櫻井秀勲さんは出版界で「伝説の編集長」と呼ばれる人物。松本清張、川端康成、三島由紀夫といった著名な作家と親交を持ち、31歳で女性週刊誌『女性自身』の編集長に抜擢。『女性自身』を毎週100万部も発行するほどにまで成長させました。そこから50年以上を経て、今なお時代を作り続けている櫻井さんに、現代の多くの人が悩んでいる「人脈の作り方」について伺いました。
著名な作家との交流秘話
─櫻井先生は著名な作家と親交が深かったと聞きます。特に松本清張さんとは運命的な出会いだったとか。
私は、東京外国語大学を卒業後、講談社に入社し、1953年に子会社の光文社へ転属となりました。その年に偶然、松本清張さんが『或る「小倉日記」伝』で芥川賞を受賞しました。
その頃、清張先生は九州に住んでいましたが、私は手紙を出して東京に出て来るよう勧めたんです。
─その頃というと、櫻井さんはまだ、新入社員ですよね?
その通りです。大衆雑誌の一編集者。配属されて1週間かそこらの頃でした。そうしたら清張先生から「櫻井秀勲編集長様」と返事が来てね。
私が書いた手紙が爺さん臭かったのか、清張先生が勘違いしてしまって(笑)。すると本物の編集長が「ちょっとこい」と私を呼びつけて、「編集長とは何事か!」と怒られました。でも、私は自分のことを編集長と偽ったわけではないですからね。私の方がびっくり仰天ですよ。
─そこから親交がはじまるわけですね。
そこから、私は女性週刊誌『女性自身』の編集長になり、週刊100万部発行を突破して日本一の雑誌に育てました。すると清張先生は「櫻井、編集者はもういいじゃないか。書く方に回ればどうだ」と言ってくれて、それで55歳のときに、『女がわからないでメシが食えるか』を刊行したら、シリーズ40万部を越える大ベストセラーとなりました。
─それは運命的ですね。川端康成さんについてはいかがですか?
川端先生は何もしゃべらない方でしたね。連載原稿の依頼で先生のお宅にお邪魔したのですが、テーブルの前に座ると、先生は頰杖を突いて私の方をじっーと見つめるんですよ。それをされたら、もう何をしゃべっていいのかわからない。何度行っても同じ。だから他社の編集長は川端先生のところに行くのを嫌がっていたんです。ですから、私は「なんとかして、この先生を陥落させたい」と思ったんです。
それで、いろいろと話して行くうちに、川端先生は二つのことに反応すると解りました。
ひとつは芸能界のこと。川端先生は真面目で純文学の方だから芸能界の話などに興味はないだろうと、私も他社の編集長も高尚な話ばかりしていたんです。でも、それではダメだったんですね。
もうひとつは皇室のこと。私は『女性自身』で皇室の取材は数多く手掛けていたので、話題は豊富でした。
こうして、芸能と皇室の話で攻めた結果、川端先生と親しくなることができて、三度目の訪問で連載が決まったんです。
─なるほど、櫻井さんの執念が連載につながったのですね。では、三島由紀夫さんは?
三島先生は兄貴みたいな存在でしたね。三島先生も私を弟のように接してくれました。あまりにも親しかったので、他の編集者から「櫻井は三島先生のところに行って、仕事をしないで遊んでいる」と嫌味を言われたことがありますよ(笑)。三島先生は私のことを、気張らずに普段の姿をさらけ出せる存在だと思ってくれていたようです。
三島先生とは「文学の話はしない」という約束事がありました。何故なら私の文学論はレベルが低いから。
でも、それを言われたときは悔しくも恥ずかしくもなかった、自分自身も思っていたことですからね。
普通なら、三島先生に原稿を依頼するのは純文学を扱っている編集者。そんな編集者は大学の文学部を卒業して文学を読み込んでいます。でも、私は大衆文学を扱っていましたから、敵うわけがない。レベルが違うというより、専門が違いますからね。
─文学の話をしなくとも三島さんとつき合っていけたのですか?
三島先生からは「女のことを知りたい」と言われました。「小説のなかでの女性の描き方に不自然なところがあれば指摘してくれ」と。私は後に『女がわからないでメシが食えるか』をヒットさせた人間ですからね。女のことなら任してくれと引き受けました(笑)。三島先生は女のことは櫻井の方が詳しい、と思っていたようです。
─櫻井さんには「女性のことは詳しい」という武器があったから三島先生とつき合えたんですね。
男性が男性にモテるのは難しい
─作家の先生方とのつき合い方を聞いていると、「櫻井流 人脈の作り方」が少しわかったような気がします。
皆さん間違っているんですよ。「人脈」というのは「大勢の人を知っていること」ではないんです。「人脈」とは「自分よりワンランク上の人たち」とつき合うことです。ほとんどの人は「人脈と呼べるのか?」という人を「人脈」だと勘違いしています。
─なるほど。それは言えてますね。「人脈」を作るために必要なのは、川端さんのときのように「相手のニーズを知る」ことでしょうか? それとも三島さんのときのように「自分の武器を持つ」ことでしょうか?
両方でしょうね。「自分より上の人たち」は忙しい人たちです。会ってくれたとしても、相手のニーズを知らなければ話を聞いてもらえない場合もある。そして、自分に武器=魅力がないと、そんな人たちは会おうとも思わないでしょう。
私がよく言っているのは、「人脈を広げたければ、自分の時間は相手に総て与えよ」ということです。清張先生のところには日曜日に行っていました。休みの日は他社の編集者が来ないのでゆっくりと話ができるから。「日曜日は休みたい」と思うのではなく、人が休んでいるときこそがチャンスと思うこと。そして、自分の時間を相手に差し出すこと。そこまでしないと人脈なんてできないと思いますね。
─では「相手のニーズを知る」具体的な方法を教えてください。
やはり、自分が相手に魅力を感じていないとダメです。営業の方が取引先に行くとき「あのバカのところに行く」みたいな事を言う人がいるかもしれませんが、そんな気持ちでは上手くいくわけがありません。相手に接するときは、尊敬に近い興味を持つことが大事です。「あなたのためなら何でもします」と言う人間を嫌がる人はいません。
─同様に「自分の武器を持つ」具体的な方法も教えてください。
相手に「こいつには将来性がある」と思わせること。自分の将来性を感じさせるためには、時間をかけて勉強しなくてはいけません。私は作家のところに行くときは必ず、著書を全冊読んでから行きました。相手が会社員なら話題のビジネス書は読んでおく。ビジネスではいろいろな話題が出ます、どんな話でもついていけるか、いけないかで相手の反応は違ってくるものです。
「私には人脈がある」と言う人がいますが、「そんなバカな」と思います。何故なら、自分の武器というものはそんなに沢山あるわけがないから。つき合える人の数はおのずと限られてくるものです。
─櫻井さんの武器のひとつに「モテ」があると思いますが。
皆さんモテようと一生懸命ですが、モテる人間というのは、何もしないでもモテるんです。存在自体がモテるんですよ。三島由紀夫先生がそうでした。
女性はその人のおしゃべりなどで喜ぶわけではなく「男性から可愛がられている」という事実が女性にとって大事。なので、モテたければ男性は女性をリスペクトすることです。
─男性とのつき合い方も女性のつき合い方も一緒の様に感じます
そうです。でも、男性が男性にモテる方が難しい。女性だと何かプレゼントするなどのテクニックでモテることはありますが、男性はそう簡単にはいきません。
─人脈もモテも「相手のニーズを知る」と「自分の武器を持つ」が大事なんですね。
教養と知識を身につけると世の中は楽しくなる
─櫻井さんのオンラインサロンではどのようなことが得られるのですか?
今の人たちは実学主義です。セミナーなどで人気なのは「億万長者になる方法」で、そこに集まる人の目的は「お金」。でも、お金を持っていれば人生は満足か、と言うとそうではなく、お金を持っていても世の中上手く行かないことはいくらでもあります。私は実学主義に一石を投じて、教養や知識を身につけた方が、世の中は楽しくなる、ということを伝えたいと思っています。
─「自分の武器を持つ」につながることですね。
その通りです。自分に教養がないと自分よりワンランク上の人たちともつき合うことは叶いません。
私は、成功するための方法を教えたいわけではないんです。もちろん、私が成功した体験は教えることができます。「自分はこうやって成功した」という体験は伝えるので聞いて知って欲しいと思います。でも、その体験を参考にして自分の考えを持つことがより一層大切です。
それと、質の悪い成功体験を聞いてはダメです。「私はこうして億万長者になった」と言う人でも、すでに億万長者ではないこともある得る。「この人の言うことを聞いて大丈夫か?」ということはいつも考えないといけません。1回の成功体験だけを何度も言う人も疑った方がいいかもしれませんね。
なにより、成功することを考えるのではなく、教養を身につけることを考える。そうすることで自分よりワンランク上の人たちとつき合えて、その人脈が成功につながる、というのが私の伝えたいことです。
─ほかにはどのようなことが得られますか?
あとは「時代の読み方」を伝えたいと考えています。人脈の作り方を知るよりも、時代の読み方を知ることが大切です。
時代の読み方は将棋に似ています。将棋は相手より何手先を読めるか、で勝負が決まりますよね。つまり相手より一手でも多く読めば勝てるわけです。「時代を読む」とはそういうことです。
時代の読み方が知りたければぜひ、私のオンラインサロンへ。
─モテる方法も知ることができるのでしょうか?
モテる方法は「櫻井のすべてーいくつでも輝ける人生のつくり方ー」ではやりません。モテる方法は別のオンラインサロンでやる予定です。それは「ゴン×櫻井のモテモテ塾」というオンラインサロンで、6月27日にオープンさせる予定です。多くの方に参加していただける様に、月額も低めに設定しています。
また、他にも〇〇×櫻井のオンラインサロンをいろいろと計画中です。さまざまな人に協力してもらいながら、私の引き出しを発信して行く。たくさんのオンラインサロン作ることで大きなコミュニティを形成したいと考えています。
オンラインサロンでさらに深い学びを
出版界で「伝説の編集長」と呼ばれる櫻井秀勲さん。どんな質問に対しても的確に、そして明確に答えてくれました。また、櫻井さんの発する言葉には自身の経験と体験から導き出された重みがあり、思わず引き込まれます。
筆者自身、人を沢山知っていることが「人脈」だと思っていたことは反省です。少ない人数でも互いにリスペクトできる人間関係を築いて行きたい、と思いました。