お笑いコンビ「髭男爵」と言えば、ワイン片手にさまざまなネタを披露する姿が思い浮かびます。しかし、コンビのひとりであるひぐち君は、もともとお酒を飲めなかったのだとか。
その後、ひぐち君は難関資格である「日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート」を取得。オンラインサロン「ひぐち君の日本ワイン会」では、毎週ここでしか味わえない交流会を開いています。
ひぐち君はなぜ、ここまでワインにハマったのか。その背景を聞きつつ、ワイン専門家のひぐち君におすすめのワインを聞く「ワイン大喜利」にチャレンジしてもらいました!
そして今回の取材・撮影には、全国主要都市にワインショップを展開している、「エノテカ」の広尾本店様にご協力をいただきました。
福岡県福岡市出身。1999年にお笑いコンビ・髭男爵を結成。「爆笑レッドカーペット」など数多くの番組に出演する。日本ソムリエ協会ソムリエドヌール(名誉ソムリエ)であり、協会認定ワインエキスパートの資格を取得。ワイナリーを約100軒訪問し、日本ワインを中心に年間1400種類以上のワインを飲む。
仕事の失敗からワインにハマりだすまで
ーーそもそも、ひぐち君はなぜワインにハマったのですか?
僕はもともと、お酒はあまり飲めませんでした。ワインなんて、ほとんど飲んだことがなかったんですよね。それでも「ルネッサ~ンス」という持ちネタがあるということで、毎年ボジョレーヌーボーの解禁イベントには呼んでいただくことが多かったです。
スーパーとかのイベントが多かったんですが、あるとき品川プリンスホテルの格式高いイベントに呼ばれました。しかも、普段はイベントに呼ばれるだけなのに、その時は実際にボジョレーを一口飲んで、味について聞かれてしまったんです。
「何かそれっぽいこと言わなきゃ」と思い、あてずっぽうで「今年のボジョレーは重たいですね〜」と。それがまさかの正反対の味だったらしくて、変な空気になっちゃったんですよね…(笑)。
それをきっかけに、「これはちゃんと勉強しないと」と思い、ワインスクールに通ってワインエキスパートを取りました。知識ゼロからのスタートで、多分人生で一番勉強したと思います。
ーー営業のお仕事がきっかけで、ワインをちゃんと勉強しようと思ったのですね。
ワインのことを勉強するうち、「テロワール」という言葉を知りました。
※テロワール(terroir)
これはフランス語の「土地(terre)」から派生した言葉。ワインの味わいに関するぶどうの生育環境(土壌、地勢、気候など)の特徴を説明する際に用いられる。
ワインは「土地の味が出る」と言われます。例えばシャブリ地区という、ワインの産地として有名な場所があります。ここはかつて海の底にありましたが、地面の隆起によって陸地となりました。
その名残からか、シャブリの土地は海由来のミネラルが豊富です。そのため、「シャブリのワインは牡蠣に合う」と言われるんです。
これ以外にも、オーストラリア産のシラーズというワインは、ユーカリの木が多く生えているからか「ユーカリメントール」というスース―する感じがあります。
さらに長野・桔梗ヶ原のメルローというワインは、ごぼうの香りを感じたりもするんですよ。こうした情報を知れば知るほど「ワインって面白いな」と感じるようになり、どんどんハマっていきました。
ーーなるほど。産地独特の味が出るのですね。
そのなかで、僕が特にハマっていったのが日本ワインでした。なのでオンラインサロンでも、日本ワインを中心に発信していきたいと思ったんですよね。
「日本一の日本ワイン会」
ーーオンラインサロンでは、毎月交流会を開いていますよね。どんなことをしているのですか?
コロナ前はオフ会がメインでした。僕自身、日本のワインを飲み比べしたいと思っていたので、あるときは「日本のソーヴィニヨン・ブラン(白ワイン用のぶどうの品種)を30本集めて飲む会」などを開きましたね。
日本産のソーヴィニヨン・ブランだけを30本飲む会は、おそらく他にはありません。サロンにはワインマニアやワインに詳しい方も多いんですが、そんなメンバーさんに「ここは日本一の日本ワイン会だ」と言われたのが、すごく嬉しかったです。
ただ、参加者の皆さんには「頼むから、これ以上ワインを増やさないでくれ」とお願いされたことがあります(笑)。仮に1本10分くらいのペースで飲んでも、30本だと5時間くらいかかってしまうので…。
ーー嬉しい悲鳴ですね(笑)。それだけ多くのワインをどう集めるのですか?
そこが結構大変なんです(笑)。この会を開くために、店頭やオンラインショップでなんとかしてワインを買い集めるので。エノテカさんの店舗やサイトも、よく利用しています。
でも、そうやって集めたワインを飲み比べることで、それぞれの味の違いをはっきり感じ取れるんです。例えばさっきのソーヴィニヨン・ブランの会だと、北で造られたワインはレモンやグレープフルーツなど、柑橘系の香りがあります。
それが南に行くにしたがって、トロピカルフルーツな香りになるんです。他にも「中国地方のワインの飲み比べ」とか「2,000円以下の日本ワイン」とか、さまざまなテーマで会を開いています。
ーーかなりバリエーション豊富ですね。オフ会を開くにあたって、気をつけていたことはありますか?
若い世代の方でも、参加しやすい金額設定にすることでした。僕のサロンは20代~60代まで幅広いんですが、とにかくワインを飲む若い世代を増やしたいなと。
日本のワイナリーは、近年急増しているんです。5年前には300軒ほどだったのが、今は400軒を超え、じきに500軒を超えることでしょう。
このサロンで、ひとりでも多くの人がワインを飲んでくれるようになれば嬉しいなと思っています。
濃すぎる話を聞ける「オンラインワイン会」
ーーコロナ禍になり、オフ会をやるのがむずかしくなってしまいましたよね。今はどんな活動をしているのですか?
今は「オンラインワイン会」と称して、毎週Zoomを使った配信をしています。2020年の5月からはじまり、もうすぐ100回目を迎えますね。
オンラインワイン会では、造り手さんにワインの解説を聞いたり、僕が造り手さんとトークしたりしながら、皆さんとワインを楽しみます。後半では直接質問できる時間も設けています。
ワイナリーを見学しても、聞けることは大抵決まっています。ワイン会だと造り手さんもお酒を飲んでいるので、普段聞けない濃い話をめちゃくちゃ聞けるんです。しかもワイン会は90分〜120分と長時間なので、より深いお話も聞けますしね。
ーー造り手の話を直接聞けるのは、ワクワクしますね。
僕はよく「ワインは知れば知るほどおいしくなる」と話します。例えば旅行先にお城があったとしても、知識がない人は「きれいだな」と写真を撮って終わりです。もしお城の歴史的背景を知っていると、実際に目にしたときに大きな感動が生まれるじゃないですか。
ワインもそれと同じで、説明を受ければ受けるほど、味をおいしく感じられるようになるんです。「山形・上山市のこの畑のシャルドネで造られたワインは、ラ・フランス(西洋なし)の香りがする」と聞いてから飲むと、実際にラ・フランスの香りを感じられるようになるんです。
ーー聞くことではじめて、香りに気づけるのですね。
日本ワインに限らず、フランスやイタリアとオンラインでつないで、現地のワインを教えてもらうこともあります。僕は毎回その話をメモにしながら飲んでいて、毎回4,000字くらいのノートにまとめて参加できなかったメンバーさんも読めるよう、サロンにアップしているんですよね。
これがまた、めちゃくちゃ大変なんですよ(笑)。情報量もすごくて、いずれ1冊の本にできるんじゃないかなと思っています。
「ワイン大喜利」開催!ひぐち君はこんなとき、どんなワインを選ぶ?
ーーここからは少しテイストを変えて、ワインエキスパートのひぐち君に「ワイン大喜利」にチャレンジしてもらおうかと思います。こちらが出したお題に合う、おすすめのワインを教えてください。
ーーそして今回は、取材にご協力いただいた「ワインショップ・エノテカ 広尾本店」で取り扱っているワインの中から厳選!エノテカ 広尾本店は、国内最大級のワインショップで、フランスワインやイタリアワインをはじめとした約1500種類の銘柄を取り揃えているそうです!
それでは、早速大喜利に参りましょう!最初のお題はこちらです!
なるほどタイムスリップですか…。
それでは「DOMAINE KUHEIJI」の「コトー・ブルギニョン」をお願いします。
「九平次」という日本酒を造る萬乗醸造の当主、九平治さんが手がける赤ワインです。ラベルに書かれているドメーヌ(Domaine)とは、主にブルゴーニュ地方で使われる言葉のことで、自分で畑を持ち、ブドウを栽培してワイン造りまでを行う生産者を指します。
九平治さんはフランスへわたり、日本酒のプロモーションを行っていました。その時に必ず、「お前たちのお酒はどんな環境(栽培地、栽培方法)で造っているのか」と聞かれたそうです。
日本酒の場合、酒蔵がいちから米の栽培をしているケースは多くありません。それを聞いた九平治さんは、米造りから日本酒を造ろうと決めました。そして、世界の主流であるワインをもっと知るために、本場でワインも造ろうと決意したそうです。
ーーそれで、わざわざフランスでワイン造りをはじめたんですか。すごい意気込みですね。
日本人で、しかも日本酒の生産者がブルゴーニュでワインを造っているというのは、30年前の人が聞いたらビックリするんじゃないですかね。
ーーありがとうございます!確かに30年前に持っていって披露したいワインとエピソードでした!では次のお題です。
ーー映画『幸福の黄色いハンカチ』のワンシーンで、網走刑務所を出た島勇作(高倉健)が、駅前の食堂で久しぶりにビールを飲むというシーンがありました。もしワインだったらひぐち君は、一口目にどんなものを選ぶのかなと。
6年服役かあ、いったい何をやらかしたんでしょうね(笑)。それでは…「ルイ・ロデレール コレクション242」をお願いできますか?
シャンパンというのは、シャンパーニュ地方で造られるスパークリングワインの一種です。シャンパンはシャンパーニュ地方の伝統製法である「瓶内二次発酵製法」など、手間をかけて造られています。そのため、お値段的にも安くて5,000円以上というのが多いです。
僕は、シャンパンはお祝い事にいいお酒だと思っています。自分へのお疲れ様という意味合いも込めて、これを飲むのはどうかなと。
ちなみに、映画『プリティウーマン』ではイチゴとシャンパンを合わせているシーンがあります。果実の酸味が同調して、すごく合うそうです。刑期を終えたらどこかのホテルに泊まり、お風呂に入ってジュリア・ロバーツのようにシャンパンとイチゴを楽しんでほしいですね。
ーーすごく優雅なワンシーンですね。辛い生活を乗り越えてから飲むシャンパンは心に染みそうです…。では続いてこちらのお題です。
悲しいお題ですね(笑)ここは「シュヴァル・ブラン」をお願いします。
このワインは、『サイドウェイ』というアメリカの映画で登場しました。フランスのボルドー地方、サン・テミリオンで作られている、カベルネフランとメルローというぶどうを主体としたワインです。
ボルドー地方のワインは、力強いイメージですが、このワインは、エレガントで優しさや繊細さを感じられます。ものすごく高価なワインで、1本約12万円するんじゃないかな。
ーー12万円!なかなかの高級ワインというわけですね。
映画『サイドウェイ』では、主人公が奥さんと別れもう復縁ができないと知り、今まで大事に取っていた『シュヴァル・ブラン』をがぶ飲みするというシーンがあります。ハンバーガーショップに入り、紙コップに入れて飲むという、かなりもったいない飲み方で(笑)。
ーーなんてもったいない(笑)でも話を聞くだけでも印象的なシーンですね。
自暴自棄になるくらいの大失恋です。自分を慰めるという意味でも、「シュヴァル・ブラン」のような偉大なワインを飲むというのはありではないでしょうか。
このワインが熟成されるまでの年月には、おそらく彼女と付き合っていた時間も含まれていることでしょう。そんな彼女との思い出とのマリアージュを楽しむのもいいですよね。まあ、振られちゃってますが(笑)。
ーー切ないですがお題にピッタリのワインでしたね。では最後のお題にいきましょう。
このお題には、フェラガモ ファミリーの手掛ける「ロゼ・デル・ボッロ」をお願いできますか?
ーーフェラガモって、ファッションブランドのフェラガモですか?
そう。実はフェラガモは双子の兄弟で、ジェームス・フェラガモがファッションブランドを担当し、3代目であるサルヴァトーレ・フェラガモがワイナリーの最高責任者を務めています。
ちなみに、フェラガモは村全体がワイナリーになっていて、まるで中世ヨーロッパにタイムスリップしたような場所になっているんですよ。レストランもあるし、そこで結婚式を開くこともできます。
ーースケール感がすごいですね…!
ロゼワインは、白ワインと赤ワインの中間のような存在です。日本でロゼを飲む文化はあまり見られないですが、実はロゼは世界的に流行っています。
フランスで消費されるワインのうち、約30%がロゼと言われているんですよ。ロゼが有名なプロヴァンスでは「俺はロゼしか飲まない!」というこだわりを持った人もいるんだとか。
ロゼはものすごく万能なお酒なんです。コース料理でも、前菜からメイン、デザートまでこなせます。魚料理も肉料理もいけて、中華でもいけるんですよ。
ラズベリーのような香りがあり、フレッシュな酸味を感じられる。冷やして飲むとサラダや和食にも合いますよ。
ーー「ワインってどんな料理と合わせればいいんだろう」と悩み、ワインの敷居を高く感じる人は多いと思います。そんな時に、ロゼはすごくいい選択肢ですね。
赤ちょうちんのお店なら、ロゼ1本あればなんにでも合うと言えるくらい万能です。値段も2,500円ほどで決して高くないですしね。
あと、ワインに合わせるコツとしては、例えばお刺身なら醤油にちょっとオリーブオイルをたらしてあげると、よりワインに寄り添った味わいを感じられるんじゃないでしょうか。オリーブオイルはイタリア産のものが多く、フェラガモもイタリア産ですしね。
ーーいろんな楽しみ方があるんですね。大喜利はこれで終了です。ありがとうございました!
今後の活動について
ーーオンラインサロンで、今後やりたいことなどをうかがえますか?
メンバーは、現在60名ほどです。まずは100名を目指しつつ、コロナが落ち着いたら国内ワイナリーツアーをやりたいですね。ゆくゆくは、海外ツアーもできればと企画しています。
ただ、コロナ禍がおちついてもオンラインのワイン会は継続したいです。オフ会の時は、やはり東京近郊からのメンバーさんが集中しがちでした。オンラインにしたことで、全国のメンバーさんが参加できるようになったので。
造り手さんの中には、この会限定でワインを出してくれることもあります。ワイン会を続けられるのは、そうしたワイナリーの方やワイン関係者の方に支えられているので、とてもありがたいです。
ーー生産者の方も、積極的に参加してくださっているんですね。「ひぐち君の日本ワイン会」には、今後どんな人に入会してほしいですか?
若い方から人生の大先輩まで、幅広く参加してほしいです。特に若い世代で、あまりワインを飲んだことがないという人に入ってもらって、ワイン愛好者をどんどん増やしたいですね。
ワイン会では、僕が造り手さんにメンバーを紹介することがあるんです。「〇〇さんはこれまで、日本ワインをまったく飲んだことがなかったんです」と伝えると、すごく喜んでくださいます。
フランスでは大五郎感覚で、ワインを楽しんでる人もいますからね(笑)。細かなルールはひとまず置いておいて、自由に好きなように楽しんでいただければと思います。
ひぐち君は「ワインは知れば知るほどおいしくなる」と話していましたが、その言葉の通り、詳しい人に話を聞けば聞くほど「ワイン、ちょっと飲んでみたくなるかも…!」という気分にさせられました。
これからワインを飲んでみようかなという皆さんは、ぜひ今回の大喜利で登場したロゼなどから、ワインを楽しんでみるのはいかがでしょうか。もっともっと日本ワイン、そして世界のワインを知りたくなった人は、「ひぐち君の日本ワイン会」を要チェックです!
そして「まずは自分でワインを買ってみようかな」という方は、エノテカの各店舗に足を運んでみてください。お店では、ソムリエの資格を持つ店員さんが、専門家としておすすめのワインを教えてくれます。