数年前から始まった「年金生活者支援給付金制度」。まだ広くは知られていない新しい制度であるため、初耳の人も多いのではないでしょうか。この制度は、各種年金を受給している人のうち所得が一定基準以下の人に対し、生活を支援する目的で給付金を支給するものです。
この記事では、年金生活者支援給付金制度をよりよく理解するため、まずは公的年金制度のおさらいをしてから、給付金を受給するための条件や給付額、手続き方法などについて詳しく解説します。受給条件を満たした時に活用できるよう、この機会にこの新制度に親しんでおきましょう。
年金生活者支援給付金制度とは
「年金生活者支援給付金制度」とは、受給している年金を含めても所得が低い人々の生活を支援するために、年金に上乗せして給付金を支給する制度です。消費税率が10%に引き上げられたことを受けて始まったもので、増税によって増えた税収を活用して実施されています。
まずは公的年金制度をおさらい
名前のとおり、「年金生活者支援給付金制度」は年金生活者を支援するための制度です。そこで、まずは日本の公的年金制度についておさらいしておきましょう。
公的年金制度の仕組みについて
年金制度とは、働いている間に年金保険料を納付しておくことで、高齢になった時に老齢年金を受け取ることができる仕組みです。年金は「2階建て」と聞いたことがある人も多いでしょう。この例えのとおり、日本の公的年金制度は、1階部分に当たる「国民年金」、そして2階部分にあたる「厚生年金」で構成されています。
1階部分なしで2階部分だけの家が存在しないように、国民年金なしで厚生年金だけに加入するということはありません。国民年金には一定の年齢層の全ての人が加入を義務付けられており、一部の人が、それに加えて厚生年金にも加入することになります。
この年金の構造と加入者の種類を図にまとめると、次のようになります。
(参考:厚生労働省 いっしょに検証!公的年金│日本の公的年金は「2階建て」)
国民年金(基礎年金)
国民年金は「基礎年金」とも呼ばれ、日本に住んでいる20歳以上60歳未満の全ての人が加入を義務付けられています。毎月の保険料の額は年度ごとに一律で定められており、2021年度は月額16,610円です。
保険料の納付期間は20歳から59歳までの40年間で、この期間中漏れなく国民年金保険料を納付した場合、65歳以降亡くなるまで、毎月約65,000円の「老齢基礎年金」を受給することができます。納付の猶予を受けた期間や未納の期間がある場合には、その分受給額が減ります。
厚生年金
厚生年金とは、会社員などが国民年金にプラスして加入するものです。毎月の保険料が一律である国民年金と異なり、保険料は各加入者の基準となる時期の給料に、一律で定められている保険料率18.3%を掛けて算出されます。
ただし、「労使折半」といって、厚生年金保険料は加入者個人と勤務先が半分ずつ負担することになっているため、個人が負担するのは18.3%の半分の9.15%となります。また、企業経由で納めた保険料の中からまとめて国民年金に拠出金が支払われますので、厚生年金に加入している人は、1階部分である国民年金の保険料を別途支払う必要はありません。
厚生年金保険料を1カ月以上納付した人は、受給開始年齢に達すると「老齢厚生年金」を受給することができます。受け取ることができる年金の額は加入期間と給料に応じて決まるため、個人差が大きくなります。
(参考:楽天生命│公的年金とはどんな制度?老齢・障害・遺族年金を徹底解説!)
年金生活者支援給付金制度の利用条件
「年金生活者支援給付金制度」を利用して給付金を受け取るためには、所得などに関するいくつかの条件を満たしている必要があります。老齢基礎年金の受給者以外に、障害基礎年金や遺族基礎年金の受給者に対する給付金もありますので、対象者の種類別に条件を見ていきましょう。
老齢基礎年金の受給者である
65歳以上で老齢基礎年金を受給している人の場合、次の3つの条件を満たせば「老齢年金生活者支援給付金」を受給することが出来ます。
1.65歳以上の老齢基礎年金の受給者であること
2.同一世帯の全員が市町村民税非課税であること
3.前年の公的年金等の収入金額とその他の所得との合計額が77万9,900円以下であること
なお、3つ目の条件にある「前年の公的年金等の収入金額とその他の所得との合計額」が779,900円を超えている場合でも、879,900円を超えない範囲である場合には、「補足的老齢年金生活者支援給付金」を受給することができます。
(参考:日本年金機構│老齢年金)
障害基礎年金の受給者である
公的年金制度のもとで障害基礎年金を受給している人の場合、次の2つの条件を満たせば「障害年金生活者支援給付金」を受給することができます。
1.障害基礎年金の受給者であること
2.前年の所得が462万1,000円以下であること
扶養家族がいる場合は、その人数に応じて前年度所得の上限額が上がります。
障害基礎年金とは
障害年金とは、病気やケガによって障害を負い、生活や仕事が制限される状態になった場合に、年齢にかかわらず受給できる年金です。老齢年金と同じように、「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の2階建ての仕組みになっています。
障害基礎年金を受給できるのは、国民年金に加入している期間中、あるいは20歳になる前か60歳以上65歳未満の期間中、いずれかの時期に診断を受けた病気やケガにより、法律で定められている障害等級1級または2級に該当する状態にある人です。
(参考:日本年金機構│障害年金)
遺族基礎年金の受給者である
障害基礎年金と同様に、遺族基礎年金を受給している人の場合も、次の2つの条件を満たせば「遺族年金生活者支援給付金」を受給することができます。
1.遺族基礎年金の受給者であること
2.前年の所得が462万1,000円以下であること
所得に関する条件は、先ほどの障害基礎年金と同じです。扶養家族がいる場合は、その人数に応じて前年度所得の上限額が上がります。
遺族基礎年金とは
遺族年金とは、国民年金や厚生年金の被保険者が死亡した場合に、その被保険者によって生計を維持されていた遺族が受給できる年金です。老齢年金や障害年金と同じように「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2つがありますが、それぞれ受給要件が異なるため、状況に応じてどちらか一方、あるいは両方が支給されます。
遺族基礎年金は、死亡した被保険者が受給要件を満たしている場合に、その被保険者によって生計を維持されていた子、または子のある配偶者に受給資格があります。この場合の「子」とは、18歳以下または18歳になった年度の3月31日までの期間にあり、未婚である者を指します。ただし、障害等級1級または2級に該当する場合、20歳未満で未婚であれば「子」として扱われます。
(参考:日本年金機構│遺族厚生年金(受給要件・支給開始時期・計算方法))
給付金額はいくらもらえるのか
受給している年金の種類に応じて、3種類の給付金があることを紹介しました。続いては、受け取ることができる給付金の額はいくらなのか、詳しく見ていきます。
計算方法
年金生活者支援給付金の給付額の計算方法は、それぞれ次の通りです。
1.老齢基礎年金生活者支援給付金
月額5,030円が基準ですが、次の式のとおり、保険料納付済期間と保険料免除期間に基づいて計算されます。
保険料納付済期間に基づく額(5,030円 × 保険料納付済月数/ 被保険者月数480月) + 保険料免除期間に基づく額(10,845円× 保険料免除月数/ 被保険者月数480月)
2.障害基礎年金生活者支援給付金
障害等級に応じて定額が支給されます。障害等級が2級の場合は月額5,030円、1級の場合は月額6,288円です。
3.遺族基礎年金生活者支援給付金
一律で月額5,030円が支給されます。ただし、2人以上の子が遺族基礎年金を受給している場合、一人あたりの受給額は5,030円を子の人数で割った金額となります。
給付額のシミュレーション
上述のとおり、障害年金と遺族年金の受給者の場合は給付額が決まっていますが、老齢年金受給者は個別に計算が必要です。具体的にいくら受け取ることができるのか、老齢基礎年金生活者支援給付金の給付額をシナリオ別にシミュレーションしてみましょう。
まずは、保険料免除を受けた期間が無く、40年間欠かさず保険料を納付した場合を考えてみましょう。この場合、保険料納付済み期間が480カ月、保険料免除期間は0カ月であるため、計算式は次のようになります。
(5,030円 × 480/480月)+(10,845円 × 0/480月)=5,030円+0円=5,030円
続いて、5年間保険料免除を受けた場合はどうでしょうか。この場合、保険料納付済み期間が420カ月、保険料の全額免除期間が60カ月となるため、計算式は次のようになります。
(5,030円 × 420/480月)+(10,845円 × 60/480月)=4,401円+1,356円=5,757円
免除を受けた期間の方が基準額が高く設定されているため、免除を受けた期間が長いほど、より多くの給付金を受け取ることができます。
なお、免除期間の基準額は、全額免除、3/4免除、半額免除期間の場合は上の式のとおり10,845円ですが、1/4免除の期間については、この半分の5,422円となることに注意してください。
(参考:日本年金機構│老齢基礎年金(昭和16年4月2日以後に生まれた方))
年金生活者支援給付金制度はいつまで利用できるのか
年金生活者支援給付金制度の終了時期は特に定められていません。今後変更がない限り、給付金は受給者が死亡するまで支払われます。
ただし、1年ごとに前年の所得等に基づく支給判定が行われますので、収入が増えた等で受給条件を満たさなくなった場合は、その翌年から受給資格がなくなります。
(参考:鳥取市役所 │国民年金)
年金生活者支援給付金制度の手続方法
年金生活者支援給付金を受け取るためには、日本年金機構に対する認定請求の手続きを行う必要があります。具体的な手続き方法を確認しておきましょう。
請求書(はがき)を提出する
既に年金を受給している人の場合、日本年金機構が毎年市町村から所得に関する情報を受け取り、受給条件を満たすかどうかを判定します。
前年よりも所得が低下した等の理由で新たに支給対象となった人には、日本年金機構からはがき型の「年金生活者支援給付金請求書」が郵送されてきますので、この請求書に必要事項を記入し、切手を貼って投函することで、認定請求の手続きが完了します。
市民課窓口で手続きをする
これから年金の受給を開始する人の場合は、年金の裁定請求手続きを行う必要がありますので、その際に年金生活者支援給付金の請求書もあわせて提出することで、認定請求の手続きが完了します。
なお、すでに老齢基礎年金を受給している人の場合であっても、世帯分離を行ったことで市民税の課税対象者が世帯からいなくなり、2つ目の受給条件(同一世帯の全員が市町村民税非課税)を満たすようになった場合などは、自分で手続きを行う必要があります。この場合は、市役所の窓口か年金事務所で認定請求を行いましょう。
年金生活者支援給付金制度のその他疑問
最後に、年金生活者支援給付金制度についてのよくある疑問とその回答をまとめました。
生活保護受給者も対象になるか?
年金生活者支援給付金制度は各種年金の受給者を対象とするものであるため、生活保護受給者は対象外です。
年金と生活保護の両方を受給している場合は対象となりますが、この制度で支給される給付金は収入として認定されるため、給付金を受給した場合は、受け取ることのできる生活保護の額がその分減り、実質的に受け取る額は増えません。
年金生活者支援給付金の支給は何回?
年金生活者支援給付金は、受給条件を満たしている限り継続的に受け取ることができ、回数に制限はありません。2カ月分をまとめて支給されるため、1年間の支給回数は6回です。
対象者数は決まっているのか?
令和元年度の予算において、3種類の年金生活者支援給付金の対象者が合計約970万人と見積もられていましたが、実際の受給者数に上限はありません。
年金生活者支援給付金制度はいつから開始したのか?
年金生活者支援給付金制度は、消費税率が8%から10%に引き上げられたタイミングに合わせて、2019年10月1日に始まりました。
年金生活者支援給付金の支給日はいつ?
支給日は年金支給日と同日です。偶数月の中旬に、前月分までの2カ月分がまとめて振り込まれます。
(参考:厚生労働省│よくあるご質問(Q&A))
年金生活者支援給付金は、老齢年金、障害年金、遺族年金という3種類の年金の受給者のうち、所得が一定以下の人々を対象とする給付金です。給付金を受け取るための条件や給付金の額は、受給している年金の種類や年金保険料の納付済み期間などによって変わりますので、いずれかの年金を受給している人は、まずはこの記事で解説した条件を確認してみてください。
条件に当てはまる場合には、記事の後半で紹介した方法で早めに手続きを行うことをおすすめします。また、今は条件に該当していない人でも、今後所得が減った場合や世帯分離などで世帯構成員が変わった場合には条件を満たすようになる場合がありますので、大まかな条件を頭に入れておくと良いでしょう。