これから夏に向けて、おでかけの予定も増えてくる時期。何も情報を入れず、気ままにレジャーを楽しむのもいいですが、しっかり予習した上で、その分野に詳しい専門家に案内してもらったら、それは何倍も楽しくなる可能性があるのでは? …という仮説のもと、今回CANARYでは、生物学者の池田清彦さんと一緒に、高尾の自然を楽しもうという特別動画企画をお届けします。動画は最後にお届けしますが、その前に、当日どんな流れで池田さんに同行いただいたのか、動画に含まれている内容など含め、簡単にレポートします。
いけだ・きよひこ●1947年 東京都生まれ。生物学者。専門の生物学分野のみならず、科学哲学、環境問題、生き方論など、幅広い分野に関する70冊以上の著書を持つ。現在、フジテレビ系『ホンマでっか⁉TV』に出演中。また、「まぐまぐ」で、メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』を隔週で配信中。虫とお酒をこよなく愛し、カミキリムシの世界的な採集家でもある(ご自宅には800を超える標本箱があるとのこと)。
13時00分《高尾599 ミュージアムで予習》
平日の昼過ぎということもあり、登山客も程々に。鳥の鳴き声、小川のせせらぎ響く長閑な高尾山口駅前。そこから徒歩約4分にある、高尾599 ミュージアムで池田氏と待ち合わせ。高尾599 ミュージアムは、高尾山の生態系・歴史・文化を映像や展示を通じ発信、共有を目的とした、まさに”予習”にピッタリの施設。さらに池田氏は本館の名誉館長を務めている。
「晴れて良かったねぇ」「じゃあ一緒に観ていこうか」と、笑顔の池田氏と合流。展示を前に、この季節にみられそうな動植物(虫が中心)とその生態を、およそ30分たっぷりと教えていただく。
タカオキリガという蛾は、高尾山で最初に発見されたからこの名前がついたんだけど、もう何年も採れてない。再発見されればビッグニュースだよ。
この時期はテングチョウが発生し始めていて、今日もたくさん見られると思う。こいつの幼虫は榎を食べるから、自宅で作ってる榎の盆栽があいつに食われて丸裸にされたよ(笑)。
ヒメウラナミジャノメという蝶も今の高尾ではよく見るね。幼虫の顔がね、可愛いんだよ。リスみたいで。
高尾山といえばムササビが有名なんだよね。八王子にある、薬王院に屋根裏に巣を作っているんだ。夜行性だから昼の観察はなかなか難しいけどね。
高尾599 ミュージアムについて)予習のために立ち寄るのもいいし、下山後の復習やひと休みにもいいよね。館内は冷暖房完備で快適だし、入館無料だからフラっと入ってコーヒーなんか飲んでね。ただ、お酒が出ないは残念(笑)。
【施設紹介】
高尾599 ミュージアム
〒193-0844 東京都八王子市高尾町2435番3
13時30分《高尾の自然散策に》
「じゃあ一緒に虫でも捕りに行ってみようか?」と眼前の高尾山を背に一同は北へ。近場で楽しめる、裏高尾町へ向かう道すがらにあるという虫捕りポイントへ向かう。”高尾山”での虫捕りはというと、日影沢から道なき道をゆく秘密のルートがあるらしい(この日は断念)。
「あそこにアオスジアゲハがいるよね。楠を食べる。春型でまだ小さいね。」徒歩0分で早速、蝶を発見。カメラを回す暇なく解説が始まる。
動画では惜しくもカットされてしまった移動部分でも、沢山のお話をいただいた。虫についてはもちろん、クルミやホオノキ(飛騨高山地方の郷土料理「朴葉味噌」にその葉が使われる樹木。フチグロヤツボシカミキリという綺麗なカミキリムシがやってくるらしい)といった木々や、キジバト、キセキレイといった鳥。小川で見かけた魚、目に見えるもの全てに丁寧な解説をいただく。
ときに解説対象は自然を飛び越え、近くを走る(京王)高尾線の起源から、2015年に高尾山口駅前に開業した京王高尾山温泉まで発展。もはや”歩く高尾の歴史書”といった趣。いよいよ「今、走っていったレクサスは、LXといって……」と、車道を走る車を解説されたときは、さすがにスタッフ一同大笑い。先生、知識幅広すぎです(笑)。
14時00分《ポイント到着・昆虫採集》
虫取りポイントに到着すると、虫取り網(釣りのタモ網を改造した7mのもの。最長で13mまで伸縮するものも所持)、たたき網(竹刀をばらして自作したもの)、捕獲した蝶を傷つけないよう保存する三角紙などが入ったポーチ、メガネ型拡大鏡(100円ショップで購入)などをテキパキと準備する池田氏。直後、サラリとホタルを捕獲する。どうしてそんなに早く虫を発見できるのだろう?
「長年やってるからね。この虫は何を好むか、食草などを総合的に知った上で、あたりをつけつつ探してる。ちなみに視力は昔からいいんだよね。今は左が緑内障にかかって悪くなっちゃったけど。右目は今でも1.2あるね。50代の半ばまでは2.0あったんだよ。20代の頃は3.5くらいあったんじゃない? 昔、体育館とかで視力検査をやったけど、入った瞬間に全部わかったから(笑)。」
捕獲されたアカボシゴマダラ
長年の知識と勘と持ち前の視力で、アカボシゴマダラ、テングチョウ、アカシジミ、ヒメウラナミジャノメなど、次々と発見しては捕獲していく。この日、特に多く見られたのがキアシドクガ。
「キアシドクガはだいたい5月から6月に発生するんだけど、去年から全国的に大発生を始めていて、高尾にもやたらにいるね。幼虫はミズキという木を食草にしているから、大発生して木が丸坊主にされることもある。ドクガなんて名前がついてるけど、幼虫にも成虫にも毒はないし、色も白いから遠目でみると綺麗だよね。」
虫捕りのほかにも、桑の実を皆で食べてみたり。高尾の自然(と池田氏の解説トーク)を大いに楽しむ。
15時30分《高尾山口駅方面への帰路》
帰りの道中では、虫取り旅で遭った怖かった話で盛り上がる。熊に遭遇した話。タイで象に追いかけられた話。一番怖かったのはベトナムのトイレでの体験だそうだ。
腹痛に襲われトイレにいってドアを開けたら中は真っ暗……勇気を振り絞りドアを閉め、目を凝らしてみると、壁にはゴキブリが50匹くらいみっちりついてて、それらが一斉に飛散。パニックになりながら、何匹かに体を這われながら、用を済ませたという。……このあと予定してる蕎麦屋の前に聞いておいて良かった。
16時00分《蕎麦屋『高橋家』でインタビュー》
170年以上の歴史を持つ、高尾山でも最も古くからある蕎麦屋『高橋家』にて、車で来た池田氏の残念そうな言葉を聞きつつ、ノンアルコールビールで乾杯。蕎麦に舌鼓を打ちながら1時間ほどインタビュー。
今日の散策を振り返りつつ、改めて虫の魅力や、ご自身のこと、主催するオンラインサロン「池田清彦のあなたも自由人になろう」と、そのテーマである「自由に生きること」など、ざっくばらんにお話しいただいた。詳しくは以下の動画にてどうぞ。
【施設紹介】
高橋家
〒193-0844 東京都八王子市高尾町2209
【編集後記】
知識があると自然はもちろん、普段の景色さえここまで見え方が違うんだと、同行中は目からウロコの連続でした。自然を楽しむに”予習”は大変有効だと分かった一方、ここまで深く楽しむには専門家の同行、何なら池田氏以外には再現不可能な”解説ショー”であった一面も正直拭えず(笑)。ジョークも交えつつ、一日余すところなく解説いただいた池田氏には感謝しかありません。楽しかったー。
オフラインでは今回の企画同様、池田氏による高尾ミュージアム案内や高尾周辺の散策体験も予定(日程などは未定)とのこと。オンラインサロンに入会して、あなたも自由人の仲間入りをしてみては?