確認し、頭出しの準備をする。1曲目が終わるタイミングで準備していた次のレコードを回し、クロスフェーダーをゆっくりと動かす・・・
結果は、良いとも悪いとも言えない、なんとも微妙な出来だ。
ここで須永さんと林さんから2枚目のレコードを回すタイミングやクロスフェーダーを切り替えるスピードについて具体的なアドバイスをいただいた。アドバイスを踏まえ、2回目に挑戦すると先ほどよりもうまく繋がるようになった。
その後も「このやり方でレコードを戻すと針飛びがしやすいから…」「曲ごとに音量が違うから・・・」「EQの設定は・・・」など、細かい部分を教えてもらい、徐々に形になってきた。なんとなくDJの練習をしていた私にとって、意識すべき箇所が整理されたことは大きな進歩であった。やるべきことが明確化されたため練習の効率も上がりそうだ。
最初は緊張していたが、いつの間にか夢中になり、あっという間に30分が過ぎていた。最後には、参加者の皆さんから温かい拍手をいただくことができた。
スキルの向上ももちろんだが、何よりも、「踊れるジャズ」という概念を日本のクラブシーンに広めた業界の第一人者であり、今も尚DJとして第一線で活躍する須永さんから直々にアドバイスをもらえたということが、とても嬉しかった。
芸を盗む
21時を少し過ぎた頃にDJ講座中級編が終わり、パーティーが始まった。
今回のパーティーでは須永さんの他に、レコードキュレーションイベントでもお世話になったDJ櫻井喜次郎さんがプレイした。
櫻井さんは、アナログとCDを使い分けながらJAZZ、BRAZIL、SOULを中心とした選曲で、オーディエンスの体を揺らした。今話題になっている星野源の「SUN」が7inchで流れると、フロアが大きく湧いた。
そして、パーティーのトリを飾る須永さんの登場。一瞬の静寂の後、聞き覚えのあるメロディーが流れ始めた。その場にいた人全員が驚きを隠せない。須永さんが選んだ1曲目は、なんとドラゴンクエストの序曲だ。これから何かが起こりそうな期待感が膨らむ。2曲目は須永さんの最近のお気に入りだというWONKの「savior」。WONKはワンマンライブに行ったこともある、個人的にとても好きなバンドなので得した気分だ。そこから自然とAnderson.Paakの「Heart Don’t Stand A Chance」に繋がった。この曲が収録されているアルバム「Malibu」は、須永さんが昨年のお気に入りに挙げていたものだ。4曲目は三味線が奏でるうちなーサウンド、ネーネーズの「バイバイ沖縄」。あくまで自然に世界観をガラリと変える須永さんの選曲にはいつも驚かされる。その後も、The Parka Brothers、森進一、Croatia Squad、Suchmosなど、ジャンルを超えて曲が繋がれていった。
今回は、純粋に楽しむだけではなく、曲の繋ぎ方やイコライザーの使い方など、講座で教わったスキルを須永さん自身がどう実践しているのか気になり、覗き込むように手元を見て研究している自分がいた。
ある程度の基礎はDJ講座で学ぶことはできても、それ以上のことを言葉で教わることは中々難しい。落語家は、弟子入りする場合、師匠の家に住み込みで掃除や洗濯などの手伝いをしながら師匠の芸を盗むというが、DJの場合も同様に、教わるのではなく盗むといった自発的な要素も必要だと思う。そう考えると、DJ講座に加え、近い距離で師匠の技を体感できる場が設けられるこのサロンは、DJを成長させるのに大変適したイベントだ。
お店側のご好意で朝まで会場を利用させていただけることになり、須永さんが回し終わった後も、アフターパーティーと題して参加者が思い思いに曲を繋いでいった。
どんなに上手いDJも、最初は機材の使い方から学ぶ。「須永辰緒のインクレディブルDJ’s」では初心者を暖かく迎え入れてくれ、成長させてくれる環境が整っているので、機材の使い方がわからないという方も気軽に参加していただきたい。
また、CDJ、PCDJを使っている方の参加も大歓迎だ。気になった方は是非「須永辰緒のインクレディブルDJ’s」を覗いてみて欲しい。