私達は1分間に平均15〜20回呼吸をしているとされていますが、これを1日に計算し直すと約3万回にも及びます。このように、無意識に行っている呼吸ですが、実は運動や食事と同じくらい、私達の健康に大きく関わっていることをご存知でしょうか。
特に、「腹式呼吸」を意識してしっかり空気を肺に取り込むことで集中力アップやリラックスなど、様々な効果が期待できると考えられています。この記事で、腹式呼吸の仕組みやメリット、やり方を詳しく確認してみましょう!
腹式呼吸と胸式呼吸の違い
一般的に呼吸は、胸式呼吸と腹式呼吸に分けることができます。この2つの主な違いは、呼吸時に身体のどこを意識して動かすかという点です。
胸式呼吸は、私たちが普段意識無意識に行なっている呼吸法で、主に肋骨や胸の中心部にある胸郭を広げるイメージで呼吸します。上半身の上部を動かすため、深い胸式呼吸を行うと肩が上下に動くのが感じ取れるでしょう。交感神経が優位に働くため、胸式呼吸は運動時に向いているとされています。
一方、腹式呼吸はおへその下10cmあたりにある「丹田」と呼ばれる場所に力を入れ、お腹の中の圧力(腹圧)を増減させるイメージで呼吸します。これにより、肺の底部にある横隔膜が大きく上下に動き、呼吸量を大幅に増加させることができるのです。腹式呼吸では副交感神経が優位に働くため、リラックス効果が期待できると考えられています。
(参考:湧水製薬株式会社│腹式呼吸でリラックスや便通改善効果も?!)
腹式呼吸のメリット・効果
リラックス効果以外にも、腹式呼吸には多くのメリットや効果があると考えられています。
大きな声を出せる
腹式呼吸では吐く息をコントロールしやすいため、大きな声を簡単に発することができるようになります。また、吐息を細かくコントロールできるため、発声の強弱もつけやすくなるでしょう。
(参考:〜声で、未来が変わる〜 株式会社TALKNAVI(トークナビ)│腹式呼吸をマスターしよう!~メリット~)
声が枯れにくくなる
カラオケなどで歌を歌う際に無理に大きな声や高い声を出していると、すぐに声が枯れてしまいます。これは、喉に無理な力がかかり続けて、喉周辺の筋肉が疲れてしまうためです。
腹式呼吸は、喉がリラックスした状態を保って発声できるため、長時間声を出しても喉への負担を感じにくいという利点があります。
副交感神経を刺激し、リラックスできる
人間の自律神経は交感神経と副交感神経という2つの神経から成り立っており、交感神経は緊張や興奮状態で優位になり、副交感神経はリラックス状態で優位になるとされています。
この自律神経は私達の意思とは無関係に働きますが、呼吸を意識することによって2つの神経のバランスを調整することができます。横隔膜を大きく動かしてゆっくりと呼吸する腹式呼吸では、副交感神経が刺激され、高いリラックス効果が得られるでしょう。
(参考:Daiwa│自律神経、呼吸法で調整)
便通がよくなる
ゆっくりと長いリズムで行う腹式呼吸は、お腹周りにあるインナーマッスル(呼吸筋)を鍛え、便通を改善する効果が期待できます。
呼吸筋には、姿勢を改善・保持する働きがあり、ここが鍛えられて日常的に正しい姿勢が取れるようになると、内臓が正しい位置に収まります。そうすることで、腸の動きが活発になり、便通が改善されるのです。最近便秘気味だなという人は、まずは腹式呼吸やお腹周りのストレッチを試してみてください。
ダイエット効果がある
腹式呼吸は、お腹周りのシェイプアップにも効果が期待できます。
腹横筋、内肋間筋といった筋肉で構成される呼吸筋は、お腹の中央から背中にかけて、コルセットのように体幹部を覆っています。そのため、呼吸筋を鍛えることでお腹全体を引き締めるような効果が期待できるのです。さらに、姿勢が整いやすくなったり、運動時の安定性がアップしたりといった効果も期待できるため、トレーニングなどによるダイエット効果も自然に高まるとされています。
「呼吸筋」という名前の通り、お腹周りのインナーマッスルは呼吸を行うことで鍛えられるため、お腹周辺を大きく動かす腹式呼吸は、絶好のトレーニング種目と言えるでしょう。
腹式呼吸のやり方・コツ
ここまで、腹式呼吸には多くのメリットや効果があることを紹介しました。ここからは、具体的に腹式呼吸を行うときに注意したいポイントやコツを解説していきます。
(1)姿勢を正す
背筋を伸ばして姿勢を正した状態になります。このとき、立った状態、座った状態のどちらでも構いません。
(2)息を吐く
お腹を凹ませながら息を吐きましょう。息と一緒に身体の中にある老廃物をすべて出してしまうイメージで、なるべく息を吐ききりましょう。慣れていない人は、自分の丹田(おへそから10cm下の部分)に手を当てて、しっかり凹んでいるか確かめながらやるのがおすすめです。
息を吐ききるとき、猫背にならないように気をつけてください。息を吐ききったら、お腹にも全身にも力が入っているため、軽く脱力しましょう。
(3)息を吸う
(2)でしっかり息を吐ききっていると、脱力したときに自然と空気を取り込もうとするはずです。肺に空気が入り、肺の下にある横隔膜が下に押し下げられているという状態をイメージしながら、息を吐いた時間の倍くらいの時間をかけて、ゆっくりと息を吸いましょう。
この時、丹田を中心にお腹が膨らむように意識してください。
(4)息を吐く
(2)と同様に、お腹を凹ませつつ息を吐きます。(3)でしっかり息が吸えると、やはりここでも自然と息を吐く動作が行えるはずです。
深呼吸では、先に「息を吸う」ところから始める場合がほとんどです。しかし、腹式呼吸の場合は最初に息を吐ききるところから始めたほうが、全体の動作をスムーズに行うことができます。
正しく腹式呼吸を行うと、丹田を中心に腹部にじんわりとした疲労感を覚えます。回数は1日5回程度からスタートし、慣れてきたら1日10〜20回と無理のない範囲で回数を増やしてみましょう。特に、リラックスしたい夕方や夜、寝る前などに行うのがおすすめです。
寝ながらできる腹式呼吸のトレーニング
休憩時や就寝前など、もっとリラックスした状態で腹式呼吸をやりたいという方は、寝ながらできる腹式呼吸のトレーニングを試してみましょう。
(1)あお向けの状態になる。
この時、胸とお腹に手を当てて、呼吸時にどう膨らんでいるかを確かめられるようにしましょう。脚は伸ばしきらずに膝を立てると、横隔膜が動きやすくなります。
(2)息を吐く
お腹を凹ませながら、ゆっくり大きく息を吐きます。一度に息を吐きづらい場合は、まずは口を大きく開いて息を吐きましょう。次に、口を少しすぼめて小刻みに息を吐き、最後に肺の空気をすべて押し出すイメージで、息を吐ききるようにしてください。
その後、立っている状態(座った状態)で腹式呼吸の手順と同様に、息を吐いたら一度脱力します。
(3)息を吸う
脱力後、鼻からゆっくり息を吸いましょう。このとき、胸の上に置いた手が、動かないようにするのがポイントです。お腹にあてた手だけが動いていれば、腹式呼吸ができている状態と言えます。
あお向けの姿勢でできる腹式呼吸は、寝る前の習慣として、1日5回から自分のペースでやってみましょう。
歌うときに行う腹式呼吸のコツ
よく通る声で気持ちよく歌えるようになりたい!そんな方にも腹式呼吸の習得がおすすめと言えます。
実際に歌を歌っている時に重要視すべき点は、口ではなく鼻で息継ぎを行うということです。口で息継ぎをしたほうが一度に多くの空気を吸い込むことができますが、喉が渇きやすくなるだけでなく、胸式呼吸になってしまいがちです。
しかし、鼻で息を吸うことで、自然とお腹が膨らみ腹式呼吸ができるため、発声がしやすくなります。さらに、喉の乾きも防ぐことができるため、鼻での息継ぎは一石二鳥と言えますね。
(参考:ミュージックスクールウッド│ボイストレーニングの基本 【3-1】 腹式呼吸をやってみよう!)
毎日のちょっとした時間に腹式呼吸を取り入れるだけで、手軽にリラックスした時間を作ることができます。さらに、ダイエット効果も期待できるため、最初から腕立て伏せやスクワットなどの腹筋運動をするのは難しいという方は、まずは腹式呼吸を始めてみてはいかがでしょうか。
普段何気なく行っている呼吸を見直すところから、生活の質を高める工夫をしてみましょう。