『バチェラー・ジャパン』出演でも知られる起業家・投資家の小柳津林太郎さん。元マイクロソフト業務執行役員で、プレゼンの達人として年間200回超の講演をこなす澤円さん。年間2,000食を食べ歩く“グルメ王”トヨログさん。そして、起業家でありながら近ごろは絵や執筆、茶道に打ち込む“令和の文化人”イセオサムさん。
肩書きもキャリアもてんでバラバラな4人が主催するのが、社会人コミュニティ「HSC」です。「遊びと仕事をハイブリッドしながら、楽しく生きる」というコンセプトを掲げて2019年に生まれ、今年で設立7年。10周年がうっすらと視界に入ってきました。
派手な打ち上げ花火ではなく、ゆるやかに、けれど着実に続いてきたこのコミュニティ。これまでの7年の歩みと、その先に見ている景色を伺いました。
「胡散臭い名前」からのスタート

――そもそも、HSCはどんなふうに生まれたコミュニティなのですか?
小柳津さん:もともとは、澤さんとイベントで一緒に登壇したのがきっかけです。会場を見渡すと、会社員をやりながら別の顔でも活動しているマルチキャリアな人が目立っていました。彼らと恵比寿でランチしたり焼肉を食べたりしているうちに、「こういう人たちが集まる場所をつくったら面白いんじゃないか」と盛り上がって。
当時は副業を始めると、「あいつ、どこで何やってんだ」みたいな視線を感じることもあったんですよ。だからこそ、同じ立場の人が後ろめたさなく「二足のわらじっていいじゃん」と言い合える場所が必要だと思ったんですよね。
トヨログさん:その中身をストレートに名前にしたのが、「ハイブリッドサラリーマンズクラブ」です。めちゃくちゃ胡散臭いでしょう?(笑)。でも、怪しくてダサくてストレートなネーミングのおかげで、一度聞いたら忘れられない名前になりました。
――その「サラリーマンズクラブ」から「HSC」へと、名前が短くなったのも印象的です。
イセオサムさん:そして、時間が経つにつれて副業も多拠点生活も当たり前になっていきました。こうなると、「サラリーマン」とわざわざ呼称するとかえって窮屈だよねとなり、それぞれの単語の頭文字を取った「HSC」という名称に変更したんです。運営は僕ら4人と、コミュニティマネージャーとして手伝ってくれる有志のメンバーで回している感じです。
何をしているかわからない人が集まる場所

――あえて月額制のオンラインコミュニティにしたのは、理由があるのでしょうか?
小柳津さん:無料のコミュニティにすると、どうしても変な空気が入り込んでしまうと考えました。少しでもお金をいただくと、それだけで場の民度が保たれる。
……とはいえ、「人からお金をもらうこと」そのものに、ストレスを感じるのも避けたいと思いました。実際、お金をもらう以上はちゃんとおもてなししなきゃと気負いすぎて、自分をすり減らしていた時期もあったんです。運営している自分たちが楽しくないと、絶対にコミュニティは続かない。そこに気づいてから、ずいぶん楽になりましたね。
トヨログさん:続けるための工夫でいうと、部活動もそうですね。僕たちはみんな、長く同じことを続けるのが苦手で(笑)。そこで、各々が興味のあるジャンルで部活をつくって活動しています。ゴルフ部、読書部など8つくらいあって、グルメ部が最大勢力になっています。ちなみに、僕はグルメ部部長、会長を務めてきました(笑)。
イセオサムさん:参加しているメンバーの属性も、ほんとうにバラバラです。推し活のビジネスを始めようとしている人、30カ国以上を旅してきた英会話コーチ、写真スタジオの経営者、航空会社からサウナの広報に転身した人、M&Aを手がける人など……。
「自分でも、何をやっている人なのかよくわからなくて」なんて笑っている人が、居心地よさそうに交流を楽しんでいる。それがHSCです。
続けてきたことでもらえたご褒美

――活動を通じて、大切にしてきたことや意識してきたことはありますか?
小柳津さん:ここ最近、すごく意識しているのは「継続」という言葉です。僕は最近、仲間の手を借りつつ放置気味だったYouTubeチャンネルを再開したんです。その仲間から、「まずは毎日投稿することが大事だ」と言われて、そのとおりだと思いました。
澤さん:僕は音声メディアのVoicyを、8年間1日も休まず続けています。個人で運営するオンラインサロンもだいぶ長いですが、特別なことをしている感覚はまったくない。むしろ、やめ方がわからないから続いているというのが正直なところです(笑)。ただ、特別な才能がない人間にとっては、続けることそのものが一番の武器になると思います。
小柳津さん:同感で、続けたことで見ることのできた光景は確実にあると思います。たとえば、「HSC」には在籍6年になるメンバーがいるんですけど、彼女は7年間会社員をやったのち、HSCでいろんな人の刺激を受けて独立しました。そこから自分のサロンを3年半続けて、会社を立ち上げるに至りました。
彼女のように、誰かの人生が変わっていく瞬間に立ち会えるのは、続けてきた僕らへの何よりのご褒美です。
トヨログさん:最初の3年で解散していたら、こうした姿は絶対に見られなかったですよね。
小柳津さん:主催メンバーは、毎週30分から1時間くらいオンラインでミーティングしています。話の中身は7割が雑談で、2割が本業のしんどい話、1割が悩みの共有(笑)。そうやって肩肘張らずに続けた先で、「まずは10年やろう」と決めているんです。10年経ったら、きっと何かが見えるはずだと。
澤さん:だから、「HSC」は一度抜けてもまた戻ってこられる場所にしたいと思っています。世の中の変化は“荒波”と表現されますが、荒波は海面より上にしかないので、船に乗っていたら大変だけど、魚にはあまり関係ないですよね。
コミュニティはある意味、現代社会にとって「魚として生きられる場所」だと思うんです。荒れ狂う海面での日々に疲れたら、少し潜って仲間と交流し、また泳ぎ出す。そんな「戻ってこられる場所」として、ずっとあり続けたいですね。
10周年のその先へ

――これからのHSCは、どこへ向かっていくんでしょう。
澤さん:AIが当たり前になると、タスクをこなす能力の価値はどんどん下がっていく。そうなると、最後に効いてくるのは“人間味”であり、「他人とうまくやっていく力」なんですよ。これは、ただ仲良くするということではありません。馬が合わない人とも適切な距離感を保ちながら、うまくやっていく能力です。
これからの時代は、この力がいちばん問われるでしょう。そして、HSCのようなコミュニティは、その練習をするには最適な場所です。なにしろ主催の4人からして、全員タイプが違いますから(笑)。ここに居続けるだけで、自分をアップデートし続けられると思います。
――AIの時代だからこそ、人の集まる場所が効いてくると。
澤さん:昔カメラが発明されたとき、画家のポール・ドラローシュは「今日を限りに絵画は死んだ」と叫んだそうです。のちに思想家のヴァルター・ベンヤミンも、複製技術によって芸術の「オーラ」が失われたと論じた。
でも実際はどうだったか。カメラという新しいコンテキストを受け入れた途端、表現の選択肢はむしろ広がりました。写実的な絵画はちゃんと残ったし、シュールレアリズムのような新しい表現も生まれたんです。
AIもそれと同じで、「仕事が奪われる」と嘆くんじゃなくて、「選択肢が増えた」と捉えて、新しいコンテキストごと受け入れたほうがいい。パスカルは「人間は考える葦である」と言いましたが、AIはその「考える」を外部化してくれました。この時代の変化が、人間のつながりをもっと良くするためのコンテキストになり得ると僕は思っています。
イセオサムさん:僕なんて、基本的に働きたくない人間なので(笑)。AIのおかげで働かなくていい時間が増えるなら、その時間をどう過ごすかが人生の面白みにかなり影響すると思います。まずは僕たちが実験台になって、“ちょっと先の生活”を先に体験してみる。「HSC」が、その実験結果を分かち合える場所になれたら、最高ですね。
小柳津さん:10周年は目標でありつつ、僕たちにとってはただの通過点でもあります。その先もずっと、この場所に関わった人が変わっていく様子を見届けていきたい。焦らず、気持ちの余裕は手放さずに、ゆるくこの場所を運営し続けていきたいです。

働き方が多様化し、AIによって既存のライフスタイルが大きく変わろうとするいま、「この生き方でよかったのだろうか」と足元が揺らいでいる人は多いと思います。だからこそ、HSCの皆さんが口々に語る「続けることで見える景色がある」という言葉は、これからを生きる人にとってとても温かく力強い指針になる気がします。
華々しい成功譚ではなく、ゆるく楽しむことを軸に7年を積み重ねてきたHSC。荒波の上で気を張り続けるのに疲れたら、少し海中に潜って仲間と笑い合える時間を作ってみるのはどうでしょうか。そして、10年目のHSCが見せてくれる景色を見てみませんか?



