新卒で入社した出版社を3週間でドロップアウトし、パチンコ屋でのアルバイトから正社員、そして店長を経てドッグサロンを開業した有限会社ファニーテール代表取締役、吉田大祐氏(写真右)。そして、大学卒業後大手ハウスメーカーで7年間建築士として従事し、建築の現場監督からドッグサロン経営者へと転じた株式会社ドッグダイヤモンド代表取締役の石原弘之氏(写真左)。
異色のキャリアを歩みながらも、業界外の視点や経験を活かしてドッグサロン界に一石を投じる存在となった両者に、ドッグサロン業界の現状や自身の経営哲学やペットへの思いを伺った。
ドッグサロン業界が抱える悩みとは?
ーーお二人はDMMオンラインサロンにて、トリマー・ドッグサロンオーナーのためのオンラインサロンとして「プレトリ」を主宰されているわけですが、ドッグサロン業界ならではの“あるある”な悩みはどのようなものでしょうか?
石原弘之(以下、石原):どうやってスタッフを雇うのかという、採用に関する悩みが多いですね。
吉田大祐(以下、吉田):昔ながらのきつい・給料がやすいというイメージが今も根強くあってトリマーを目指す人自体が年々減っているんです。
人の美容師さんもそうかもしれませんが、お店や業界にブラックなイメージがついてしまうとそこを目指す人が少なくなるんだと実感しています。今の新卒世代はこれまでの世代とは違う価値観で仕事をしているので、業界としてはそこの部分でギャップがありますね。
そこは私たちが新しい世代に合わせて環境や考え方を変えていかないといけないと思っています。法律の部分でも労働基準法が厳しくなってきていますが、正直これまでは(特に専門店は)勤務時間外の練習なども含めて”グレーゾーン”で自分の技術を高めていた部分がありました。
でも、そう言ったやり方はもう通用しないのが現実です。そんな状況でどうやって利益を上げたらいいのかと悩んでいる経営者が多い印象はありますね。
ーーそうした採用の悩みについてどのようなアドバイスをされることが多いですか?
石原:僕は本当に具体的なところから、自分がやっていることをその都度紹介しています。
募集をかけるときにどういうメディアに載せるのが効率的か。それは有料か無料か。有料ならどこにお金をかけるのか。そういった細かいノウハウを伝えています。あとはどういう文章で募集をかけるのか、写真の撮り方など、とても細かい話をしていますね。
吉田:石原さんは理系でしっかりとしたロジカルな考え方を持っているので、彼のアドバイスは本当に参考になると思います。
僕はもちろんロジカルに考えるんですけど、それと同時に思いや情熱・好奇心って本当に大事だと思っていて、ボクはもともと頭のいいほうじゃなかったので、ここまで強く熱い思いだけでやってきた感があります。採用後にどのようにして思いを共有し、それを売り上げに繋げていくのかそんなお話もさせてもらっています。
石原さんとは仕事観や目標は同じですが、そこまでプロセスが全く違う二人が運営しているからこそ、このオンラインサロンはバランスが取れている気がしますね。
ーー業界としてスタッフの採用やマネジメントが大きな課題とのことですが、お二人は優秀な人材を雇う工夫をどのようにされていますか?
石原:正直、トリミングだけをやっていては十分な給料をあげられないのが現実だと思っています。だからといって単価を上げることは、これまで地域密着でやってきたことも踏まえて、やりたくない。そうなると“収益の柱”を増やすしかないと思っています。
ペットホテル分野の開拓や、自分たちが使いたいトリミング道具を開発したりなど、会社全体として収益を増やして、それをスタッフに還元したいと考えています。
吉田:今は個人の価値が非常に大切になってきている時代だと感じており、今後は個人か資金力のある企業しか残らないと思っています。
マルチーズに関して多くの雑誌取材のオファー頂きますが、極力自分は出ないでスタッフのコたちを出すようにしたりして、スタッフ個人の価値を少しでも高く、質の良いものにしていければと思っています。
また、そもそもうちは独立を条件に入ってもらっていて、基本的に5年で辞めてもらう想定となっています。そうしておけば「社長ちょっといいですか?」という、経営者として最もドキドキするあの瞬間がなくなりますし(笑)何よりそこを目標に一生懸命やってくれるので、その間にそのスタッフの人としてトリマーとしての価値をしっかり作り上げることができる。その手助けをしています。
店舗経営に対する考え方、そして「本当の犬」を伝えること
ーー店舗経営における財務について意識されていることはありますか?
石原:僕は拡大を考えていないので、特別なことはしていません。
基本的にはスタッフの待遇を厚くして終わりだと思っています。最低限の貯蓄があればいいかなと考えているので、残っているお金に執着することなく放出していければという感じです。年収1,000万のトリマーがいてもいいんじゃないかなと思いますし。
吉田:自分も同じですね。ドッグサロンの売り上げって知れてます。その中で無駄なくお金を使い、スタッフたちには少しでも多くの給与を支給したいと思っています。
お給料も良く、休みも月10日以上、そして何より仕事は楽しい。以前はそんなお店を作ることなんてできないと思っていましたが、だいぶそこが見えてきた気がします。
ーーお店やご自身のブランディングとして実践されていることはありますか?
石原:僕は自分自身のブランディングをしようと思っていません。
ただ、スタッフ達のパーソナルブランディングを高めたい気持ちはあるので、各スタッフのプロモーションビデオを作って公開したりしています。お店のブランディングとしては、真面目な発信をするということですね。
僕は自分のお店をどういうお店にしたいかというと、スタッフが毎日楽しく働いて「辞めたくない」と言ってもらえるようなお店です。
僕はそれだけがやりたいので、うちで働けて幸せだと思ってもらえるようなお店作りを意識しています。
吉田:僕自身がトリマーなので個人のブランディングは重要視しています。それは当店のホームページを見ればお分かりかと思います(笑)
僕はマルチーズが好きなので、マルチーズに特化してトリミングやブリーディングをしています。好きなことで影響力を持てるようにしたいですね。ただそれを見た別の犬種のお客さまからからも多くのご指名を頂き感謝しています。
お店のブランディングとして実践していることは、SNSでの発信とリアルでの出会いを大切にしていること。SNSは毎日発信していませんが、一つの記事に対して「思い」を入れてあげています。Facebook・twitterなどで情報をアップする時は、誰に何を伝えたいかをきちんと考えて記事を作ります。リアルではつながりを大切にして、格好つけずにいつでも自分の素の姿で話しています。採用面では、技術の習得はもちろんですが、ファニーテールでは流行りに流されない「本物の犬」を学べるということを意識して発信しています。
「本物を知る」ことはとても大切なことです。
ーー“本当の犬”とはどういうことでしょうか?
犬には犬種ごとにスタンダードがあるんです。それを運営・管理している機関(FCIなど)が、犬の健全性を守るために犬種によって大きさ・地面からの高さなどを定め、ブリーダーはその基準に合わせてブリーディングするのです。
流行ってる犬はスタンダードを無視して繁殖させてしまう人たちもいるので、スタンダードからズレた形になってしまいます。また、今日本ではMIX犬が売られていますが、これらは遺伝や病気のリスクを考えずに命を作り出しています。
犬が欲しい人の中には、「他人とは違う犬を持ちたい」「誰も持っていないカラーの犬を欲しい」という方もいらっしゃいます。犬を飼う理由は人それぞれで否定するつもりはありませんが、我々のような専門店が正しい「犬」というものを伝えていかなければならないと思います。ボクたちは犬と人間の「正しい関係性」を伝え・作ることが大きな仕事の一つでもあるのと考えています。
ーー最後に、お二人は経営者として、仕事とプライベートの使い分けをされていますか?
吉田:特にないんですよね。社長というのは24時間営業ですし、自分で選んだ人生なので、ゆったりしようと思いませんし。仕事が人生なんてこんな幸せなことないです。
石原:僕も同じで、好きなことを仕事にしているので、オンとオフはないですね。一番リラックスできる時が犬と眠っている時です。正月には50頭もの犬に囲まれながら寝ていますが至福ですよ。暑くて起きますけどね(笑)
あらゆる悩みに親身な対応。全てのトリマー、ドッグサロンオーナーのためのオンラインサロン
ペットへの深い愛情とそれゆえのドッグサロン経営への実直な姿勢が印象的だったファニーテール吉田大祐氏とドッグダイヤモンド石原弘之氏。
人材を確保するのが時間の経過と共に難しくなっていく日本において、お二方とも独自の経験とノウハウを用いながらドッグサロンを経営している様子が印象的でした。経営層のお話を聞く度に思うのは、現実のイメージと夢を追い求める理想の形が混在し、その中でどうやって事業を成立させていくかを必死になって考え抜いていることです。
この有名トリミングサロンオーナー2名が、これまでの具体的経験談や成功事例・失敗例、培ってきた専門知識、目からウロコ話…など、様々なテーマを深掘りして発信していくのがオンラインサロン「プレトリ」です。仕事や経営、開業に関する悩みなど、あらゆる疑問にオーナー二人が親身に答えることはもちろん、会員同士がそれぞれの得意分野で細かな情報交換・質疑応答し合える場として大好評のオンラインサロン。全てのトリマーさんやドッグサロンオーナーさんにお薦めです。