子どもを自分の支配下に置いて、精神的に追い詰めていく「毒親」。毒親の仕打ちによって心が傷付き、自分を愛することができなくなったと悩む人は後を絶ちません。
そのような悩みを抱える方にとって救いの場となるのが、『ひだまりサロン〜親のこと、家族のことで悩む人のコミュニティ〜』です。自身も毒親に育てられた経験を持つという、サロンオーナーの宮澤那名子さんにお話を伺いました。
人生のテーマは「母の機嫌を損ねないこと」
―まずは、宮澤さんが経験された毒親エピソードを教えてください。
父、母、姉、私の4人家族の中で育ち、小さい頃からバレエやピアノ、バイオリンなどたくさんの習い事をさせてもらいました。中高は私立の女子高に通い、大学は声楽科。現在はソプラノ歌手として活動しているので、傍から見ると何不自由なく育ったと思われるかもしれません。
しかし、一人暮らしを始めるまでの29年間、一度も自由だと感じたことはありませんでした。母親が非常に情緒不安定で、スイッチが入ったら手に負えなくなってしまうほど怒り狂うタイプの人でして。友だちと一緒にごはんを食べたいと言っても激怒されてしまうので、約束を断るか、食事して帰ってから家でも頑張って食べたりしていました。高校時代、文化祭の準備で放課後に残る、なんていう事もできませんでした。
ささいな事がきっかけでも、「実の娘にここまでひどいことを言えるものなのか」と思ってしまうほどの暴言を吐かれるので、とにかく母の怒りのスイッチを入れないことを第一優先に生きるようになりました。人生のテーマは「母の機嫌を損ねないこと」だったんです。
―それは辛いですね。身近に相談できる人はいたのですか?
幸い、姉も父も母がおかしいと思ってくれていたので、愚痴を言い合ったり相談したりできていました。でも、父はストレスが原因で早くに亡くなってしまいました。恐ろしいことに、毒親は人を傷つけるだけでなく、人をそこまで追い詰めることもできるのです。
―そのような環境から脱出するきっかけは何だったのでしょうか。
実は、大学を卒業してからも厳しく門限を設定されていたんです。それでは飲み会にも行けないし、社会人としてのお付き合いが一切できません。そこで母に、「いつまで門限があるの?」と勇気を振り絞って聞いてみました。すると、「一生」と答えられて。「ああ、このまま母のそばにいる限り、一生支配下に置かれるんだな」と目の前が真っ暗になったのを覚えています。
そこからは何をしていても涙が止まらなくなり、「生きている意味なんてない、死んでもいい」と毎日思っていました。うつ状態で精神的にも限界が来た時に、ふと、「一度だけでいいから自分を一番に考えながら生きてみたい」と思ったんです。その決心がついてから、実家を出て一人暮らしをするようになり、母の呪縛から逃げることができました。
―説得するのは大変だったのではないですか?
実のところすごく大変でした。「お母さんのせいで自由に生きられない」なんて言うと、絶対に怒りのスイッチを踏んでしまうので、母を絶対に否定せずに自分の思いを伝えようと作戦を練りました。そこで、「私も社会人だし、いつまでも親に甘えていたらダメだと思うから、一人暮らしをしたい」と説得してみたんです。一人暮らしの家も、母を安心させられるようにしてと、実家から3分ほどの距離の物件を選びました。
すると、意外にもあっさり「それもそうね」と認めてくれたんです。普通の人からすると、実家から3分の距離なんて近すぎるし、一人暮らしの意味はあるのかと思われるかもしれませんが、私にとってはそのたった3分の距離が大きな救いになってくれました。
―実家を出てからの生活はどのような変化がありましたか?
実家を出てからは母とも適度な距離を置けるようになったので、大分関係も改善されてきています。ただ、それまですべてを母基準で考えながら生きてきたので、始めのうちは自分自身で何かを決めるということができずに困りました。
冗談ではなく、今日食べるものや、着る洋服すら「母ならどちらがいいと言うかな」と考えてしまい、自分で何一つ決められなかったんです。それだけ、自分を殺して生きていたんだなと気づきましたね。
毒親の種類は「過干渉型」と「放置型(ネグレクト)」
―毒親にはどのようなパターンがあるのでしょうか。
大きく分けて、「過干渉型」と「放置型(ネグレクト)」に分けられます。「過干渉型」を細分化すると、「支配型」「暴力型」「子ども依存型」になります。
私の母は「過干渉型」の「支配型」でした。これは自分の思い通りにいかないと怒り狂うタイプの毒親です。「暴力型」は怒りを暴言ではなく暴力や物への八つ当たりで表現するタイプで、「子ども依存型」は成人してからも子どもの行動に干渉しすぎるタイプです。就職や結婚はもちろん、結婚後の生活にも過干渉になるようなパターンで、40代、50代になっても抜け出せないという人もいます。「放置型」はごはんを食べさせないほどは放置しないものの、下着や洋服を買い与えないといった行動パターンが見られます。
毒親は虐待ほど過激ではないので、習い事にも積極的に通わせる家庭が多く、外から見ると普通の家族だと思われがちです。そのため、人に相談しても「そんなのよくある悩みだから」といったように、深刻にとらえてもらえないことも多いです。
―毒親に育てられた経験から、心理学を学ばれたそうですね。
はい。自分らしく生きていきたいと思って一人暮らしをしたものの、目の前にいない母の顔色を窺ってしまうほど身についていた「他人軸」と、ありのままの自分に価値を感じられない「自己肯定感の低さ」に悩んでいました。
そこで、これらを解消しなければ自分の人生を生きていけないと考え、心理学を猛勉強して心理カウンセラーの資格を取得しました。
―毒親の悩みを解決するために役に立つ心理学の考え方はありますか?
まず、「自分の感覚を見過ごさないようにする」ということです。毒親育ちの人は、親の機嫌を損ねないように自分を殺して生きてきています。そのため、喜びや悲しみなどといった自分の感情、感覚がマヒして分からなくなってしまっている人が多いのです。「今、少しイラっとした。それはなぜ?」「これをしている時は楽しいな」など、自分の感情の動きに敏感になることが、自分自身を取り戻すための第一歩になります。
また、「自分でコントロールできない領域をどうにかしようとしない」ということも大切です。毒親育ちは育ってきた環境の影響で、相手の感情の機微が手に取るように分かるほど空気を読める人が多いです。ですから、自分の行動に対して相手がどう思うかをものすごく気にするんですね。
しかし、相手の考え方や感情は自分でコントロールできるものではありません。「相手に分かってもらおう、変わってもらおう」と思い、そこにエネルギーを使い切ってしまう方が多いのですが、人を変えることは基本的にできないので、かえって自分が傷ついてしまうという結果になりがちです。それなら、自分でどうにかできる領域にエネルギーを注いだ方がよっぽどいいんですよ。
一人暮らしをして環境を変えたり、人に思い切って頼ってみたり。他人の目線から自由になって、自分自身が変わっていくと、毒親との関係性にも変化が現れるのだと思います。
毒親を連鎖させないために、笑顔で生きて
―サロンメンバーの毒親エピソードを教えていただけますか。
ある方は、中学生の時に毒親のストレスで摂食障害になってしまいました。そこで母親に相談したところ、「近所の人に知られたくないから、病院なんて行かないで」と拒否されてしまい、仕方がないので自分のおこづかいを使って自力で病院に通って治療していたそうです。そこから、自分を大切にして生きていきたいと思い、母親と距離をとるようにしたとのことでした。
別の方は、まさに「マウンティング家族」といった環境で育ちました。母親も姉妹も全員でお互いを見張りあい、幸せそうにしていたら全力で引きずり落とすといったように。その方が結婚することになった際は、もちろん面白くないと思われて、無理やり地味婚にさせられたそうです。結婚式では夫の家族に自身の悪口を言われまくったそうで、義両親から「辛かったんじゃない?」と心配されたことで自分の境遇の異常さに気づけたとのことです。
―毒親育ちの人は、自身の子育てで苦労されることも多いのですか?
はい。毒親は連鎖しやすく、自分の子どもに対しても同じことをしてしまうというケースが後を絶ちません。自分ができなかったことを子どもがしていると、嫉妬からイライラしてしまうのはある意味で仕方がないことです。その感情を否定するのではなく、自分の中にわき上がった感情に気づいて冷静になってほしいと思います。
また、毒親育ちの自己肯定感が低くなりやすいのは、親が楽しそうに生活していないのを見てきたからというのも大きな原因になっているんですね。だから、生きることに肯定的でなくなってしまうんです。毒親にならないためには、自分自身が楽しそうに生きる姿を子どもに見せてあげることが大切になります。
毒親で悩む人が集い、気軽に相談できるサロンへ
―オンラインサロンでの活動を教えてください。
私は、毒親の悩みを相談できる掲示板を色々見てきたのですが、共感できるものが少なかったんです。そこで「同じ悩みを抱えた人が集まれて、信頼できる居場所を作ろう」と思い、オンラインサロンを立ち上げました。
ちょっとした悩みでも自分の中に貯め込まず、信頼できるメンバーに相談できるサロンです。毒親育ちでないと共感できない悩みや、人には相談しづらいことも、ここでは気軽に語り合えますよ。
また、サロン上ではカウンセリングも実施しています。心理学では怒りの原因は悲しみだと考えられており、その気持ちをうまく表現できないからイライラしてしまうんですね。自分自身で処理できない感情や、なぜ親はこんなことを言うのかといった悩みも丁寧に分析して、解決への後押しができればと思っています。
―読者へのメッセージをお願いします。
オンラインサロンをはじめとするSNSが発達した世の中では、それが原因となる悲しい事件が起きてしまうこともありますが、その反面、SNSで人を救うことができるとも思っています。
今毒親で悩んでいる方々の親世代は、まだSNSが盛んではない時代だったので、苦しみや悩みを気軽に相談できる場がなかったと言えます。どうしようもない想いや憤りを抱えたまま、誰にもSOSを出すことができなかったというのが、「毒親」になってしまう原因の一つだと思うのです。
今はスマホ一つあれば、同じ悩みを抱える人とつながることができます。誰かに相談することで気持ちが楽になったり、自分を変えるヒントがもらえたりします。それだけで、毒親予備軍は少しずつ減っていくのではないかと思います。
私の家族はいつも誰かが怒っていて、泣いていて、イライラしていて、家族の笑顔の時間がほとんどありませんでした。でも、オンラインサロンをはじめSNSを使った活動が、毒親を減らし、それぞれの家族の笑顔の時間を増やしていくことにつながると信じています。
毒親の連鎖を断つためには、ちょっとした悩みであっても誰かに吐き出すことが大切だと語る宮澤さん。家庭内の複雑な苦しみだからこそ、同じ境遇で生きてきた人たちにしか理解できない側面がたくさんあるのだと思います。
毒親との関係に悩んでいる方や、自身が毒親になっているかもしれないと悩む方は、オンラインサロン『ひだまりサロン〜親のこと、家族のことで悩む人のコミュニティ〜』で同じ境遇の仲間とつながってみてはいかがでしょうか。あなたの悩みを解決するヒントが隠されているかもしれません。