夏休みの自由研究にも役立つオンラインサロンをご紹介するシリーズ。今回は「ショートショート作家・田丸雅智のオンライン研究室」オーナーの田丸先生に、夏休みの難問「読書感想文」を乗り越えるコツについてお伺いしました。読書感想文に悩む子どもたち、必見です!
1987年、愛媛県生まれ。東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。2011年、『物語のルミナリエ』に「桜」が掲載され作家デビュー。2012年、樹立社ショートショートコンテストで「海酒」が最優秀賞受賞。「海酒」は、ピース・又吉直樹氏主演により短編映画化され、カンヌ国際映画祭などで上映された。
一瞬で心揺さぶられる物語の世界へ
ーーまずは、田丸先生が運営されている「ショートショート作家・田丸雅智のオンライン研究室」について教えてください。サロンでは、どのような活動をされているのでしょうか?
僕の作家活動の裏側や、ショートショートについての情報発信、また、クリエイター同士の交流、イベントなどさまざまな活動をしています。
サロン内では、僕の作家活動について、かなり踏み込んだ内容にも触れていますね。
ーーそもそもショートショートに出会ったきっかけは何だったのでしょうか?
ショートショートと出会ったのは、小学校高学年の時。当時、読書も作文も苦手だった僕ですが、ショートショートを初めて読み、その魅力に引き込まれました。それからは、ショートショートを読むことにハマっていきました。
そんなある時、なんとなくルーズリーフにショートショートを書いてみました。当時、高校2年生。友人に見せたら面白いといってもらえ、そこで初めて読むだけではなく、自分でも書くという選択肢が生まれました。
当時なぜ自分で書いてみようと思ったのかは曖昧な部分もあるのですが、もともとものづくりが好きだったので、文章においても大好きなショートショートをつくることをやってみようと思ったんじゃないかなと分析はしています。今でも「文章を書くことは、ものづくりに通じるものがある」と感じていますね。
ーーものづくりが好きだった田丸さんだからこその気づきだったのですね!ショートショートのどの部分に魅力を感じていますか?
読む・書くのそれぞれに魅力があると思います。
まず、読む魅力でいうと、1話あたり5分、10分程度であっという間に物語の世界へ連れて行ってもらえること。ラストにほっこりしたり、笑えたり、はたまたゾッとしたり、ホロリとしたり…心揺さぶられる結末が短い時間で体感できるというのが1番の魅力だと感じています。
書く魅力も、やはり短いというのがキーだと思っています。長編小説なら何週間、何ヶ月かけて創り上げますが、ショートショートは1時間程度で書けてしまいます。実際、僕が高校2年生の時に初めて書いたショートショートは、1時間もかからないくらいで完成しています。
また、とにかく自由なのも魅力です。現代ショートショートの定義などはあるものの、それを踏まえても懐が深いのがショートショートです。何でもありの世界で、自分の好きな世界を構築できる楽しみがあります。
読書感想文は、想像力が膨らむ本と出会うのがポイント
ーー夏休み企画ということで、宿題の定番、読書感想文についてお伺いしていきます!
大人になっても苦手だと感じる方が多い読書感想文…一番悩むのがテーマ選びだと思います。まずは、本選びについてのアドバイスはありますか?
そうですね…実をいうと僕も読書感想文が苦手だったので、夏休みの最後の方にやっていた記憶があります(笑)
当時の自分に言うのであれば、想像力が膨らむような本を選ぶことをアドバイスしますね。「読書感想文が苦手だ」と感じているのであれば、おのずと書きたいと思えるような状態を作ることが大切だと思います。読むことで、自分の中でさまざまな想像が広がるような本であれば、書きたい衝動がわきあがってくるのではないでしょうか。
それを考えると、短い時間で物語の世界へ入り込めるショートショートは、読書感想文にもおすすめですね。
ーー想像力を掻き立てる、書きたい衝動がわきあがるような本と出会うには、どうすれば良いでしょうか?
まずは本屋に行ってみましょう。そこで実際に本を触ってみるといいですね。パラパラとページをめくったり、表紙を見たりして、「なんだかおもしろそうだな」「このデザインの表紙好きだな」と、自分が感じる魅力に注目してみましょう。とにかくいろんな本に触れると、新たな発見があるのではないかと思います。
ーー最近では電子書籍で読める本も増えてきましたよね。やはり実際に手に取れる紙の本の方が良いですか?
僕も日頃からよく電子書籍を読みますから、気軽にどこでも読める点ではおすすめです。ただ、出会いというところでは紙の本が良いのではないかと思っています。本の質感、匂い、重さなど、すべての情報がその本と出会った経緯になります。
そういった意味で、本に出会った経緯も読書感想文として書ける可能性もあるのではないでしょうか。
感じたまま、自由に書いていい
ーー読書感想文は読むフェーズの次にある、書くフェーズもハードルが高いものだと思います。書くフェーズで取り掛かりやすくなるようなコツはありますか?
読書感想文は創造物で良いと思っています。自分がその本を読んで感じたこと、想像したことを自由に書いていい。読書感想文に正解や答えというものはないので、書くぞ!と力をいれなくてもいいんですよ。
その上で、自分が感じたことを言語化していきます。といっても、いきなり原稿用紙に向かって書くのではなく、メモ用紙などに本を読んで感じたことを書き出していきます。
例えば、夏の物語だったのなら「夏」、猫が出てきたのであれば「猫」、そして「なんだか涙が出てきた」など、単語レベルから文章レベルまで、自分が覚えていること、感じたことを言語化することからスタートしてみるといいですね。
作家でも、何もない状態から文章にするのは大変です。ですから、印象に残っていることをとりあえずどんどん出すことが大事ですね。
もし、親御さんが一緒にできるのであれば、親子で読書会などをしてもいいですね。お互いに感じたことを言葉に出して言い合うのも、言語化する感覚を身につけるのにおすすめです。
この時に気をつけたいのが、どんな言葉が出てきても否定しないことです。例えば、物語と関係ない話が出てきても否定せずに、思いついたまま言語化する。想像力は否定的、ネガティブな文脈に触れると一気に縮まってしまい、戻ってこない可能性があります。まずは肯定してどんどん言語化することが大事ですね。
ーー親子で読書会、いいですね!コミュニケーションという点でも、夏休みに取り入れたいです。
読書感想文が苦手という方が多いのですが、よく考えるとインプットの場が圧倒的に少ないんですよね。
小説を書くにしろ、小説を読んだことのない人に小説を書けと言うのは無理な話です。必ずインプットがあるはずですよね。
ですから、人の読書感想文を読んでみるのもいいですね。まずは読書感想文の型を学んでみる、構成を真似てみる部分からスタートするのもおすすめです。
書きたい衝動を芽生えさせて
ーー読書感想文だけでなく、「書く」ことを続けるためのモチベーションを高める方法はありますか?田丸先生の経験やアドバイスがあれば、教えてください。
これは僕が開催している書き方講座でも一番大事にしているのですが、いかに「書きたい」という衝動を芽生えさせるかということだと思います。
今の時代、衝動ベースで何かを書く時間が圧倒的に足りていないと感じています。これは大人も同じで、メールや企画書を書く時にも見え方や届け方に囚われがちで、想像力が縮こまってしまっています。
講座の中では、言葉と言葉を組み合わせ、その言葉から想像を広げ、短い物語を作ってもらいます。あくまでも衝動ベースで書くことが大事で、文章を整える部分や添削は講座では一切やりません。もし学校の授業などの関係で先生方が添削を行う必要がある場合でも、衝動ベースの時間とは完全に切り離して別で行っていただくことをお願いしています。
「書きたい」という衝動さえあれば、うまく書きたい、伝わるように書きたい、他にはどんな表現があるのだろう…といったところに大多数の人はおのずと辿り着くはずなので、根本的な衝動のところをお伝えすることで自走して上達していっていただけたらと願っています。
ですから、夏休みを機に親子で「書きたい」衝動を芽生えさせるコミュニケーションをとってみるといいですね。その点、ショートショートは言葉の組み合わせで想像して、短い物語を作れますから、ぜひチャレンジしてほしいと思います。
ーー書きたい気持ちさえ芽生えれば、あとは自然に書き続けられるということですね!
そうですね。先ほどお伝えしたような新たな考え方を知ることで動き出すことが、たくさんあると思います。
また、自分一人では難しいというような読書感想文も、親御さんと一緒にすることで新たな発見や気づき、さらにはコミュニケーションも生まれてきます。
これからも、さまざまな視点から新たな気づきや考え方をお伝えすべく、サロンも含めて活動を続けていきます。
「2023読書感想文におすすめの本」
田丸雅智・著『憂鬱探偵』
「電車で足を踏まれる」「定食屋で自分だけ料理がこない」など、日常の「憂鬱な出来事」の裏にひそむ秘密をイヤイヤ暴く探偵にまつわる9作を収録したショートショート集。
読後、現実世界で実際に憂鬱な出来事に遭遇したとき、とらえ方が少しでも変わり、気持ちがラクになればという願いをこめました。
ここに収録されている憂鬱な出来事に限らず、ぜひ自分でも身近な出来事に思いをはせ、「もしこうだったら?」と裏にひそむ架空の秘密を考えてみていただきたいです。そして、それをそのまま感想文として書いてみるのもアリなのではないかと思います。
「本との出会いも読書感想文に書いてもいい」そう聞くと、一気に読書感想文のハードルが下がったような気がしました。
宿題というだけで、見られる、添削されると思って縮こまってしまい、自由な発想や表現が抑えられてしまいがち。読書感想文は自由でいい!その考えがあれば、自然と「書きたい」衝動が生まれるのではないでしょうか。
さらに、田丸先生のオンラインサロンでは、想像力の扉を開くさまざまなイベントが開催されています。想像力を膨らませる言葉やアイディアと出会いたい方は、ぜひチェックしてみてください!