落語と人生をたっぷりと楽しむオンラインサロン「らくご長屋」。オーナーは早稲田大学法学部卒という経歴をお持ちの落語家、立川 談笑さんです。
法学部へ進学したにもかかわらず落語家を目指したきっかけ、落語初心者におすすめの落語の楽しみ方、運営するオンラインサロンについてなど、じっくりお話を伺いました!
落語家。1965年東京都江東区に生まれる。早稲田大学法学部卒業後、予備校講師などを経て1993年に立川談志に入門。1996年、異例の速さで二ツ目に昇進。2003年「六代目立川談笑」を襲名。2005年に真打に昇進。
とりあえずやってみなきゃ、落語が自分に合っているかわからない
ーー談笑さんは早稲田大学の法学部を卒業されていますよね。そこから落語家を目指すことになったきっかけは何だったのでしょうか?
もともとは法律家を目指し、早稲田大学へ進学したんですよ。ところが、司法試験というのは難しくて。「この人は絶対に司法試験に受かる」といわれていた人でも落ちてしまい、1年浪人する…という状態を目の当たりにしてきました。
大学を卒業して予備校講師として働いてはいましたが、司法試験に受かるにはまだまだ勉強に時間がかかるな、と。そう思ったとき、今やりたい、今しかできない仕事って何だろうと考えるようになりました。
「そういえば子どもの頃、落語が好きだったぞ」と、ふと思い出し、「なら落語家目指すか」となったわけです。
ーー法律家から落語家へと歩む道を変更されたわけですね。ご家族の反応はどうでしたか?
親は泣いていましたけどね(笑)
兄弟の中でも私は勉強ができたほうで、実際に早稲田大学へも進学しました。親戚はみんな期待していて、すごい出世頭になるぞ!と言っていたそうです。
それが芸人になるって言うんですから、全員総崩れですよ。ダメだ〜って(笑)
でもね、あけすけに言っちゃうと、絶対落語家になってやる!ってほどじゃなかったんです。落語が合わなければすぐに撤退するつもりでした。
ーーそうだったんですか?
だって、人前に出て落語をしゃべるなんて、今までやったことないわけですよ。それが自分に合っているかどうかなんて、わからないじゃないですか。
草野球の試合に出た事ないのに、プロ野球選手を目指すようなもんですよ。打席に立ってみて、意外に打てるんだったらやってみようと。打てないんだったら私が来る世界じゃないな、って。
司法試験の勉強をまたがんばるのもいいし、別の仕事やってもいいやってぐらいの気持ちで入門したんです。
司法試験の勉強が活きて2年で昇進
ーー入門当時27歳だったとのことですが、落語家を目指すには少し遅いような印象を受けてしまいますが…
落語家には前座、二ツ目、真打の3階級があります。ほぼ年功序列で昇進することが多いですね。
でも、私の師匠 立川談志の立川流では、前座から二ツ目への昇進に「落語を50席演じられて、踊りができて、太鼓ができて…」などの基準を設け、実力制度にしました。
通常なら二ツ目に昇進するのに、入門して3年から5年かかります。26歳という入門には遅い年齢からのスタートでしたから、談志のこの考えにすごく惹かれたんです。
ーー完全な実力主義ってことですね。談笑さんが二ツ目に昇進したのはいつでしょうか?
入門して2年めですね。基準にあった落語50席は、半年で覚えました。
ーー半年で50席ですか!?すごいですね!
司法試験の勉強をしていましたからね。暗記は得意なんです(笑)日本国憲法をすべて覚えていましたからね。
予備校の講師もしていましたから、大量に暗記する方法なんかを教えている側でもありましたから。
ーーそう考えると、落語家の土台ができていたんですね。
落語を覚えるだけでは二ツ目には昇進できないですけどね。踊りや太鼓もできなくちゃいけない。この基準を満たすのに時間がかかりました。
談志の家で「お前二ツ目ね」と言われて昇進した瞬間のことは忘れられないですね。前座は師匠が飯食っている間、ずっと立っておかなくちゃいけない。グラスが空いたら交換してって。
なのに「二ツ目ね」と言われた瞬間に「座れ、そこ」って。ビールで乾杯、おめでとう、ですよ。感動しましたね。
ーー「昇進を発表する場」がある、というわけではないんですね。
そうです。OKもらったその瞬間から。
談志は喜んでくれましたよ。長らく二ツ目に昇進する弟子がいなかったですからね。
談志のことを厳しすぎる人だという話もよくありますが、私はそうは思わない。相当優しい人だったし、でも、感情的な人でもあった。自分が感情的だからこそ、できるだけ合理的であろうとした人なんです。
基準を決めて公言し、私情を挟まずに判断する。基準を満たしていたならOK、満たさなきゃNG。自分でしっかりとルールを課している人でしたよ。
落語の世界へ踏み込むなら、まずはホール落語へ!
ーー大変失礼ながら、落語って今まで聴いたことがないんです…寄席に行けばいいんですかね?
寄席っていうと新宿末廣亭や鈴本演芸場なんかを思い浮かべる方が多いんですが、まずは寄席ではなく、ホール落語に行くのがおすすめです。
ーーホール落語ですか?
寄席ではなく、落語会です。独演会とか二人会ってやつですね。コンサートホールや、なんとか会館ってとこで行われています。
寄席はぎゅっと詰め込んだテーマパークみたいなもんなので、ちょっと上級編。まずは落語をじっくり堪能できるホール落語がおすすめですね。
ホール落語もあっちこっちでやってるんで、どれに行けばいいのかわからないでしょうからおすすめを言うと、お住まいの地域の行政が開催しているのがいいですね。
ーー掲示板などでポスターを見たことがあります!
そうです、そうです!ああいう落語会って気楽に行けるし、何より安いんですよ。しかも間違いない噺家が来ますからね。初心者にとっては一番楽しめると思います。
あと、居酒屋さんとか、お蕎麦屋さんなんかでやってることもあるんです。着飾って綺麗な装いで来る必要はないし、気軽に楽しめるのが落語。
ぜひ、気楽に落語を聴きにきてきてほしいですね!
落語家とお客さんのお付き合いの場所「らくご長屋」
ーーオンラインサロン『立川談笑「らくご長屋」』について教えてください!どのようなコンテンツがあるのでしょうか?
ライブ収録した落語を視聴できます。今、200席くらいアップしていますね。
というのも、コロナ禍でみなさん外出できない時期があったでしょ。気がふさいじゃってしょうがないでしょうから、なんとか気楽になってもらえないかってね。手持ちの音源とか映像をどんどんアップしていったんです。そしたらすごい数になってしまってね(笑)今後見やすいように整理していく予定です。
あとは、落語のほかに「ジョーク」を集めたライブラリも用意しています。
ーージョークですか?どういった内容なのでしょうか?
古い小話だとか、海外から仕入れてきたジョークなんかを、今の日本の人たちが楽しめるようにブラッシュアップしているんです。私が創作したものもありますけどね。
落語だけではない笑いも提供していますよ。
ーー楽しそうですね!私みたいな落語初心者でも「らくご長屋」に入居できますか?
もちろんです!質問コーナーもあるので、どの落語がいいのかわからない、なんてときは気軽に聞いてください。
落語を受け手として楽しむだけじゃなく、落語会の主催者になるためのレクチャー会もありますよ。
ーー落語会を主催するんですか!?
落語家を呼ぶ時にどうアプローチすればいいのか、メッセージの文面から交渉の仕方、依頼の相場などを赤裸々に解説します。
公の場では言えないですからね。サロンならではの企画だと思っています。
ーーたしかに、どうやって交渉するのかなんてわからないですものね。とても気になります!今後のサロンの展開としては、どのようなことをお考えでしょうか?
落語会が終わった後に一緒に飲める「打ち上げ」や、落語にゆかりのある場所を散策するオフ会「落語さんぽ」など、リアルに会える機会を増やしていく予定です。
サロンは「落語家とお客さんのお付き合いの場所」だと思っています。落語はアーカイブでももちろん楽しんでいただけるんだけども、やっぱりライブが一番。クローズドの落語会へのご招待などで、実際に落語を楽しんでいただく、直接のコミュニケーションを目指しています。
落語っていうのは人と人の摩擦やふれあい、コミュニケーションを扱っています。そしてその落語をお客様が客席から楽しむ、この形そのものもコミュニケーションなんです。
落語は心のデトックス。これからも、実際に顔を合わせてのコミュニケーションを大事にするため、直接会える機会を増やしていきたいですね。
「オンラインサロンをやっておいて言うのもなんだけど、やっぱり落語はライブが一番!ぜひ実際に落語を聴きに来てほしい」そうアツく語ってくださった談笑さん。
なんとなく落語って敷居が高いイメージがあったのですが、そんなことはないそうです。教えてくださったホール落語で、落語デビューしてみようと思います!