スポーツとしての面白さと、ギャンブルとしての奥深さの両方が絶妙なバランスで混ざり合っている「競馬」。関係者たちは、ときに冷静に、ときに熱狂のなかで、馬場で繰り広げられるレースの行方を見守っています。
メシ馬さんとキムラヨウヘイさんのお二人は、若くしてこの競馬の面白さに気づき、現在ではブログやオンラインサロンの運営、メディア出演など、多方面に渡って活躍中です。
競馬予想界注目のお二人に、競馬の魅力やレース予想の奥深さを存分に語っていただきました!
競馬予想の世界にのめり込んだきっかけ
ーーお二人が競馬予想の世界にハマったきっかけを教えてください。
メシ馬さん(以下、メシ馬):
僕は祖父が馬主をやっていて、幼い頃から競馬には親しみがあったんですけど、実は20歳を超えるまではちゃんと見たことがなかったんですね。でもある時、友人に誘われてはじめてレースを観たんですが、「なにこれ、すごい面白いじゃん!」ってすぐにハマってしまって。
はじめて馬券を買ったのは、大学3年生の頃でした。2013年の安田記念で、メディアが紹介していた馬になんとなく5,000円を賭けたんですけど、あえなくボロ負けしてしましたね。買い間違えて奇跡的に当たった友人にラーメンを御馳走してもらったのですが、そのラーメンが美味しくなかった事は今でも僕の原動力になっています(笑)。その日以来、1年間馬券を買いませんでした。
その間に何をやっていたのかというと、ずっと競馬ソフトを使って過去のレース結果を分析したり、馬券は買わず、レースごとに自分で予想を立てたりしていました。あとは、個人の方々が運営している予想ブログもよく読んでいて、そのとき読んでいたブロガーの1人がキムラさんです。
そうやって1年経ったとき、「これなら勝てる」と自信がついて、実際に馬券を買うようになったんです。ただ、僕は当初から、競馬をギャンブルとして捉えていなかったですね。しっかり学べば勝てるという、ビジネス的な観点で捉えていたかも。
ーー競馬をギャンブルではなく、ビジネス的な視点で捉えていたというところが興味深いです。キムラさんはいかがでしょうか?
キムラヨウヘイさん(以下、キムラ):
僕はメシ馬さんとだいぶスタートラインが違いますね。僕以上の世代の大半って、最初に競馬に触れたきっかけになったのが、競走馬育成ゲームの『ダービースタリオン』だと思うんです。もちろん僕も、中学生頃からこのゲームにドハマりしました(笑)。
リアルの競馬にハマったのは、大学生の頃でしたね。もともとレースでどの馬が勝つかを予想するのが好きで、ネット掲示板に自分の予想を書き込んでいたんですが、それがかなり高い確率で当たっていて。その後、少しずつ周りも興味を持ち出した頃に、ミクシィで競馬予想を書くようにしたら、大当たりを連発したんです。
そうした偶然の産物がきっかけで、周りからの求めに応じるうち、個人メディアとして競馬予想をしていくことになりました。
メシ馬:
周りから求められてっていうのが、かっこいいですね。
キムラ:
いやいや(笑)。当時は素人に毛が生えた程度の知識だったんですけど、競馬の見方にはもともと自信を持っていました。
競馬のトレンドって、1年でものすごいガラリと変わるんですよ。時代時代で馬の血統が変われば、調教技術、馬主、生産者、厩舎は劇的に変化します。僕もこの10年で、予想手法はかなり変化しました。今も自分のやり方を信じつつ、その手法を突き詰め続けています。
2020年のレースのトレンドは「芝」にある?
ーー時代によって予想が変わるということですが、今年はどこに注目していますか?
メシ馬:
やはり芝の状態じゃないでしょうか。ここ最近、露骨に状態が変化していますね。馬場の芝は、JRA(日本中央競馬会)の馬場造園課というところが管理しているんですが、担当部長が変わるだけで技術力が一変して、芝の状態が大きく変わります。
競馬はトラック競技と違い、内側も外側も同じラインからスタートを切りますから、走る距離の関係上、なるべく内側を走ったほうがいいというのが通説です。しかし、今年のレースは一筋縄ではいきません。
例えば、レース開催初週だと、内側有利は変わらない。でも最後のレースでは、たくさんの競走馬が走った内側の芝は状態が悪くなり、内側を走るとなかなか記録が伸びなくなるんですよ。特に今年は、こうした事態が顕著に起こっていると感じています。
キムラ:
今年の状態は異常ですよね。去年まではフラットできれいな馬場がキープされていることが多かったんですが、今年はその方向性が、ガラリと変わったのかな?とさえ感じます。
10月4日に開催されたスプリンターズステークスというレースも、最初の想定では考えられない決着を迎えましたもんね。
メシ馬:
視認できるくらい、内側の芝がはげてましたね。実際に、昨年に続き今年もスプリンターズSに出走したモズスーパーフレアという馬のレースのラップタイムを比べてみると、スタートから前半600mまではどちらも32秒8と同じタイムだったんですが、最終的に今年のタイムは1分8秒3、去年は1分7秒1で、後半600mだけで1.2秒の差がつく結果になりました。
競走馬の足の速さ(約70km/h)を考えると、この1.2秒はものすごく大きな差です。それくらい、レース後半の馬場の状態に変化が出ていたと思います。
レース予想で勝ちたいなら「マイノリティ」であれ
ーーそんな細かいところまでチェックをしていらっしゃるんですね。では、お二人が考える「競馬で勝てる人」の特徴は、どんなところにあると思いますか?
キムラ:
競馬は基本、トータルでは負ける人がほとんどだと言われています。そこで僕が大事にしているのが、「みんなが常識と思っていることを疑うこと」ですね。
この馬は速くて強いという情報が、必ずしもレースで勝てる要因にはなるわけではありません。自分で分析して考えて、正解だと思ったら、一見おかしいと思えることでも試してみる。
僕は一見すると非常識なことを言うので、よく競馬予想界の重鎮的な人にも叩かれるんですよ(笑)。でも、みんながまだ考えついていないことを試すことで、一歩先のセオリーを生み出せると信じています。
メシ馬:
僕もキムラさんと同じで、一貫して「常にマイノリティ側であること」を大切にしています。でもそれは、ただ闇雲に非常識な考えを貫くことではありません。論理的な根拠を持って、周りが支持しない戦略を試していくんです。
さっきの芝の状態についても、毎週レースを観ている人は大抵気づくんですね。ジョッキーも芝の状態に気づいて外から走る戦略を取るようになり、こうした情報がオッズにも反映されていきます。そうすると、「内側は芝の状態が悪いから、外を走る方がいい」という考えが、マイノリティからマジョリティの意見になっていくわけです。
僕もTwitterなどで、同様の発信をするのですが、状況に応じて、あえて内側を攻めるという逆の選択をとったりもします。
ーーあえてマジョリティからマイノリティに切り替えていくんですね。
メシ馬:
僕が本格的に活動を始めた2015年当時は、まだまだ事細く競馬を分析している人が少なく、経験則や新聞の情報を元になんとなく予想を立てる人が多い印象でした。そのため2013年〜2016年あたりは、分析や統計データで圧倒的優位に立てる時代だったと思います。
しかし、2016年〜2018年は分析・統計の手法が開拓されすぎた結果、むしろ論理的なアプローチやアナログな考えでも一部、勝ちやすくなったんです。そして、2018年以降はAI等による機械的な予想がかなり主流になってきました。
ここからどうマイノリティに持っていくのか、というところなんですが、僕は論理的な思考とアナログな分析を続けて、ある程度データが揃った段階で自分専用のAIソフトの作成に取り掛かっています。そして、AIと自分の論理的なアプローチをかけ合わせて、それを武器にしていこうかなと。
キムラ:
みんな本当にAIが好きですよね。今はネットの予想サイトとかでも、人間の予想よりもAI予想の方が人気を集めているくらいです。
そういうAI人気のなかでも、僕は自分のスタンスを変えずに行きたいですね。ただ、マイノリティには、「正しい情報を発信するほど、マイノリティでいられる期間が短くなる」というジレンマがあるんです。
実際に僕が考えた理論のなかでも、当時は誰も言っていなかったけれど、今では一般常識になっているものもあります。常にマイノリティ側にいるにはどうするべきかというのは、発信者としての大きなテーマかもしれません。
予想が的中する快感は、ほかのギャンブルでは味わえない
ーーお二人は普段、どんな風に情報収集をしたり次のレースの予想を立てたりしているんですか?
キムラ:
僕がルーティンとして行っているのは、あらゆる競馬ニュースや関係者インタビューからクラブ馬主サイトまでくまなくチェックして、競馬界の今の全てを把握するというものです。
過去のレースデータや統計などのように、すぐ手に入るインスタントな情報よりも、現場の動きの方が多くのヒントが散りばめられていることもあります。例えば、本番に強い馬はなぜあんなに速いのか?という疑問に対して、単に血統が優秀なのではなく、早い段階から馬のコンディションを仕上げられる厩舎・調教師がいたからという答えがあるかもしれない。
つまり、数字にはならない情報を手に入れることで、自分だけのオリジナルな発想をすることができるんです。
メシ馬:
僕は必ず、リアルタイムでレースを見るようにしています。
よく周りから、「どうやってひとつひとつのレースをそこまで細かく記憶しているんですか?」と聞かれるんですが、それは間違いなくレースをリアルタイムで分析しているからだと思います。レース中に不利があってスピードが落ちた、内側有利のなかで外から挿し込んできた、本来前に行って逃げ切る馬が後ろに陣取ってしまったなど、レース中の情報はリアルタイムだからこそめちゃくちゃ記憶に残るんですよ。
ちなみに、僕は発走2分前に馬券を自動購入しているので、レース中は自分がどの馬券に賭けたか把握していないことが多いです(笑)。でも、だからこそレースを見ている最中でも自身の買った馬を追うわけではなく、全体を俯瞰して見る事ができ不利を受けた馬などを分析できるのかなと思っています。そして、馬券についてはレースが終わった後に試験の合格発表みたいな感じで「当たったかな?」と確かめています(笑)。
ーーそれぞれで大切にしていることが違うけれど、レースや馬が好きというのがひしひしと伝わりますね。
メシ馬:
やっぱりレースってめちゃくちゃ興奮するじゃないですか。その上で、自分が分析から導いた予想通りの結果になったときは、ものすごい快感です。この感覚は、ただのギャンブルじゃ味わえないものだと思いますよ。
キムラ:
競馬のレースというのは白黒がハッキリ出るものですが、そこにプロという責任ある立場でかかわっていると、正直楽しいという感情ではあまりいられません。おこがましい例えですけど、元プロ野球選手の宮本慎也選手が、引退会見の時に「今まで1回も、野球を楽しんだことはなかった」と話していましたが、まさにあんな境地かな…(笑)。
それでも、競馬予想そのものについては、数十万、数百万といる競馬人口のなかで、たった1つマイノリティに気づけたらと考えるとたまらないですね。
競馬予想において、キャリアも競馬歴も関係ありません。誰もがSNSで発信できるし、その内容によっては、多くの競馬ファンの注目を集めることができる。それも今の時代の競馬予想界の面白いところだと思います。
ただ過去のレースデータだけでなく、馬、騎手、調教師、馬主といった関係者の思いまでを対象に、念入りな分析をするお二人。常に少数派の立場として、競馬予想界の一歩先を開拓しつづける姿は、まさに「勝負師」の言葉にふさわしいものでした。
今よりも深く、競馬予想を楽しみたい皆さん。あえて常識から一歩抜きん出た、マイノリティの世界をのぞいてみませんか?