私たちは普段、鏡で自分の顔やスタイルを目にする機会が多くあります。しかし、「身体の後ろ側」を見ることは少ないのではないでしょうか。また、身体を鍛えている方でも、胸やお腹といったように、身体の前側に意識が向いてしまいがちです。
しかし、身体の後ろ側、特に背筋を鍛えることは、全身のシェイプアップに欠かせません。この記事では、見落としがちな背筋の構造を紹介しつつ、背筋を鍛えるためのおすすめ筋トレ種目を解説します!
背筋の構造と仕組み
背筋とは、背中に位置している筋肉の総称で、部位や役割別に様々な種類があります。背筋を構成する筋肉の中でも、もっとも大きな筋肉とされているのが、次の3種類です。
(1)僧帽筋
僧帽筋は、首の付け根から両肩に広がり、そして背中の中央部にまで広がる筋肉です。首をすくめたり肩を下げたりなど、肩甲骨を動かす際に働きます。
また、肩こりに関係する筋肉の中心とされています。
(参考:公益社団法人 日本整形外科学会|肩こり)
(2)広背筋
広背筋は、背中の中心部で脇腹から脇の下辺りまで広がっている筋肉です。筋肉の中で最も大きな面積を持つとされており、腕を後ろに引いたり、上から下に下ろしたりする際に働きます。
(3)脊柱起立筋
背骨(脊柱)を中心に、縦方向に広がる筋肉です。腰を反ったり、背骨を左右に傾けたりなど、上半身の姿勢を維持するために働きます。
肩の背面や肩甲骨に関係する筋肉も含むと、背筋の種類はさらに細かく分類されていますが、この記事では主要な背筋として、僧帽筋・広背筋・脊柱起立筋の3種類を鍛えるというテーマのもと、それぞれのトレーニング方法を紹介します。
背筋を鍛えると得られる効果
冒頭でもご説明した通り、背筋はほかの部位に比べると意識しにくい筋肉ですが、健康・美容を維持するためには欠かせません。背筋を鍛えることで得られる効果を詳しく見てみましょう。
(1)姿勢改善
背筋には、脊柱や肩甲骨に関連する筋肉が多く、姿勢の維持に大きな影響を与えています。そのため、背筋を鍛えることで、より疲れにくく、正しい姿勢を保ちやすくなるのです。
また、正しい姿勢を維持しやすくなることで、肩こりや腰痛の予防にもなると考えられます。(ただし、背筋を鍛えればこうしたトラブルが必ず治るわけではありません。これについては後述します)
(2)後ろ姿が美しくなり、若く見える
多くの女性が憧れるくびれや、多くの男性が理想とする逆三角形の体型をつくるためには、腹筋と背筋をバランスよく鍛えることが重要です。また、昔から人の年齢は背中に表れるとも言われます。つまり、背筋を鍛えるということは、外見的な若さに直結するといえるでしょう。
背筋を鍛えると猫背は治る?
「猫背で悩んでいる人は、背筋を鍛えると症状を改善できる」というアドバイスを耳にしたことがある方は多いはず。実際のところ、この改善方法は効果があるのでしょうか?
実は、「半分正しくて、半分間違っている」というのが答えです。姿勢を保持する役目がある脊柱起立筋を鍛えることで、確かに姿勢の保持はしやすくなるかもしれません。しかし、猫背の原因は必ずしも背筋だけに関係しているとは限らないのです。
たとえば、猫背の主な原因としては次のようなものが挙げられます。
・デスクワークなどでイスに座る時間が長く、猫背の姿勢が続いている
・ももやお尻の筋肉が硬くなり、骨盤のゆがみを引き起こしている
・背筋の反対側にある腹筋が固くなっていて、腰が丸まった姿勢になりやすい
そのため、猫背を改善したい場合、まずはももやお尻、お腹周りをしっかりほぐすことを意識してください。その上で、さらに効果を高めるためのオプションのひとつとして、背筋のトレーニングを選択すると良いでしょう。
(参考:RENAISSANCE|なぜ姿勢が悪いと良くないの?)
背筋の鍛え方
ここからは、背筋を鍛える方法を具体的に紹介します。自宅でも手軽にできる方法と、器具を使ってさらに効果を高めた方法をそれぞれ紹介していますので、背筋の鍛え方がわからないという方は、参考にしてみてください。
紹介している回数やセット数はあくまでも目安です。ご自身の体調に合わせて、無理のない運動強度で取り組むようにしてください。
自宅でできるトレーニング
自宅でのトレーニングでは、背筋のなかでも特に広背筋を鍛えることが難しいと言われます。そこで、自宅で効果的に広背筋を鍛えられる種目を含めた2種類のトレーニングをご紹介します!
1.バックエクステンション
(1)床でうつ伏せになります。床が硬くて痛いという方は、マットを敷きましょう。
(2)両手を頭の上に伸ばし、バンザイの状態になりましょう。
(3)両足は肩幅程度に開きましょう。
(4)息を吐きながら両手両足を地面から浮かせ、全身を反らしていきます。
(5)反らせた姿勢で2〜5秒静止します。
(6)息を吸いながら、ゆっくり両手両足を下ろします。このとき、床に手やつま先がつかないようにしましょう。
10回〜15回を1セットとし、3セット繰り返します。
バックエクステンションのコツ・ポイント
バックエクステンションは、主に脊柱起立筋を鍛えられるトレーニングです。腰を痛めないためにも、身体を反らせるときは反動を使わず、ゆっくりと丁寧に動くことを意識してください。また、無理に手足を地面から浮かせようとして、腰を反らせすぎないようにしましょう。
2.スパインエルボー・プッシュアップ
(1)床であお向けになります。
(2)膝を軽く立て、両肘を90°に曲げて床につけましょう。
(3)この姿勢から、肘を床に押し付けつつ、上体を起こしてください。
(4)ギリギリの位置まで上体を起こしたら、ゆっくり元の姿勢に戻ります。
10回〜15回を1セットとし、3セットを目安に繰り返していきましょう。
スパインエルボー・プッシュアップのコツ・ポイント
スパインエルボー・プッシュアップは、自宅でもできるトレーニングの中で、広背筋を鍛えられる数少ない種目です。ポイントとしては、上体を持ち上げるときに首を曲げたり腹筋の力に頼ったりしないこと。あくまでも、肘を押し込む力で上体を起こすようにします。
また、上体を起こすときに肩甲骨を内側に引き寄せるよう意識すると、背筋群も一度に刺激することができるのでおすすめです。
器具を使ったトレーニング
背筋を使ったトレーニングは、身近な道具やトレーニング用の器具を使うことで、さらにバリエーションを増やすことができます。
タオル
タオルを使った種目でおすすめなのは、「タオル・ラットプルダウン」です。肩関節の可動域を広げることで、猫背の改善や四十肩などの予防に効果が期待できます。
(1)肩幅に脚を開き、軽くひざを曲げて腰を落とした姿勢になります。
(2)手はバンザイの状態にし、タオルを持ちましょう。このとき、手は肩幅の1.5倍程度の広さを目安に、タオルがゆるまないよう両手で引っ張り合うようにして力を入れます。
(3)タオルを引っ張る力をゆるめないようにして、肘を曲げて頭の後ろにタオルを惹きつけます。頭の後ろにタオルを動かすと肩が痛いという方は、頭の前でも構いません。
(4)首の付根(前であれば鎖骨付近)までタオルを下ろしたら、元の姿勢に戻ります。
これを、20回を1セットとし、3セット程度を目安にゆっくり体を動かしていきましょう。両手でタオルをひっぱりつつ、ひじが閉じないようにするのがポイントです。
うまく背筋を動かせていると、タオルを下ろしたときに脇のすぐ後ろにある筋肉が収縮しているのを感じられると思います。
チューブ
チューブは、重りを使わずに、身体の各部位に負荷をかけられるアイテム。チューブを使ったトレーニングである「シーテッドローイング」は、効果的に背筋を刺激することができます。
(1)両足を伸ばした長座の状態で、床に座ります。
(2)チューブを足裏にひっかけ、両端を左右の手でそれぞれ持ちましょう。
(3)背筋を伸ばしたところから、上体をやや後ろに傾けつつ、ひじを引いてチューブを引きます。
(4)ひじを引ききったら、ゆっくり元の姿勢にもどりましょう。
10回〜15回を1セットとして、3セット行いましょう。
シーテッドローイングは、広背筋を中心としたトレーニングです。チューブを引くときは腕の力ではなく、ひじを引いて胸を張るようなイメージで行いましょう。タオル・ラットプルダウンと同じで、うまく身体を動かせていると、脇の後ろや脇の下の筋肉が、収縮するのを感じられます。
バランスボール
自宅トレーニングの項目で紹介した「バックエクステンション」の応用トレーニングとして、バランスボールを使ったものがあります。
(1)おへその下にバランスボールを起き、うつ伏せの姿勢になります。ちょうどバランスボールを挟んで、腕立てふせのポジションになるイメージです。
(2)その姿勢から右手・左足を床から離します。
(3)手〜背筋〜足先が一直線になる姿勢を取り、15秒〜20秒キープしましょう。
(4)元の姿勢にもどり、反対側(左手・右足)でも同じ動作を行います。
左右を15秒〜20秒ずつ、それぞれ3セット行います。
このトレーニングでは、バランス感覚を鍛えつつ、脊柱起立筋を含む体幹全体を鍛えることができます。バックエクステンションよりも腰を痛めづらいので、バランスボールがある方はぜひ試してみてください。
腰を痛めない鍛え方
背筋のトレーニングは、誤った方法で行うと、かえって腰を痛めてしまう場合があります。特に、バックエクステンションのような、上体を後ろへ反る動作を含むトレーニングでは、腰を反らしすぎないことや反動を使わないことに十分注意して取り組んでください。
さらに、次に紹介する2つのポイントを意識して、腰を痛めない対策をしましょう。
1つ目は上半身の柔軟性の確保です。脊椎は、首周りを「頚椎」、胸の付近を「胸椎」、腰や骨盤にかけての部分を「腰椎」とそれぞれ呼びます。
基本的に、上半身のひねりや柔軟性を生むのは胸椎で、姿勢の保持は腰椎の役割とされています。バックエクステンションなど、上半身をそらせる動きを伴うトレーニングの際、普段から胸椎を動かす機会が少ない方は、つい腰椎を使って腰を反らせてしまうかもしれません。
しかし、上半身をそらせる動きを伴うトレーニングで大切なのは、腰椎ではなく胸椎をメインに上体を反らす動きです。背筋のトレーニングを行う前に、タオルを使ったカンタンなストレッチで、胸椎を動かす動作に慣れておきましょう。
(1)バスタオルを丸めて床に起きます。
(2)バスタオルが肩甲骨の下にくるよう、あおむけになりましょう。
(3)手を頭上までまっすぐあげて、深呼吸をしながらゆっくり下ろします。
(4)動作中、腰は反らさず床についていることを意識してください。
この動作を3回ほど繰り返すだけでも、胸椎の柔軟性=上半身の柔軟性を高めることができます。
もう1つのポイントは、下半身の筋肉の柔軟性です。デスクワークで座りっぱなしの人は、太ももの前後とお尻の筋肉が非常に硬くなっていることがほとんどです。この固くなった筋肉が骨盤のゆがみを引き起こし、トレーニング時に腰の負担となってしまうわけです。
そのため、トレーニング前や日常のスキマ時間を使って、この2部位の筋肉をしっかりほぐしておきましょう。下半身の筋肉をほぐすおすすめストレッチは、次の2つです。
【太ももの前面のストレッチ】
(1)立った状態で右ひざを曲げ、右手で右足を持ちます。
(2)かかとをお尻へと近づけるように、ひざを曲げましょう。このときに太もも前面の「伸び感」を感じられます。
20秒ずつ左右の脚で交互に行います。
【太ももの裏面とお尻のストレッチ】
(1)あお向けになり、右脚を持ち上げます。
(2)ひざの裏を両手で持ち、胸に引き寄せるようにしてできるだけ伸ばしていきましょう。
これを左右20秒ずつ交互に行います。
(参考:TENTIAL|腰痛でもできる効果的な腹筋運動・背筋運動を紹介!腰痛改善にも!)
初心者・女性におすすめのトレーニング方法
運動に慣れていない方にとって、いきなり背筋を鍛えるというのは、少々ハードルが高いイメージがあるかもしれません。そこで、運動初心者や体力に不安のある方向けに、より取り組みやすいトレーニングをご紹介します!
立ったままできるトレーニング
立ち姿勢のトレーニングでおすすめなのは、「フライ」という種目です。
(1)脚を肩幅より少し開いた状態で、ひざを曲げます。状態は背筋を伸ばしたまま、軽く前に傾きましょう。この時、腰を反らないように注意します。
(2)両手は軽く握った状態で、息を吸いつつ胸の前でひじを合わせるように寄せます。
(3)息を吐きながら、肩甲骨を寄せる動きに合わせてひじを開いてください。
これを、10回〜15回を1セットとして、3セットを目安に行いましょう。動作中、特にひじを身体の前に寄せたときに、背中が丸くならないように注意してください。
座ったままできるトレーニング
座り姿勢のトレーニングでは、「アームリフト」という種目を試してみましょう。
(1)イスに座って背筋を伸ばします。この時、腰を反らないように注意してください。
(2)顔の前で手のひらとひじがくっつくように合わせます。お互いが離れないよう、力を入れて互いの腕で押し合ってください。
(3)手のひらとひじがくっついたまま、手のひら・ひじがくっついた状態を維持できるとこまで、腕をゆっくり上に引き上げます。
(4)顔の前まで腕をゆっくり下ろします。
これを、10回1セット目安に取り組みましょう。アームリフトは、肩甲骨周辺の筋肉を刺激できるトレーニングでもあり、これらの筋肉をほぐすのにも有効です。仕事や家事の合間に、リラックス目的でやってみるといいでしょう。
背中は自分で見る機会が少ないため、トレーニングを疎かにしてしまいがちな部位ですが、外見上の若々しさや美しいボディラインを印象づける上で、とても大切な場所です。また、背筋を鍛えることで、姿勢や肩こりに関するトラブル緩和にもつながることもあるでしょう。
今回紹介したトレーニング種目を参考に、今日からの身体づくりに取り入れてみてください!