物をつかむときなど、日常生活のあらゆる場面で欠かせない握力ですが、パッと見て力の強さがわかるものではないため、普段から気にすることは少ないかもしれません。
しかし、握力を鍛えることで、スポーツだけでなく、日常生活でもメリットを感じられる可能性があります。この記事で握力の計測方法や平均値を知り、効果的に鍛える方法を確認してみましょう。
正確な握力の測り方
握力は大きく分けると3種類あるとされています。一つ目は、物を握るときに発揮されるクラッシュ力、二つ目は物をつまむときに使うピンチ力、三つ目は握った状態を維持するためのホールド力です。そして、一般的にいう「握力」とは、このうちのクラッシュ力のことを指しています。
クラッシュ力は「スメドレー式握力計」と呼ばれる握力計を使って計測する場合が多く、このスメドレー式握力計には、細かな数値が計れるデジタル式と目盛りで見るアナログ式があります。
計測手順
スメドレー式握力計を使った計測手順は以下の通りです。
1.スメドレー式握力計を利き手に持ちます。
2.人差し指の第二関節が直角になるよう、握力計の握り幅を調整します。
3.握力計の目盛りが外側にくるように持ち、直立姿勢で力いっぱい握ります。
4.反対側の手でも手順3と同じように計測します。
5.左右各2回計測した後、平均値を出します。
握力計の使い方
スメドレー式握力計を使って握力を計測するときは、とくに以下の2点に注意しましょう。
1つ目は、握力計が身体に接触しないようにすることです。もし服や胴体に握力計が触れていると正確な握力を計測できない可能性がありますので、腕を自然に下げた状態でグリップのみを手で握り計測を行いましょう。
2つ目は、振り回さないことです。握力計を乱暴に動かすと正確に計測できないだけでなく、周囲にぶつけてけがをさせてしまうおそれがあります。そのため、握力を高めようとして勢いよく腕を振り下ろしたり、腕を曲げて上下左右に動かしたりしないように注意しましょう。
(参考:健康長寿ネット|正確な握力の測定方法)
握力の平均値
ここでは年齢ごとの平均値を紹介します。自分の握力の程度を把握するために、測定結果と平均値を比較してみましょう。
成人男性の握力平均
スポーツ庁が実施した「平成30年度体力・運動能力調査」によると、20~24歳成人男性の平均握力は45.97kg。年齢とともに少しずつ上昇し、35~39歳の平均握力47.14kgがピークとなっています。
その後は、年齢が上がるにつれ平均握力が低下し、65~69歳では40kgを下回る結果となりました。各年齢別の握力平均は以下のようになっています。
成人女性の握力平均
スポーツ庁が実施した「平成30年度体力・運動能力調査」によると、20~24歳成人女性の平均握力は28.12kgで、ピークは35~39歳の29.02kgです。
成人男性に比べると下降幅はゆるやかで、60代前半までは26~28kg程度の握力が保たれているようです。70代になると握力が低下し、25kgを下回る結果となりました。
各年齢別の握力平均は以下のようになっています。
学生の握力平均
スポーツ庁が実施した「平成30年度体力・運動能力調査」によると、小学6年生(12歳)の男子は平均握力が23.94kgですが、中学1年生(13歳)の平均握力は30.39kg。約6.5kgもの差が出ています。また、女子にも同様の傾向が見られ、12歳と13歳の平均握力を比較すると約2.5kgの差が出る結果となりました。
男女問わず、育ち盛りの10代の場合は年齢による平均握力の差がつきやすく、学年が上がるにつれて握力も強くなっていく傾向があるようです。各年齢別の握力平均は以下のようになっています。
握力を鍛えるメリット
握力が平均値よりも低かったからといって、落ち込む必要はありません。握力はトレーニングによって高めることができるからです。握力の具体的な鍛え方を見ていく前に、握力を鍛えるメリットを確認しておきましょう。
日常生活に役立つ
握力は日常生活を送るうえで欠かせない力のひとつです。例えば、ビンのふたが固くて開けられないとき「握力がもっとあれば……」と思った経験はないでしょうか。ほかにも、濡れたタオルを絞る、ドアノブを握って開ける、買い物袋を持つなど、何気ない動作でも握力が必要になります。
また、全身の筋肉と関係が深い握力は、介護の面においても握力は重要視されており、体力の低下した高齢者の筋力を計測するときの指針となることも。さらに、資生堂が実施した研究調査(※)では、高齢者の握力と日常生活動作(ADL)自立度との関係性に言及しています。この研究調査によって、高齢者が日常的な化粧行為を継続すると握力が強くなり、ADLが向上することが実証されました。これにより、介護者の負担も軽減されたのだといいます。
このほかにも、握力低下による疾病リスクの研究が様々な機関で進められており、健康維持を目的とした握力の重要性は注目が高まっているテーマといえるでしょう。
(※参考:資生堂|継続的な化粧行為が高齢者の日常生活動作を向上させることを実証)
筋トレの効率アップ
筋トレにおいても、握力は重要視されています。例えば、バーベルをつかんだり、バーを引っ張ったりと、器具を使ったトレーニングでは常に握力が活躍しているからです。
とくに、大きな筋肉が集まっている背中や腰などの部位を鍛えるときは、握力が不足しているとスムーズな動きができない場合もあります。筋トレの効率をアップさせるためにも、握力トレーニングを取り入れてみましょう。
スポーツのパフォーマンス向上
野球やバスケットボール、テニスなどでは、手先の正確なコントロールに握力が求められるため、握力強化がトレーニングメニューに組み込まれることがあります。ほかにもスポーツクライミングのように、手で長時間体重を支える必要があるスポーツでも握力は欠かせません。
握力の鍛え方
握力トレーニングと聞くと、すぐに思いつくのがハンドグリップを使ったトレーニングではないでしょうか。もちろん、ハンドクリップは握力を鍛える代表的アイテムのひとつですが、身の回りの物を使って簡単にトレーニングすることもできます。ここでは、握力を鍛える方法をいくつか見てみましょう。
ハンドグリップを使うトレーニング
握力を鍛える代表的アイテムのひとつである、ハンドクリップを使ったトレーニングです。ハンドグリップを片手で握り、ゆっくりと握る動作と開く動作をくり返します。片手のみを鍛えるのではなく、反対側の手でも同様にトレーニングを行いましょう。
ハンドグリップで握力を鍛える場合は、自分に合った負荷の商品を選ぶことが重要となります。楽に握れてしまう強度のハンドグリップを使っても、筋肉に負荷をかけることができないため、8割程度の力で10~20回程度開閉できるものを選ぶといいでしょう。
また、自分の好みに合わせて強度が調節できるハンドクリップも販売されています。年齢別平均握力も参考にしながら、自分にあったアイテムを選びましょう。
(参考:HIMARAYA|ハンドグリップ)
器具を使わないトレーニング
ハンドグリップが家にない場合は、布やペットボトルを活用したトレーニングがおすすめです。
【布を使う場合】
- 乾いた雑巾かタオルを用意します。
- 両腕を伸ばした状態で布の両端をつかみ、雑巾を絞るときのように3秒程度かけてぎゅっとひねります。
- 元に戻し、次は反対側に向かってひねります。
この動作を各10回ずつで1セットとして、3セット行うとピンチ力を鍛える握力トレーニングとして効果が期待できます。
【ペットボトルを使う場合】
- 水を入れたペットボトル2本用意する。この時、ペットボトルの容量は自分の握力や腕の筋力に合わせて調整し、無理をしないようにしましょう。
- 左右の手に1本ずつペットボトルを持ち、腕を前に伸ばします。
- そのまま手のひらを上に向けた状態で、手首を使ってペットボトルを上下に動かします。
- 次に手の甲を上に向け、先ほどと同じようにペットボトルをゆっくりと上下に動かします。
この動作を各15回程度を目安に続けましょう。
このほかに、道具を使わない握力トレーニング方法もあります。やり方はとてもシンプルで、お風呂に入ったとき、湯船の中で手のひらを開いたり閉じたりするだけです。簡単に見えますが、回数を重ねるごとに前腕筋に負荷がかかっているのを実感できるでしょう。1セットを30回として2~3セット程度行うと、握力トレーニングとして効果が期待できます。
(参考:NHK健康ch|運動で健康「握力と腕力を強くしたい」)
日常の中でも何かと役立つ握力はなるべく維持しておきたいもの。記事の中でも紹介した通り、成人男性は45kg前後、成人女性は27kg前後が平均値となっています。握力が平均よりも低かった場合は、毎日少しずつ鍛える努力をしてみてください。
特別な器具を買わなくても、布やペットボトルなど身近なものを使うだけで握力は簡単に鍛えることができます。健康的な生活を送るためにも、握力トレーニングを取り入れてみてはいかがでしょうか。