筋力トレーニングの世界では、さまざまな専門用語があります。そのなかのひとつ、「超回復」という言葉をご存知でしょうか。この「超回復」についてしっかり理解しておくと、トレーニングの質を高めることにつながります。
そこでこの記事では、筋トレに欠かせない「超回復」のメカニズムと、「超回復」と深いかかわりのある休息や筋肉痛について、詳しく解説していきます!
超回復とは?メカニズムを解説
筋肉というのは一つのかたまりではなく、筋線維と呼ばれる細胞が折り重なってできた束(筋束:きんそく)が密集することで成り立っています。
そして、この筋繊維は運動やトレーニングなどによって強い負荷がかかると、破壊されることがあります。破壊された筋繊維は、時間をかけて回復に向かいますが、このタイミングで十分な栄養と休息をとると、回復時に運動前よりも筋線維の断面積が太くなる=筋肉の発揮する力が強くなるのです。このメカニズムを「超回復」と呼びます。
ただし、この超回復と呼ばれる現象は、長期的に効果が継続されるわけではありません。トレーニング→休息→超回復→トレーニング→休息…。といったように、トレーニングが好きな人やアスリートは、このサイクルをなるべく維持して、筋肉のパフォーマンスをアップさせているのです。
部位別!筋肉回復にかかる時間目安
筋肉が超回復するまでに必要な時間は、一般的にトレーニングから24時間後〜72時間後とされています。時間に大きく差が生じるのは、筋肉の表面積・体積が大きいほど、超回復にかかる時間が長くなるためです。
具体的に、身体の各部位にある筋肉について、超回復に要する平均的な時間を見てみましょう。
(1)上半身の筋肉
・前腕筋群(肘〜手首にある筋肉たち):24時間
・大胸筋(胸の筋肉):48時間
・三角筋(肩の筋肉):48時間
・上腕二頭筋(力こぶの筋肉):48時間
・上腕三頭筋(二の腕の筋肉):48時間
・僧帽筋(首の付け根から肩、背中に広がる筋肉):48時間
・広背筋(背中の中央〜側面に広がる筋肉):48時間
・脊柱起立筋(背骨に沿って伸びる筋肉):72時間
(2)体幹の筋肉
・腹筋群(腹直筋、腹斜筋などお腹周りの筋肉):24時間
(3)下半身の筋肉
・下腿三頭筋(ふくらはぎの筋肉):24時間
・大臀筋(お尻の筋肉):48時間
・大腿四頭筋(もも前の筋肉):72時間
・ハムストリングス(もも裏の筋肉):72時間
なお、超回復にかかる時間は、年齢を重ねると最大2倍まで長くなると言われています。また、成長ホルモンの分泌量が少ない女性は、男性に比べて超回復にかかる時間が長くなるとも考えられているので、超回復にかかる時間は個人差もかなり大きいことを理解しておきましょう。
トレーニングに慣れている方の中には、筋肉の部位によって超回復の時間が違うことを計算に入れてトレーニングを行う方もいます。「背中のトレーニングは月曜日と木曜日」「腹筋は毎日やる」など、上記の回復時間を目安にトレーニングの頻度を決めてみてもいいかもしれませんね。
(参考:筋力トレーニングの適性頻度|日本パワーリフティング協会)
超回復を考慮した筋トレのスケジュール
前述した通り、超回復のメカニズムを取り入れて効率よく筋トレを行うことで、より効果的に筋力増加を目指すことができると考えられています。
では、実際に超回復を踏まえて筋トレをする場合、どのようにトレーニングスケジュールを立てるのが最適なのでしょうか?その答えのひとつが、「身体の部位を分けてトレーニングする」ことです。このようなトレーニング方法は、筋トレの専門用語で「分割法」と呼ばれています。
部位の分割の方法は、人によって様々ですが、なかでも有名なのは、上半身・下半身に分ける「2分割」と、上半身の押す筋肉・上半身の引く筋肉・下半身の筋肉に分ける「3分割」の2つです。
3分割の場合、上半身の押す筋肉・引く筋肉は次のように分類されます。
【上半身の押す筋肉】
・大胸筋
・三角筋
・上腕三頭筋※
※三角筋は前方・中央・後方に分けられますが、背中側の後方の部位は、引く筋肉として機能します。ここではわかりやすく、押す筋肉として分類します。
【上半身の引く筋肉】
・広背筋
・僧帽筋
・脊柱起立筋
・上腕二頭筋
こうして見ると、押す筋肉は体の前面、引く筋肉は身体の背面にあると分かりますね。ただし、腕だけは、前面・背面で役割が逆なので注意しましょう。
これらを踏まえ、次のようなスケジュールを組むことで、筋肉を適度に休ませつつ効果的にトレーニングすることができます。
(1)2分割のトレーニングで週2回トレーニング
・月曜日:上半身の日
・火曜日:休息日
・水曜日:休息日
・木曜日:下半身の日
・金曜日:休息日
・土曜日:休息日
・日曜日:休息日
(2)2分割のトレーニングで週4回トレーニング
・月曜日:上半身の日
・火曜日:下半身の日
・水曜日:休息日
・木曜日:上半身の日
・金曜日:下半身の日
・土曜日:休息日
・日曜日:休息日
(3)3分割のトレーニングで週3回トレーニング
・月曜日:上半身の押す筋肉の日
・火曜日:休息日
・水曜日:休息日
・木曜日:上半身の引く筋肉の日
・金曜日:休息日
・土曜日:下半身の日
・日曜日:休息日
(4)3分割のトレーニングで週6回トレーニング
・月曜日:上半身の押す筋肉の日
・火曜日:上半身の引く筋肉の日
・水曜日:下半身の日
・木曜日:休息日
・金曜日:上半身の押す筋肉の日
・土曜日:上半身の引く筋肉の日
・日曜日:下半身の日
ただし、これから筋トレを始めるという方の場合、最初のうちはあまり分割法を意識せずにトレーニングしてみましょう。なぜなら、超回復を目指すには身体により大きな負荷をかける必要があるため、筋トレに慣れていない方がいきなり強度の高いトレーニングを行うことは難しいからです。
まずは、腕立て伏せ・腹筋運動・背筋運動・スクワットと全身のトレーニングを、週2回程度のペースで行いましょう。慣れてきて、「もっと細かく部位別のトレーニングをしたいな」と感じ始めたら、種目数を増やしつつ分割法によるトレーニングを試してください。
(参考:レジスタンス運動(れじすたんすうんどう)|e-ヘルスネット)
トレーニング後は栄養補給をお忘れなく
身体づくりで大切なのは、まず質の高いトレーニングです。そして、それ以上に重要なのが、適切なタイミングでの栄養補給と言えるでしょう。そこでおすすめしたいのが、トレーニング直後の「タンパク質の摂取」です。
アミノ酸で構成されるタンパク質は、身体のあらゆる組織の構成材料となっています。もちろん筋肉も例外ではなく、過酷なトレーニングによって破壊された筋繊維を再生するには、良質なタンパク質が不可欠。そのため、運動後には栄養バランスのとれた食事を摂り、しっかりとタンパク質を補給してあげるのが理想です。
特に、筋トレ後45分以内は、吸収したタンパク質やアミノ酸から筋肉を形成する作用が活発になるため、「筋トレのゴールデンタイム」と言われています。とはいえ、筋トレ直後は疲れているうえ、すぐに食事を摂ることが難しい場合もあるでしょう。そんな時は、手軽にタンパク質を摂取できるプロテインが役に立ちます。
プロテインは原材料や精製方法によっていくつかの種類があり、目的別に使い分けるのが理想とされています。ただし、トレーニング初心者の方は、最もポピュラーで身体への吸収速度も高い「ホエイプロテイン」を積極的に飲むといいでしょう。
(参考記事:筋トレするなら食事にもこだわれ! 筋トレ効果を最大化する食事の鉄則|森永製菓)
超回復関連のよくある質問
ここからは、超回復にまつわるよくある質問をまとめてみました。「部位別のトレーニング法や超回復のメカニズムは分かったけれど、もっと詳しいことを知りたい!」という方は、ぜひこれらの情報も参考にしながらトレーニングプランを立ててみてください。
筋トレの負荷のかけ方は?
筋トレは、ただ行っているだけでは十分な効果を発揮できません。超回復のサイクルを回して効果的に筋肉を鍛えるには、ある程度の負荷のあるトレーニングが必須です。では、具体的にどのくらいの負荷が必要かというと、目安としては「1セット10回前後を、なんとかこなせるくらい」が適切とされています。
自体重のみで腕立てふせが15回できる人なら、本などの重りを入れたリュックを背負い、負荷を上げてみましょう。ジムに通っている方なら、ダンベル、バーベルなどを利用して負荷を調節することもできます。
ここで大事なのは、「1セット10回前後を、なんとかこなせるくらい」の負荷で、なるべく「3セット以上」をこなすということです。
筋トレの効果を上げるには、なるべく筋線維全体を刺激することが重要です。しかし、私たちの筋肉はたくさんの筋線維で構成されているため、トレーニングで負荷をかけても、全ての筋線維がまんべんなく使われているとは限りません。そこで、3セットかけて身体に負荷を与ることで、1セット目で眠っていた筋線維もしっかり刺激することができるのです。
また、筋トレ中の負荷は休憩時間(インターバル)も重要です。セットとセットの合間であまりに長時間休んでしまうと、超回復に関わる乳酸などが筋肉から取り除かれてしまうため、インターバルの目安は「約60秒」が最適だと考えられています。適度に疲労を残しつつ、次のセットを行うように心がけましょう。
筋肉痛になるまで鍛えないと意味がない?
筋肉痛はトレーニングにつきものだと思いこみ、「筋肉痛がなかった=前日のトレーニングの効果が薄かったのでは?」と不安に思ってしまう方は少なくないでしょう。しかし、筋肉痛がなかったからといって、必ずしも筋トレの効果がなかったというわけではありません。
筋肉痛の原因は、トレーニングで損傷した筋線維が回復する際に発生する炎症と考えられています。この炎症の度合いは、体調や食生活、トレーニングのフォーム、筋肉の可動量、負荷のバランスなど、様々な要因によって左右されるため、筋肉痛のあるなしとトレーニングの効果に直接的な関係は認められていません。また、トレーニングが習慣になっている方は、刺激に対する適応力も上がっていくため、より筋肉痛が起きにくくなることもあります。
一方で、トレーニングを始めたころに激しい筋肉痛を感じていたにも関わらず、今は全く筋肉痛がないという場合は、筋肉が成長した証拠です。次回のトレーニングでは別の種目をやってみる、同じ種目で負荷を上げてチャレンジしてみるなど、筋肉の成長度合いにあったトレーニングを心がけましょう。
(参考:第一三共ヘルスケア くすりと健康の情報局|筋肉痛の症状・原因)
筋肉痛でもトレーニングしていい?
前述した通り、筋肉痛は、筋線維が回復する際に起こる炎症だと考えられています。つまり、「筋肉が回復に専念している状態」とも言えるので、筋肉痛が出ている時にハードなトレーニングを行うことは避けたほうがいいでしょう。
また、筋肉痛があると全力で動けなかったり、痛みのせいでフォームが崩れたりしてしまいます。もしも、筋肉痛を感じる時にトレーニングをしたい場合は、筋肉痛のない別の部位を鍛えるか、ウォーキングなどの負荷が軽い種目に挑戦してみましょう。
筋肉痛を緩和させる方法は?
ここでは、筋肉痛の痛みを和らげたい場合に有効的な方法をいくつかご紹介します。
(1)トレーニングした部位を温める
トレーニングをした後は、蒸しタオルを当てる、お風呂にゆっくり浸かるなどして、身体を温めましょう。筋肉痛が気になる部位の血流を促すことで炎症をやわらげ、筋繊維の早い回復を促すことができます。ただし、温めすぎるとかえって炎症を強めてしまうことがあるため、人肌程度のぬるま湯に、15分〜20分程度ゆっくり浸かるのがおすすめです。
また、同時に患部を揉みほぐすようにマッサージを行うと、さらに効果を高めることができるでしょう。
(参考:OmRON 痛みwith|筋肉痛を早く治す、簡単にできる予防と対策法)
(2)熱をもっている場合は冷やす
ハードなトレーニングをした直後は、筋肉に熱がこもりがちです。この熱を逃がすために、氷や冷却スプレー、シャワー、水風呂などを活用して、まずは身体を冷やしましょう。そのうえで身体を温めることで、血行の促進を図ることができます。
こちらも、冷やしすぎは逆効果になってしまうため、あまりにも長時間の冷却は避けた方が良いでしょう。
(3)ストレッチ・軽い運動で血流を促す
筋肉痛の痛みがある場合、あまり身体を動かしたくないという人も多いでしょう。しかし、軽い運動を行なって全身の血行を促進したほうが、筋肉痛の回復を早めることができます。
筋肉痛でトレーニングができない間は、無理のない範囲でストレッチやウォーキングなどに取り組んでみましょう。
やみくもにハードなトレーニングだけをしていても、理想のスタイルが手に入るとは限りません。筋トレをより効率的に行うために重要なのは、筋肉が成長するための仕組みを理解することです。その上で、「筋肉の超回復」は重要なキーワードになるでしょう。
今回紹介したトレーニングスケジュールや、栄養補給・筋肉痛への対処法をうまく活用して、効果的な筋トレを行ってみてくださいね。