個人事業主として開業することを決めた時、気になることの一つは「屋号」ではないでしょうか。屋号を付けられると聞くとなんだかワクワクしますが、いざどんな屋号にするか考え始めると、なかなかいい案が浮かばずに悩んでしまう人も多いはず。そもそも、屋号をつける必要があるのか疑問に思っている人もいるでしょう。
この記事では、個人事業主が屋号を付けるべき3つの理由を解説し、付け方のヒントもご紹介します。屋号とは何かという基本的な知識や、屋号の登録や変更の方法もあわせてお伝えしますので、屋号のことで悩んでいる個人事業主の皆さんは、ぜひ参考にしてください。
屋号とは
初めに、屋号とは何かをあらためて確認しておきましょう。
屋号は名刺や看板に記載するほか、税務関連の書類や取引先に提出する、各種書類で使われる重要な存在です。さらに、クラウドソーシングなどのオンラインサービスで屋号を使う例もあります。
(参考:SAISON CARD Credictionary│「屋号」とは?個人事業主やフリーランスが知っておくべき付け方・注意点について解説)
社名との違い
屋号とは、個人事業主が使う商業上の名称です。基本的には、企業にとっての会社名にあたるもので、たとえば商店など、個人事業主が営む事業所の名前を屋号とする例も多く見られます。
社名、つまり会社の名称との違いとして、個人事業主の屋号はいつでも自由に変更ができるということが挙げられます。企業が社名を変更する時には「商号変更登記」という手続きを行うことが義務付けられていますが、個人事業主が屋号を変更する場合は、特別な手続きは必要ありません。
屋号なしでも問題ない
開業届や確定申告書には、屋号を記入する欄がありますので、開業や確定申告の時までに屋号を決めなければいけないと思っている人もいるかもしれません。しかし、屋号は必ず付けなければいけないものではありませんので、なしでも問題ありません。
ちなみに、企業は必ず社名を決めなければいけませんので、この点でも屋号は社名と大きく異なっています。
屋号印とは
おそらく請求書や領収書で馴染みがあるかと思いますが、一般的に、会社の認印には四角い形をした「角印」が用いられます。そして、その中でも個人事業主の角印にあたるのが「屋号印」です。その名の通り、四角い枠の中に屋号が表示されたものです。
角印は見積書や請求書、納品書、領収書などの対外的な書類に押す印鑑で、とても出番の多い印鑑です。こうした書類には、個人の認印でなく屋号印を押すことで、きちんとした書類という印象を与えることができます。実際、企業によっては角印の押されていない書類は、経理処理をしない場合もあると言われます。
屋号印があるだけでぐっと事業主らしくなりますので、屋号を付ける際には屋号印を作ることも是非検討したいところです。
(参考:小林大伸堂│個人事業主・フリーランスの方が作るべき印鑑はコレ!)
個人事業主が屋号を付けるメリット
すでに解説した通り、屋号は必ず付ける必要があるわけではありませんが、屋号をつけることには多くのメリットがあります。ここでは、中でも代表的な3つのメリットを見ていきましょう。
(参考:ビジドラ│信用度がアップ!屋号をつけるメリットとつけ方のポイントを解説)
屋号のついた銀行口座を開設できる
1つ目のメリットとして、屋号を決めておくと、屋号のついた銀行口座を開設できるということが挙げられます。
ただし、屋号のみの銀行口座を開くことはできませんので、実際には屋号と個人事業主の氏名を組み合わせた名義で口座を開設することになりますが、取引先が屋号名だけで振り込みを行えるようにすることも可能です。
事業専用の口座を作れば、事業用の資金をプライベートの資金と分けて管理するのに便利ですし、取引先に事業者らしい印象を与えることにもつながるでしょう。
(参考:マネーフォワード クラウド開業届│個人事業主やフリーランスの屋号にまつわるQ&A15選)
仕事内容が分かりやすくなる
屋号は商業上の名称、つまり事業内容を端的に表すものなので、屋号をつけることで業務内容が分かりやすくなるという効果もあります。
例えば、サービス内容や扱っている商品の名前を屋号に入れておけば、屋号が書かれた名刺を渡すだけで、何をしている人物なのかをすぐに理解してもらうことができます。仕事内容を明確に覚えてもらうことで、必要になった時に思い出してもらえる可能性も上がり、受注のチャンスに結びつくかもしれません。
社会的な信用を獲得しやすい
屋号をつけることの最大のメリットは、何といっても社会的な信用を得やすくなることです。屋号を持つことで、ビジネス主体としてきちんと事業を営んでいるという印象を与えることができ、顧客からの信用を得やすくなります。
屋号だけで信用を得やすくなるのか?と思う人もいるかもしれませんが、個人事業主の中には、開業届を出さず、確定申告も行っていない人もいます。そのため、屋号を決めて届け出をしているというだけで、きちんと手続きを踏んで事業を営んでいることの印になると言えます。
なお、企業によっては、税務調査対策の一環で、屋号の銀行口座への振り込みにしか対応していない場合もあるようです。
屋号の決め方
このように、屋号にはたくさんのメリットがありますので、個人事業主として開業したらぜひとも屋号をつけたいところです。とは言え、実際にどんな屋号にすればいいのかは悩みどころ。そこで、続いては屋号の基本的な決め方や注意点を解説します。
(参考:CARRY ME magazine│フリーランスの屋号の決め方とは?)
使用できない文字や名称に気を付ける
屋号には、ひらがな、カタカナ、漢字、ローマ字(大文字および小文字)、数字はどれも問題なく使えます。しかし、使用できる記号は限られており、「&」、「’」、「,」、「-」、「.」、「・」の6種類のみです。さらに、これらの記号は区切り等の目的で使われるものであるため、屋号の先頭や末尾には使用できません。
また、会社法第7条に「会社でない者は、その名称又は商号中に、会社であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならない」という決まりがあります。このため、個人事業主の屋号には、「会社」、「法人」、「Co.」のように、企業であることを示す名称を使うことはできません。その他、「銀行」、「証券」、「保険会社」といった業態を表す名称も、使用できる主体が法律で規制されているため、屋号に使うことはできません。
覚えやすく、分かりやすいものにする
屋号を決める時の最も重要なポイントは、覚えやすく、事業内容が分かりやすいものにすることです。
屋号の長さに制限はありませんが、長すぎると覚えにくく、オンラインサービスの利用時に文字数オーバーになる場合もありますので、あまり長くしない方が良いでしょう。
例えば、コンサルティングサービスを提供している場合は「〇〇コンサルティング」、企画系の業務であれば「〇〇企画」、幅広いサービスを行っている事業なら「オフィス〇〇」など、事業内容を表す名称を入れると、屋号を見ただけで何をしているのか理解してもらうことができます。
フリーランスのライターなどの場合は、ペンネームを屋号にするのも一案です。また、結婚前からフリーランスとして実績を積んできた人が結婚して姓が変わった場合などは、旧姓を屋号にする例もあるようです。
検索でヒットしやすいものにする
何かのサービスやお店を探す時、ほとんどの人はウェブ検索を使います。そのため、検索でヒットしやすい言葉を屋号に盛り込んでおけば、ウェブ検索からビジネスチャンスが生まれるかもしれません。
また、ついつい格好いい屋号にしたくなるかもしれませんが、日本人相手のビジネスであれば、日本語での検索でヒットするように、日本語の屋号にするのがよいでしょう。加えて、サービスの名称などもあまり具体的にしすぎず、ウェブ検索で使われそうな一般的な言葉を使っておくのがおすすめです。
屋号関連のドメインが取りやすい
ネットビジネスを展開する個人事業主の場合、ウェブサイトのドメインをそのまま屋号に使うことも多いようです。ドメインは同じものが2つ以上存在しないため、他と区別しやすいという利点があります。
これから屋号を決めようとしている人で、ウェブサイトの開設も検討している場合は、先に屋号にしたいフレーズでドメインが取得できるかどうか確認してみるのも良いでしょう。
また、ドメインは値段に大きなばらつきがありますので、区切りに使う記号も含めていくつか候補を出して値段を確認し、予算内で取得できそうなものを屋号にするという方法もあります。
屋号の登録方法
屋号を登録する方法は基本的に2通りです。
まだ開業届を出していない人は、開業届の所定の欄に屋号を記入して提出することで、屋号の登録が完了します。なお、開業届は正式には「個人事業の開廃業届出書」という書類で、開業から1ヶ月以内に税務署に提出することとされています。
開業届を提出済みの人は、新たに屋号を登録するための手続きは不要です。次回の確定申告の時に、確定申告書の所定の欄に屋号を記入して提出すれば、それで登録が完了します。
(参考:会社設立完全ガイド│屋号の登録方法と必要な書類とは)
屋号の変更方法
屋号を登録した後で事業範囲が拡大した場合など、後から屋号を変更したくなる場合もあるでしょう。そうした場合も、変更のための特別な手続きは必要ありません。その年の確定申告書に新しい屋号を記入するだけでOKです。
なお、1人の個人事業主が複数の屋号を持つこともできます。新しい事業に新しい屋号を付けたい場合などは、元々使っている屋号と、新しい屋号の両方を確定申告書に記載すれば、屋号を追加できます。
(参考:freeeバックオフィス基礎知識│屋号とは?個人事業主の屋号の意味について徹底解説!)
個人事業主の屋号は、決めておけば屋号印を作ったり銀行口座の名義に入れたりすることができ、社会的な信頼を得るのに大いに役立ちます。使用できない記号や名称もありますが、事業内容をわかりやすく表現した、覚えやすいものにするのが基本です。なかなか決められない人は、ウェブ検索でヒットしやすそうな言葉を選んでみる、あるいは関連するドメインを取得できるか確認してみる、といった方法で候補を絞ってみるのも一案です。
会社名と違って登録や変更も簡単なので、まずは今の事業に合った屋号を決めてみてはいかがでしょうか。