「日本人の国民病」ともいわれるほど、多くの方が悩んでいるといわれる「肩こり」。厚生労働省が発表した、平成28年度の国民生活基礎調査によると、病気やけが等で自覚症状のある方のうち、肩こりの自覚症状を持つ人の割合は、女性では最も多く、男性では腰痛の次に多いという結果になっています。
肩こりと聞くと、肩が重い、痛むというイメージがありますが、ひどい場合には頭痛や吐き気、全身の倦怠感なども感じるようになります。そのため、家事や仕事をするのもつらく、困っている人は多いのではないでしょうか。
そこで、この記事では、肩のこりをほぐして姿勢もよくする効果がある肩甲骨ストレッチを紹介していきます。
肩甲骨とは?役割と重要性
肩甲骨とは、背中の肩寄りの位置にある左右1対の逆三角形の大きな骨のことで、体幹と上肢(腕と手)とをつなぐ重要な役割を担っています。実際、腕を上下に動かしたり、回したりすると、肩甲骨が連動して動くのがわかるかと思います。
肩甲骨は、鎖骨と上腕骨に連結している他は、広背筋、三角筋、上腕二頭筋、上腕三頭筋などの大小様々な筋肉によって支えられ、背中から独立した構造になっています。そのため、肩甲骨、鎖骨、上肢によって構成される上肢帯は、人体の中で最も可動域の広い部位と言われています。
肩甲骨は、両腕を動かす上でとても重要な存在であるため、肩甲骨周辺の筋肉がこって固まると、腕が上がらなくなったり動かしづらくなったりします。また、肩が正しい位置で維持できずに猫背になったり、姿勢が悪くなったりすることもあります。姿勢の悪さは血行不良につながりますので、筋肉がこり、さらに姿勢が悪くなるという悪循環に陥ってしまいます。
定期的にストレッチを行って肩甲骨のまわりの筋肉をほぐすと、体が柔軟になって血行も良くなり、肩こりのつらい症状の緩和が期待できるのです。
肩甲骨ストレッチとはどんなストレッチ?
肩甲骨ストレッチとは、肩甲骨周辺の筋肉をほぐして柔らかくするストレッチを指します。前述したように、肩甲骨は鎖骨部分で体幹につながっていて、背中から浮いた状態になっているのが正常です。ところが、肩こりがひどいと肩周辺の筋肉が固まってしまい、まるで肩甲骨が背中に貼りついているような状態になってしまいます。肩甲骨ストレッチは、筋肉をほぐすことで、肩甲骨を正常な位置に戻すために行うもので、肩甲骨はがしとも呼ばれています。
肩甲骨ストレッチを行うメリット
肩甲骨ストレッチで筋肉をほぐすメリットとしてまず挙げられるのが、上肢帯の筋肉が柔軟になることです。筋肉には、粘弾性と呼ばれる性質があり、一定以上に伸ばすと、元に戻ろうとする反応を起こします。これは、全身のスムーズな動作を行う上で欠かせない性質です。時間をかけながら一定の強度で筋肉を伸ばしていくと、この反応が弱まり、筋肉が緩みやすくなります。そのため、ストレッチを継続して行っていると、筋肉が伸びやすくなって柔軟性が向上するのです。(参考:吉田正樹 著『筋粘弾性と運動反射』,1999、名取礼二 著『筋肉の粘弾性について』,1964)
また、筋肉が柔軟になって上肢帯の可動域が広くなると正しい姿勢を維持しやすくなり、姿勢の悪さや猫背の解消にもつながります。姿勢が悪いと、内蔵が圧迫されて胃腸の不調や便秘が起きやすくなるものです。姿勢がよくなれば、それらのトラブルの改善にもつながるでしょう。
さらに、ストレッチを行うことで、肩こりに伴う諸症状の緩和も期待できます。これは、ストレッチによって筋肉が柔らかくしなやかになって、血流が良好になるためです。全身の血行がよくなれば代謝が向上して体も温まり、冷えが解消するほか、睡眠の質が上がってぐっすり眠れるようになります。良質な睡眠がとれれば疲労も回復しますので、作業効率もアップするでしょう。
このように、肩甲骨ストレッチを行うことには、さまざまなメリットがあるのです。
肩甲骨ストレッチをやってみよう
ストレッチは、行ってすぐに結果がでるというものではなく、時間をかけて筋肉をほぐし、徐々に柔らかくしていくものです。また、効果が出てきたからといってストレッチをやめてしまえば、筋肉は再び固くなってしまうでしょう。そのため、継続して行うことが何よりも大切です。
肩甲骨ストレッチは、肩甲骨まわりの筋肉をほぐすストレッチ全般を指しますので、シチュエーションに応じてさまざまな方法があります。定期的に行えるように、いくつか試してみて、自分に合ったストレッチ方法を見つけてみてください。
オフィスでもできる肩甲骨ストレッチ
一日パソコンに向かう仕事をしていて、肩こりに悩まされている人は多いのではないでしょうか。パソコンの画面を見るときは、どうしても前のめりの姿勢になりやすく、重い頭を支えるために首や肩の筋肉に負担がかかり続けます。そのため、肩こりが起こりやすいのです。
意識的に筋肉をほぐすストレッチをすれば、肩こりの予防や軽減に役立つでしょう。そこで、オフィスでも手軽に行える簡単なストレッチを紹介します。座ったままできますので、休憩時間やデスクワークの合間などに行なってみてください。
#座ってできるストレッチ1
① 椅子に座った状態で両手をまっすぐ上げます。手のひらは外側に向けましょう。
② 肘を曲げながらそのまま手を下ろしていきます。このとき、肩甲骨を寄せていくように意識しながら行うことがポイントです。
③ ①〜②をゆっくり5回程度繰り返します。
#座ってできるストレッチ
① 両腕を横に広げます。
② 次に肘を90度に曲げ、片腕は上に、片腕は下に伸ばした指先が向くようにしましょう。
③ ②の状態から、両腕の位置を交互に上、下と変えます。
④ 動作を5回程度行いましょう。
運動前にやっておきたい肩甲骨ストレッチ
運動をする前に肩甲骨ストレッチをすると、けがの予防になります。これは、ストレッチによって筋肉が温まり、ほぐれることで伸びやすくなるためです。急激な動きで筋を傷めたり、肉離れを起こしたりするリスクを下げることができます。また、肩甲骨周辺の筋肉がほぐれて肩の可動域が上がるため、パフォーマンスの向上も期待できるでしょう。そこで、運動前にやっておきたい肩甲骨ストレッチを紹介していきます。
#運動前のストレッチ1
① うつぶせに寝転び、曲げた肘を床につけて体を浮かせ、つま先と肘で体を支えます。
② 肩甲骨が寄ったり離れたりすることを意識しながら、体を上下に動かしましょう。
③ ②を10回程度繰り返します。なお、つま先と肘で支えた状態を維持するのが難しい場合は、膝を床につけた状態で行っても構いません。
#運動前のストレッチ2
① 四つん這いになります。
② 次に、片方の手を後頭部にあて、そのまま肘をへそ側に曲げて体を内側にひねっていきましょう。続いて、後頭部に添えている腕の肘を大きく上げて、体を外側に上向きにひねります。顔が斜め上を向いている状態です。
③ ②を10回程度繰り返しましょう。
④ 後頭部に添えている手を入れ替え、反対側も同じように行います。
家事の合間にもできる肩甲骨ストレッチ
仕事だけではなく育児や家事にも忙しい毎日では、時間をかけて運動をすることが難しく、肩こりになりやすい傾向があります。そこで、ストレッチを行って、意識的に筋肉をほぐすようにしましょう。次に紹介する肩甲骨ストレッチは、家事の合間のわずかな時間やテレビを見ながらでも行えます。また、立った状態で行っても、座った状態で行っても構いません。四十肩や五十肩で腕が動かしづらい場合は、四つん這いになると行いやすいでしょう。
① 片方の腕をまっすぐ上に伸ばします。このとき、手のひらは前向きにして、高いところに手を伸ばすようなイメージで行うのがポイントです。
② ①の状態から、ゆっくり5秒程度の時間をかけて手を腰の位置まで下ろしていきましょう。腕はまっすぐ伸ばしたままにします。
③ ①〜②を5回程度繰り返します。反対側の腕でも同じように行いましょう。手をぐっと伸ばして大きく上から下に動かすことで、肩甲骨の柔軟性を高めることができます。
タオルを使用する肩甲骨ストレッチ
体が固くなってしまって、ストレッチをしようにも肩甲骨が思うように動かないという人もいるでしょう。その場合、痛みを感じながら無理にストレッチを行っても、筋肉に力が入ってしまって思うような効果は得られません。ストレッチは、「心地よい痛み」を感じる程度で行うことが大切です。そこで、体が固い人はタオルを使う肩甲骨ストレッチを行ってみましょう。タオルがあることで、筋肉に必要以上の負担をかけず、スムーズにストレッチを行えます。
① 椅子に浅めに座ります。この時、足は軽く開き、背筋を伸ばします。
② 右手にタオルを持ち、右手を肩の上にまわして腰あたりまでタオルを垂らします。
③ 左手を後ろにまわし、タオルの先端を持ちます。そのまま、それぞれの手を近づけていきましょう。
④ 痛みが起こらない限界の位置まで両手が近づいたら、その状態を20秒程度維持します。20秒ほど経ったら、タオルから手を離してリラックスしましょう。
⑤ 右手と左手を反対にして、同じような要領でもう1度行います。
寝る前にやっておきたい肩甲骨ストレッチ
就寝前にストレッチをすると、体の緊張がほぐれて血行がよくなるほか、気持ちもリラックスしますので、心地よい眠りが期待できます。深く眠ることができれば疲労を回復しやすくなるため、翌日の仕事にも集中して取り組めるでしょう。ただし、寝る前のストレッチはやりすぎると逆効果です。ゆったりと心を落ち着けて行うようにしましょう。次に紹介するストレッチは、肩こりだけでなく、顔のむくみなどデスクワークによる疲れの解消も期待できます。
#就寝前のストレッチ1
① 床などに正座をします。
② 両腕を伸ばし、前に滑らせながら上半身を前傾させましょう。
③ 自然な呼吸を続け、息を吐きだしたと同時に頭を両腕よりも深く沈みこませます。腕はなるべく前まで伸ばすようにしましょう。
④ このままの姿勢で、30秒程度キープします。
#就寝前のストレッチ2
① 横向きに寝転んで膝を曲げます。
② 横を向いた体の上になっている方の腕は後ろにし、下になっている方の腕は自然に安定する位置に置きます。肩が痛い場合は、痛みを感じない位置に腕を置きましょう。
③ 上側の腕の肘を軽く曲げ、肩甲骨が動いていることを意識しながらゆっくり大きく回します。
④ ③を10回程度繰り返します。体の向きを変え、反対側の腕も同様に行いましょう。生活に肩甲骨ストレッチを取り入れよう
冒頭でもご紹介したように、肩こりは肩や腕に痛みや重だるさを感じるだけでなく、酷い場合は頭痛や吐き気などの症状も招きます。その結果、集中力が続かず、作業効率が下がってしまうこともあるでしょう。また、肩周辺の筋肉がこると、肩甲骨を正しい位置で保てず、姿勢も悪くなってしまいます。記事内でご紹介したような肩甲骨ストレッチを日常的に行い、健康と綺麗な姿勢を維持していきましょう。