4月から新生活の皆さん、おめでとうございます。もうすぐ新年号になるということもあり、なんだか新しい風を感じる春です。新しい世界に進むのは、期待半分、不安半分ってところもありますね。
そんな春、ひとひらの言葉が、ひとつの物語が、魔法みたいに心を守ってくれることもあります。今回は、「新しい世界に進む勇気をくれる本」のご紹介。お送りするのは、「スマホひとつで おふとんからでも 読める・書ける・つながれる」オンライン文芸部・まきむぅの手乗り文芸部の部員の皆さんです。
スポットライトを浴びなくたって 『舟を編む』三浦しをん
この小説は映画化もアニメ化もされているので「聞いたことある!」という方も多いかもしれませんね。
内容を簡単に説明すると「とーっても長い時間をかけてひたすら辞書をつくる話」です。
辞書づくり一色の小説が、なぜ『新しい世界に進む勇気をくれた本』なのか理由をふたつ。
ひとつめは主人公の馬締(まじめ)。営業部にいた頃の彼は役立たず扱いでした。ところが辞書編集に異動してその気質を存分に発揮します。
行き詰まったとき「あー駄目だぁ」って落ち込むこともありますけど、新しい世界で発見できることもあるんじゃないかな? と思わせてくれました。
ふたつめは辞書づくりという仕事。周囲に称賛されてスポットライトを浴びる仕事はごくわずかです。でもスポットライトを浴びない多くの仕事がこの世を支えているんじゃないかなと感じました。
とてもやさしい雰囲気なので、肩の力を抜いてゆったりと読んでくださいね。
(ゆうさん)
「解決策」より「仕組み」を紐解く 『こころの処方箋』河合隼雄
「ふたつよいことさてないものよ」
ひとつよいことがあると、ひとつ悪いことがある。その逆もまたしかり。悪いことはよいことのバランスのために存在しているーーこの言葉をはじめとして、心理学者である著者が本書に綴った「常識」の数々に何度救われたかわからない。
「灯台に近づきすぎると難破する」
「うそは常備薬 真実は劇薬」
「人の心などわかるはずがない」……
社会に出れば誰もが様々な理不尽に直面する。この本は「解決策」は提示しないが、理不尽が起きる「仕組み」を知り、視点を変えれば生きるのが楽になると、平易な文章で教えてくれる。
新しい世界で躓き悩む人たちに、ぜひ読んでほしい一冊です。
(赤羽健太郎さん)
悲劇のページを重ねた後に 『凍りのくじら』辻村深月
読むと温かい気持ちになれる。背中を押してくれる本です。
写真家志望の高校生・理帆子と、とある男子高校生との交流が主な内容です。
本編を読み始めたあなたは、途中でこう考えると思います。読むのしんどいな、と。
文庫本にして576ページな上に、父の失踪と母の看病で憔悴していく理帆子を見ているのがつらい。読むと温かい気持ちになれるなんて、ウソでしょう。
私もそうでした。途中で読むのをやめようと、何度も思いました。
けれど、しんどい気持ちを乗り越えてた読み終えた先にあったのは、温かい読後感でした。終盤で理帆子が見たのと同じ、トンネルの先の光が、私にも見えました。
暗闇の中で光を探そうともがく、全ての人たちに読んでほしい本です。
(遥花さん)
たとえ幻想が破られても 〈十二国記〉 小野不由美
古代中国を思わせる異世界を舞台にしたファンタジーシリーズ。
一作目『月の影 影の海』は、平凡な女子高校生が異世界で王となるお話。こう書いてしまうと最近の異世界転生もののようですが、実際に展開されるのは血と泥に塗れた重たい物語です。他の作品でも、シリーズを通して描かれるのは、「現実の苦さと残酷さに甘い幻想が打ち破られる」というモチーフ。
けれども幻想を破られた主人公たちが最後に立ち返るのは、いつも「自分がどのようにあるか」という地点です。裏切りと失望の中で彼らがその答えを見出していく姿は、不安と迷いを胸に未知の世界へ旅立とうとする読者に、最初の一歩を踏み出す覚悟と勇気を与えてくれるように思います。
(けいりんさん)
旅に寄り添う旅の本 「アルケミスト 夢を旅した少年」パウロ・コエーリョ
宝物の存在を信じて、旅をする少年の物語。
この本は夢を追うことの大切さを思い出させてくれる。
アルケミストといえば、「鋼の錬金術師」を想像してしまうが、この物語において重要なのは錬金術ではない。
主人公が錬金術を使うのは旅の一部分だけ。
自分の心に耳を傾けて行動し続ける事が大切なのだ。
心の声、予兆、錬金術、全ては心の奥底に存在している。
スピリチュアルな部分があるのが、この本の良い所でも悪い所でもあるのだが、主人公の目的を自分がこれからしたいと思うことに読み替えれば、きっとこの本を好きになれるんじゃないかと思う。
薄い本なので、新しい世界にもっていくときにかさばらないところもお勧めポイント。
(ナカリーさん)
あの日の夢を、大人になっても 「古代への情熱」ハインリヒ・シュリーマン
トロイア遺跡を発掘した、努力の人・シュリーマンの自伝。貧しい少年時代、古代への憧れに胸ふくらませ、アルバイトに汗を流しながら勉学を重ねて、やがていくつもの言語を操る貿易商に成長し、夢だった古代遺跡発掘を成し遂げた……って話になってます。が、どうも、だいぶ話を盛ってるらしいです。
そんな人間くさいところも含めて、愛おしい。人間って愛おしいな。人生って愛おしいな。って、思える本です。国際的に読まれている古典なので、もしかしたら、新しい世界で出会う人と共通の話題になるかも。
(まきむぅさん)
外に出るには、壁に気づくこと 「自分の小さな「箱」から脱出する方法」アービンジャー インスティチュート
自分では気づけない思考の箱の中に、いつの間にかはまり込んでしまっていることを教えてくれる本。
この本では、自己欺瞞と言う箱について説明してくれていて、人間関係を見直すヒントを与えてくれる。
この本を読み終わった後、いろいろ考えさせられた。
自分はたくさんの箱を抱えていることに気がついてしまったのだ。
自分はこういう性格だからとか、自分の能力はこうだからとか、いろいろな考え方自体が小さな箱なのだ。
そして箱の存在に気づかないと、箱から出ようとも思わない。
気づくことができないとい言うのは恐ろしいことだ。
箱の存在に気が付けば、箱の外に新しい考え方が見えてくる。
新しい世界に進む時にきっと役に立つ本だと思う。
(ナカリーさん)
一冊の本を開いただけで、もうそこは、新しい世界。
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また、オンライン文芸部「まきむぅの手乗り文芸部」でも、この記事の選書会議のほか、基礎練習・文芸ゲーム・読書記録・本についてのおしゃべり・お題に沿った800字の自由創作などを行なっています。年齢も経験も問いません。入部をお考えの方は、こちらをご覧くださいね。