現世界チャンピオンが語るバックギャモンの魅力とは -バックギャモンフェスティバル2016に行ってきた

著者名シナプス編集部
現世界チャンピオンが語るバックギャモンの魅力とは -バックギャモンフェスティバル2016に行ってきた

「バックギャモンフェスティバル」は年に一度、毎年10月第2土曜日〜体育の日まで3日間に渡って開催されるバックギャモンの祭典だ。その年の国内チャンピオンを決める「日本選手権」の開催を兼ねており、文字通り国内最高峰の大会である。

今回は、この祭典において2016年バックギャモン世界ランキング1位の望月正行プロ、同ランキング2位の景山充人プロにお話をうかがうことができた。

そう、現在「世界ランキング」の1位と2位は日本人なのだ。意外に思われた方も多いかもしれない。それもそのはず、全世界で3億人と言われる競技人口においても、日本人はたったの20万人。なのにどうして日本人が世界のトップを走り続けることができるのだろうか。

今回はイベントの会場の様子を紹介しつつ、その秘密に迫ってみたいと思う。

いざ、バックギャモンフェスティバル2016!

2016年10月9日、筆者は渋谷駅から徒歩6分、シダックスホール6Fを訪れた。フロアに足を踏み入れると、ホールいっぱいにバックギャモン盤が整然と並んでいる。

会場

フロアの一角、一枚壁で仕切られたスペースでは目玉のトーナメント・日本選手権が行われていた。優勝賞金はなんと100万円。国内だけでなく海外からも多くの参加者が訪れる。

本大会は「15pマッチ」というルールを採用している。勝敗が決するのにおおよそ2〜3時間程度、3日間にわたり最大6戦を戦う長丁場である。対戦の合間には休憩が認められており、食事を摂ったり外出したりすることができる。対局中の真剣な表情とは裏腹に、休憩中は和やかな雰囲気がある。

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別フロアでは並行して様々なプログラムが行われている。トーナメントだけでも、「中級戦」、「初級戦」、25歳以下限定の「新鋭戦」、「ダブルス」、「小学生選手権」、賞金100万円のかかる「Super Jackpot」など多数の催しが行われる。

中でもユニークなのが、一手進めるごとに寿司を食べなくてはならないという「寿司ギャモン選手権」だ。他にもバックギャモンにまつわるクイズ検定、トークイベント、3万円相当のマツタケが当たる抽選会など、競技者でなくても楽しめる催しが盛り沢山だ。

寿司“ベアオフ(上がり)の際に、駒1つにつき寿司を1貫食べなくてはならない。勝利するのに15貫食べる計算だ。”

バックギャモンのルールを一言で言うと「駒が複数あるすごろく」だ。対局は1対1で行われる。交互にサイコロを振り、出目の数だけ自分の駒を前に進めることができる。最終的に15個ある駒の全てを、相手より早くゴールさせることができた方が勝利となる。

意外に古いバックギャモンの歴史

今大会、望月プロは運営側に回っており、トーナメントには参加されていない。その運営業務の合間にお話を伺うことができた。

望月正行:プロフィール

もっちー

1979年生まれ。プロのバックギャモンプレイヤー。2009年モンテカルロの世界選手権で優勝、日本人初の世界チャンピオンとなる。日本、海外問わず、数多くのトーナメントに参加して入賞している。2016年世界ランキング「Backgammon Giants」1位 4年連続6年目を誇る。

-大会以外にも様々なプログラムがありますね。なかには変わった催しも・・・。

望月「はい。元々は日本選手権だけだったのですが、競技が普及していく過程で中級者や初級者でも参加できるトーナメントを作りました。その後バックギャモンを絡めたトークセッション、クイズ選手権などのアトラクションなどを企画したところ、学生や家族連れなど幅広いお客さんが足を運んでくれるようになりました。参加者は年々増え、今では3日間に渡って客足の絶えない一大イベントになりました。国内ではもちろんのこと、おそらくアジアでも最大規模の催しだと思います。」

売店“売店には様々なバックギャモングッズが並ぶ”

-そもそもバックギャモンとはどのような競技なのでしょうか。

望月「日本ではあまり馴染みがないですが、実は競技の源流は5,000年も遡ることができ、世界最古のボードゲームとして知られています。日本では、アメリカ発の世界的なブームに乗っかる形で1960年代以降広まり、現在に至るまでじわじわと競技人口を増やしています。現在の競技人口は国内でおおよそ20万人ほど。普及してからの歴史も浅いので、比較的若い人が多いのが特徴です。また、実は世界に目を向けると競技人口約3億人と、囲碁の約5倍、チェスに継ぐ人気を誇るメジャー競技です。アメリカはもちろんですが、トルコ、サウジアラビアなど中近東の国々で特に人気が高いです。」

 

-知らない人に説明する際に、よく「すごろく」に例えられますね。

望月「もとをたどればバックギャモンとすごろく(雙六)は非常に近い遊戯です。江戸時代に途絶えてしまったのですが、歴史をたどれば、かつてバックギャモン(盤雙六)は日本中で親しまれていました。」

 

-そうなんですか!?

望月「古くは奈良時代(飛鳥時代という説もある)、古典を読むとしょっちゅう出てくるので、当時日本で大流行していたことがわかります。日本書紀によると、過去に2回も法律で禁止されるほど庶民の遊びとして人気を博していたそうです。きっとハマりすぎて散財したり、日常が破綻する人が続出したんでしょうね。平安末期に「院政」を築いたとされる白河天皇(上皇)が「鴨川の水と、雙六の賽(さい)の目と、比叡山延暦寺の僧兵だけは思い通りにいかない・・・」と漏らしたというエピソードもあるそうです。」

賽の目

-そんな歴史があるとなれば、日本人は世界で負けられないですね!本大会にも世界中からエントリー者がいます。この大会の魅力を教えてください。

望月「競技者としての感想になりますが、年に一回の同窓会に来ているという感じでとても楽しいです。日本国内でこれだけ多くのプレーヤーが一同に会す機会は他にはないので。」

 

-プレーヤー同士の仲は良いのでしょうか。

望月「他のボードゲームに比べると、かなり仲が良いと言っても良いかもしれません。バックギャモンは、ダイスの目に応じて最善手が決まっていて、限られた時間内にどれだけ正解を積み上げられるかを競うゲームです。将棋や囲碁のように読みの力を競ったり、ポーカーや麻雀のように相手の腹を探る要素があるわけでもないので、自分の考えを知られたってなんの痛みもないわけです。上達のためにはコンピューターによる解析が必須になりますが、こうした研究は仲間と一緒に行った方が効率的なので、他のプレーヤーとは普段から密に連絡を取り合っています。」

 

-なるほど、そうした土壌があることで強いプレーヤーが育っていくのですね。

望月「2015年は世界ランキングの1位〜3位を日本人が独占しました。最近では特に若いプレーヤーの強化に力を入れていて、U25の強化合宿を定期的に開催しています。一方アメリカは大量のプレーヤーをふるいにかけて、その中から一握りの天才的なプレーヤーが現れるといったイメージです。そもそも僕は天才でもなんでもなく、誰にでもできる努力を淡々と積み上げて強くなってきたクチで、そのノウハウも競技界に共有しています。その意味で、日本には強くなれる環境が揃っています。順調に若い世代も育ってきているので、今後も日本が強い状況は続くと思います。」

記録“試合の棋譜を記録し、後日振り返るプレーヤーも多い。”

-心強いですね! 今からでも始めれば世界を狙えるかもしれません。これを機に興味を持った人のために、最後にバックギャモンの魅力を教えてください。

望月「月並みですが、ルールが単純であること。その上で奥が深いところです。ルール自体は5分で覚えられるほど単純ですが、僕は競技を始めて20年以上経ちますが、いまだに間違えることがたくさんあります。また、サイコロの出目次第で初級者が上級者に勝てる可能性があるというのも面白いと思います。どんなに上手になっても、トップの勝率はせいぜい60%。10回やったら4回は負けるわけです。そこを割り切りつつ、いかにして6勝4敗を続けていくのかというマインドが大切です。」

-どうもありがとうございました!

競技の魅力は、スピード、スリル、逆転!

対局の合間に、休憩中の景山プロにもお話を伺うことができた。

景山充人:プロフィール

景山

プロのバックギャモンプレイヤー。1961年、高知市に生まれる。1978年、『バックギャモンブック』を書店で手に取り、バックギャモンの魅力に引き込まれる。日本のメジャータイトルで通算10度優勝(名人、盤聖、王位、最上カップ)。世界選手権準優勝。2016年世界ランキング「Backgammon Giants」2位。

-対局お疲れ様です。調子はいかがですか。

景山「先日ポルトガルオープンという大会で優勝しました。その後に札幌でも優勝しましたし、今年は良い感じでここまでこれています。」

 

-おお!その中で印象に残ったゲームはありますか?

景山「札幌オープンで15ポイントマッチの0-14から逆転するという、通常考えられないような勝ち方をしたのが印象に残っています。こういうことがあるのもバックギャモンの魅力です。」

 

-凄いですね。まさにその「魅力」について聞こうと思っていたのですが・・・先にもの凄いエピソードと一緒に語られてしまいました(笑)

景山「魅力はまだまだありますよ! これ、ある人の受け売りなのですが、バックギャモンの魅力は「スピード」「スリル」、そして先ほどのエピソードのような「逆転」の3つだと思います。優勢でも最後まで気を抜けないのがバックギャモンの面白いところ。サイコロの出目次第で大逆転が起こりうるのでとてもスリリングです。」

 

-ヒヤヒヤしそうですが、それを楽しめるメンタリティが大切ですね! 最後に今大会の意気込みを教えてください。

景山「大会に向けて1ヶ月ほど前から調整を続けてきました。過去に20年以上出場していますがこれまで優勝がないので、今年は優勝を獲りたいです。」

-どうもありがとうございました。残りの試合頑張ってください!

景山“この後、景山プロは日本選手権の優勝とはいきませんでしたが、コンソレーション(敗者復活戦)トーナメントで見事優勝されました。”

バックギャモンを始めるには

当日はあいにく土砂降りの天気にも関わらず、会場には多くの大会出場者、愛好家が訪れていた。フロアの一角には指導者が一からバックギャモンを教えてくれるコーナーも用意されている。ルールを覚えたら、まずは初級戦へのエントリーをお勧めしたい。希望すれば終日対人戦を楽しむことができる。

教え

最近はネット対戦が可能だとはいえ、リアルな対戦機会はそうあるものではない。望月プロがおっしゃるとおりルールは単純明快。サイコロの出目次第で、ルールを覚えたての人でも初心者でも、熟練者に勝つことがあるというのがこの競技の面白いところだ。海外のボードゲームというイメージが強く、一見敷居が高そうに思えるが、実のところ参入障壁は極めて低い。

余談ではあるが、他のボードゲームプレーヤーにもバックギャモンの愛好家は多い。例えば元竜王名人であるプロ棋士の森内俊之氏、東大在学中にプロ入りし、若くして日本将棋連盟の常務理事を勤める片上大輔氏、プロポーカープレーヤーとして、日本人として初めて世界選手権優勝を果たした木原直哉氏などもトーナメントに参加していた。

上記のような一流の勝負師たちがしのぎを削る姿を間近で観戦できるだけでも、とても贅沢な体験だった。

森内

大会を終えた景山プロは、後日ブログでこう振り返っている。

今年の日本選手権は日野雄之さんの優勝で幕を閉じた。22歳のチャンピオンは史上最年少だ。名人を奪取した横田一稀さんと共にバックギャモン界の新しい波を象徴する。実際に日野さんは表彰式で「世代交代します」と言い切った。

横田名人は膨大な時間を費やしてスキル向上に取り組んだ。そこまでバックギャモンを好きになる人がたくさん現れ、その結果としての世代交代ならこんなに嬉しいことはない。

どうやら望月・景山両プロをはじめ、先駆者が耕してきた土壌が着実に実を結びつつあるようだ。

もしあなたがボードゲームに関心があり、何かのめり込める競技を探しているとしたら、真っ先にバックギャモンを検討するべきだ。日本には、素晴らしいプレーヤーの方々と、世界に挑戦する人を育てる環境が揃っているのだから。もしまだ行ったことのない人がいたら、ぜひ、来年のバックギャモンフェスティバルに足を運んでみてほしい。

会場

講習

子供

※来年のバックギャモンフェスティバル2017は10月7〜9日に開催される。

イベントに関するお問い合わせはこちら↓↓↓

http://backgammon.gr.jp/?page_id=90 -日本バックギャモン協会

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