プライベートエクイティファンド運営代表者の田中博文さんがオーナーを務める『Hiroの投資銀行サロン』は、ファイナンスの論理と実践を学ぶことができるオンラインサロンです。
田中さんは「会計は過去を語り、ファイナンスは未来を語る」と言います。
かつて、銀行主導の市場でその恩恵を受けてきた日本企業。しかし東芝をはじめとする大企業の衰退が示すように、国際市場における日本企業の優位性が失われ始めていることは明らかです。
現在の厳しい経済環境を生き抜く企業には、ファイナンス・リテラシーを身につけたビジネスパーソンが求められています。
今回、『Hiroの投資銀行サロン』では「総合電機の事業評価ポートフォリオ』と題し、国内総合電機時価総額上位4社の日立製作所、パナソニック、三菱電機、ソニーを取り上げました。各社の業界分析を行いながら実践的に各社の事業評価をし、ファイナンスを読み解きました。その様子をレポートします。
田中博文プロフィール
あさひ銀行(現りそな銀行)にて、法人営業、戦略財務コンサルティングに携わり、その後サービス系ベンチャー企業にて執行役員経営企画室長として経 営企画全般、IPO準備に従事。2004年より、みずほ証券にて主幹事担当者として、多数のMBO案件含めIPO実績を残す。その後、日系証券投資銀行部 門にてM&Aアドバイザリーチームヘッド。2010年、プライベートエクイティファンドである、ジェイ・キャピタル・パートナーズを設立し、代表取締役に就任。JCP1号ファンドを運用。現在は直接投資とM&Aアドバイザリー業務を中心に活動。
EP法で実践的にファイナンスを読める
田中博文さんが事業評価を行うとき使用するのがEP(エコノミックプロフィット)法と呼ばれるものです。
「EPとは事業活動から得られた利益から、投下資産にかかる資本コスト相当額を差し引いた経済価値ですね。つまり投下した資本に対して、一定期間(短期間)でどれだけのリターンを生み出したかを事後的に計測し、企業が将来の創出するEPを現在価値に割り引いたものの挿話を求める方法です投下した資本に対して、一定期間(短期間)でどれだけのリターンを生み出したかを事後的に計測する。企業が将来の創出するEPを現在価値に割引いたものの総和を求める方法である」 田中博文公式ブログ「パナソニック事業部の資本増減施策は極めて妥当 〜事業ポートフォリオ評価で思うこと」出典: 田中博文 オフィシャルブログ
この手法の利点は、企業の業績をストックではなく、フローを捉えることができる点だといいます。つまり、企業の「これまで」の履歴書ではなく、「これから」を考えられるのです。
田中さんの言う「ファイナンスは未来を語る」の真意はここにあります。
EP法を通して自社のファイナンスを見ることができれば、自社の具体的な将来像を描くこともできる。普通の人でEP法を駆使できる方はほとんどいないそうですが、裏を返せば、EP法を扱うことができれば、ライバルに大きな差をつけることができるのです。
総合電機4社は多くの事業セグメントを持っているため、EP法を試してみるのにうってつけです。「どのセグメントが事業価値を創造し、どの事業が毀損させているのか、今後どのセグメントを伸長させ、どのセグメントを切り離していけば良いのか」を実践的かつ論理的に検討することができました。
実践的事業ポートフォリオ評価 〜三菱電機の場合
田中さんが解説を行った総合電機4社の中でも、田中さんの評価が比較的高かったのは三菱電機でした。
グラフの縦軸はEP、横軸は投下資本。マイナスのセグメントは投下資本に対する資本コストを吸収できていないので、事業価値が毀損させられていることになります。
稼ぎ頭の産業メカトロニクスが弱含みであることを筆頭に、一見すると、全体的に低調な印象を受けますが、例えば家電電気や重電システムのマイナスは、投下資本の増加が理由だと考えられます。つまり先行投資が行われているのです。営業利益の数字だけ見ても、三菱のこの戦略は推測できないでしょう。ただ、重電システムは国のエネルギー政策の影響を多分に受ける上、公的な事業であるがゆえに撤退も難しく、注意しなくてはいけないセグメントであるとも、田中さんは同時に指摘していました。
メカトロニクスで依然として優位を保っている日本は、このセグメントを強化することで、これからの国際市場でも大きなシェアを獲得できるだろうと田中さんは見ています。
それ以外のセグメントについては、表を見れば分かるようにマイナスであり、利幅の改善が必要です。
さて、EP法で三菱電機のファイナンスを見ることで、ざっとこれだけのことが分かりました。三菱電機の稼ぎ頭が産業メカトロニクスであることは現状の売上や営業利益といった数字から一目瞭然ですが、重電システムや家電電器にも注力していく姿勢を見せていることは分かりません。しかしEP法を通せば三菱の狙いが容易に読み解けます。
田中さんは三菱が好きな理由のひとつに「セグメントが日本語でわかりやすい」ことを挙げました。「事業が好調な会社は、横文字を使わないし、セグメントの入替えを行わない」のだと言います。
このようにファイナンスをつぶさに見ていくことで、企業の株価や売上、営業利益を見ただけでは分からない様々な問題点や課題、そして戦略が明らかになっていきます。
このファイナンスを読み解く力を身につけることが、厳しい市場を生き抜くための指針になることは間違いありません。
明日のランチでドヤ顔できる知識でライバルに差をつけていく
このレポートでは三菱電機を取り上げましたが、実際のオフ会では他にソニーやパナソニック、日立製作所の事業ポートフォリオ評価も行われました。「パナソニックはテスラと心中することを決めた」や「テクノロジーは矛盾を融合させること」などの言葉も飛び出し、刺激的なレクチャーが展開されました。
『Hiroの投資銀行サロン』では、誰もが知る大企業の事業ポートフォリオ評価を行うことで企業を丸裸にし、彼らの戦略(あるいは無戦略)を学ぶことができます。
サロン会員は事業会社の経営企画・財務、投資の若手担当者など企業の明日を担う有能な方々ばかりだそう。
田中さんは「明日のランチでドヤ顔できる知識をサロンでは教えている」と笑っていましたが、『Hiroの投資銀行サロン』での投稿を毎日眺めるだけでも、ライバルに差をつけられることは間違い無いでしょう。
さらに今回のようなオフ会に参加すれば実践的な学びも得られます。実際、今回のイベントでも、はレクチャー中に参加者から寄せられる積極的な質問に、田中さんがとても丁寧に答えていたのが印象的でした。
「一定の参加者が集まれば、一泊二日で合宿もしてみたい」と田中さんとサロン運営の展望も語っていました。
『Hiroの投資銀行サロン』への参加は、未来への有意義な先行投資になることでしょう。