夫にシンガポール赴任辞令が出た日、私は秒速で一緒に行くことを決めました。当時、0歳児と3歳児の子どもたちが別々の保育園に通っていて、両立生活は日々がパツパツ。夫が単身赴任でいなくなっては今の生活は成り立たないと思ったからです。
当時は会社員と大学院生、ジャーナリストとしての発信を並行させていたのですが、バランスを取るのが難しく、ちょうど会社員をやめようかと思っていたタイミングだったという理由もあります。フリーのジャーナリストとしては、海外に行っても発信できるだろうという見込みがありました。
2014年に『「育休世代」のジレンマ』という本を出して以来、講演依頼や政府の委員拝命などを度々いただいており、シンガポールに行くことで新たにこうした仕事を受けられなくなるとは思いました。でも実は当時、自分の中で焦りもありました。本の出版から2年程経っても同じようなことを何度も聞かれたり、テレビなどであまり適切な専門家が見つけられなかったであろう領域についてコメントを求められたりしていて、その状況に疑問も感じていたのです。
また、大学院にも在籍はしていたものの、文献を読む時間もなかなか取れていませんでした。アウトプットばかりに時間を割かれており、インプットの時間が足りないと感じていたので、海外に住んで新たな知見をしばらく溜める期間にしてもいいだろうと思いました。
長時間労働文化の日本を離れて夫のワークライフバランスが改善するのではという目論見もあり、自分にとっても家族にとって海外生活が今までの在り方を変えて視野を広げるいい機会になると考え、帯同に迷いはほとんどありませんでした。
順風満帆とはいえなかった最初の1年
しかし、実際に行ってみると、目論見が外れます。夫は出張三昧で忙しく、結局慣れない場所での家事や育児のすべてが降りかかってくることに。その結果、なかなかフリーでの仕事を再開できませんでした。そして、体調を崩したり、先のことが不安になったりすることも多く、決して順風満帆とはいえない最初の1年でした。本当にしんどい時期もありました。
でも、「日本に残ればよかった」と思ったことはありません。海外での生活は、目先のことよりも、長期的にもっと価値を発揮していけるようにと、自分に投資しているつもりでいました。実際に、海外に来て慣れないことに四苦八苦することも含めて自分の視野が広がったと思いますし、子どもたちも感情の波はありながらも多様性豊かな友達を作り、貴重な時間を過ごしていると感じます。
二重拠点生活を楽しむ
1年経過したあたりから、子どもを連れて、あるいは単独での一時帰国にもだいぶ慣れてきました。尊敬しているタレント・エッセイストの小島慶子さんは毎月のようにオーストラリアのパースと日本を行き来する「出稼ぎ生活」をされていて、私もいつかは小島さんのようにと思っていました。シンガポールでの生活を始めた当初は子どもが小さかったこともあり、単独で一時帰国なんてまったくできる気がしませんでしたが、慣れてくると二拠点生活のようになってきます。
シンガポールは子育てをしやすい国ですが、四季も自然もあまりないので、学校の長期休みのときなどは日本に滞在するのもいい経験だと考えています。私は日本にいる間にまさに「出稼ぎ」的にテレビ出演やトークイベントをこなすこともできるようになってきました。また、シンガポール側ではパート仕事もはじめました。
海外で暮らすことになったあなたへ
行き先の国や、もともと働いていた職種などによって、海外での過ごし方はもちろん変わってくると思います。でも、夫の駐在に帯同した経験のある周りの日本人女性に話を聞いても、皆だいたい1年前後は試行錯誤した経験を持っています。その経験談を元に、できるだけしなくていい苦労はしないように避けつつ、潜り抜けないといけないところは仲間と一緒に潜り抜けていこう。そんなつもりで、オンラインサロンでは情報共有もしています。
海外に住むことになった方は、現地で頼れる先輩がいれば一番ですが、知り合いがいない、誰を信頼していいのか分からないという場合は、今はオンラインでも仲間や先輩を得ることができます。もともと、私が海外帯同のために調べ始めたことや作り始めたネットワークを自分一人にとどめていては勿体ない、皆で共有しようと運営を開始したサロンです。
質問をすれば誰かしらが答えてくれますし、世界のあちらこちらで奮闘する同士の様子を見て「ひとりじゃない」と思えるはずです。ご自身の駐在で海外にいる事例や、日本で働いていた会社に引き続き所属をしながらリモートワークをされている方も周りには増えてきていて、新しい働き方の広がりを感じます。
他にも、バイリンガル教育などについてのオンライン読書会や、日本企業の転勤ルールを見直してほしいと提言するプロジェクトも動かしています。自分の会社、夫の会社に変えてほしいところがある、海外滞在中や帰国後にうまくいった事例を知りたいという方は、ぜひ入会をご検討ください。