『花咲くいろは』『SHIROBAKO』『クロムクロ』など、数々の名作を世に送り出してきたアニメーション制作会社、P.A.WORKS。
この秋、彼らが運営するオンラインサロン「P.A.SALON」にて、新たなプロジェクトのスタートが決定しました!その名も、「沼カツ!」と呼ばれる今回のプロジェクトでは、各界のプロフェッショナルが顧問を務める、4つの超本格部活動が発足するとのこと。しかも、将来的には部活動の日常が、コミカライズやアニメーション化する可能性もあるというのだから、興味が尽きません。
本プロジェクトの発起人であるP.A.WORKS代表取締役の堀川憲司さんと、部活動の顧問を務める、和田瞬佑さん、吉田剛さん、コボ田形さんの3名に、「沼カツ!」の全容を語っていただきました。
沼カツ!公式サイト
P.A.WORKS
富山県南砺(なんと)市に本社を構えるアニメーション制作会社。2000年11月10日、タツノコプロ出身でProduction I.Gでプロデューサーを務めた堀川憲司が設立。P.A.WORKSは「Progressive Animation Works」の略。
和田瞬佑(わだ・しゅんすけ)さん
図工部顧問。富山県高岡市の彫金工房、和田彫金工房4代目。
吉田剛(よしだ・つよし)さん
家庭菜園部顧問。肥料作り、土壌改良などに携わる株式会社国際有機公社 代表取締役社長。P.A.WORKSと同様、富山県南砺市に本社を構える。
コボ田形 さん
サバゲー部顧問。COVO DESIGN代表で、フリーランスの編集者。横浜市在住。
部活動を通じて、知識、情熱、人との交流を積み重ねたい
ー今回、「沼カツ!」プロジェクトがスタートした経緯を教えていただけますか?
堀川氏:P.A.WORKSでは、月1回プロデューサーが集まって企画会議を開いています。この会議ではさまざまなオリジナル企画について話し合いますが、ある時、最近は部活動的な日常系で、知識を学べる作品が多いねという話題になったんです。
そこで、僕たちも何かこういったアイディアを考えられないだろうかと議論を始めたのが、「沼カツ!」プロジェクトがスタートするきっかけになりました。
新しいアイディア、面白いアイディア、知識や情熱を持っている人との出会い、人々の交流…。部活を通じて、様々な経験や人間関係を吸収し、モノづくりにフィードバックする機会を作りたいなと。また、部活動をきっかけに、ファンの皆さまとの交流の場を作っていきたいという構想もありました。
このプロジェクトは長期的なスパンで考えているので、すぐにというわけではありませんが、ゆくゆくは部活動での体験をP.A.WORKSオリジナル作品としてアニメ化できたらいいなと考えています。各部活の作品で横断的にキャラクターが登場するなんていうのも、面白そうですよね。
ー自分のエピソードが採用されたら、作品をとても身近に感じられそうです。今回発足するのは、家庭菜園部、図工部、サバゲー部そしてDIY部でしたよね。
堀川さん:そうです。現在、アニメ化されている部活系の作品は、「外に出て何かする」というコンセプトが特徴にあります。それを起点にアイディアを出し合い、4つの部活に絞り顧問を探し始めました。
プロの方に顧問をお願いすることにしたのも、その道に詳しくてうんちくを語れる人が、絶対に必要だと考えたからです。
ーそうだったんですね。皆さんは顧問のお誘いを受けた時、どんな思いがありましたか?
コボさん:アニメ好きのひとりとして、P.A.WORKSさんにお声がけいただいてとても嬉しかったです。「P.A.WORKSも、ファンとモノづくりをしていく」という点に、プロとアマチュアが入り混じってモノづくりをする時代なんだと強烈に感じました。
僕自身、この活動の架け橋になれるような関わり方をしていきたいですね。
和田さん:僕も、お話をいただいて率直に嬉しかったです。実は富山県高岡市って、銅像、仏像、仏具のシェアがNo.1の地域なんです。
そこで、アニメ・漫画・ゲームといった文化を愛する、若手の伝統工芸職人仲間と「高オタクラフト実行委員会」という製作チームを結成しました。P.A.WORKSさんとは、『クロムクロ』『サクラクエスト』で一緒に仕事をさせていただいたこともあります。
顧問のお話をいただいてから、モノづくりの観点で「この部活動はどうやったら成功できるだろう」と考え続けていて。課題や戸惑いも覚えていますが、そこを解決しながらモノづくりをしていくのも、面白い工程だなと感じています。
吉田さん:P.A.WORKSさんは私の会社とも近く、地元の銀行を通じて紹介いただきました。農業に関わる仕事なので、この部活動での交流を、地域にも反映できればと思っています。
堀川さん:コミカライズやアニメ化では、その分野が好きな人に「そうだよね!」という納得感がないと、興味を持ってもらえません。だからこそ、サバゲーや家庭菜園、モノづくりに情熱・愛情を持つ人の言葉が必要になるんです。
シナリオを考えるときも、「このシチュエーションなら、これが起きるだろう」と頭で考えるより、部活動での体験をもとに考える方がよりリアリティが生まれる。そのジャンルの専門的な知識のない女子高生が、部活を通じて様々なことを学び・教えてもらうという物語には、きっと部員がどんどん沼にハマっていく様子や失敗談が描かれることとなるでしょう。リアルな体験が盛り込まれることで、自然と物語が転がっていくアニメーションが作れる気がしています。
なお、DIY部は現在顧問が海外出張中のため自主練期間中。10月から合流予定です。
星の数だけある「沼」に皆で沈もう
ー今から、皆さんの活動が楽しみです。顧問の皆さんは、それぞれの部活動をどんなコミュニティにしていきたいですか?
コボさん:部員の方々が「沼にハマる」布石となる部活にしていきたいと考えています。「サバゲー」って、簡単にいうとエアガンで撃ち合う遊びなのですが、実は「撃つ」以外にも楽しみ方はいろいろありまして。
コスプレ観点でサバゲーを始める方には「着る」という楽しみ、コレクター気質の方には「集める」、スポーツが入口になった方には「競う」といったように、サバゲーの沼はとても多面的でそれぞれがとても深いので、各部員がどういった理由でサバゲーに興味をもったのかを丁寧にコミュニケーションを取りながら、適切な沼のハマり方をご案内できればなと!(笑)
また、せっかくの部活なので、顧問と部員、部員同士のやりとりを経て、何かしらの成長を一緒に体験できれば最高ですね。その成長が具体的にどんなものでそれをどうやって実現するのかは、これから決めていこうと思いますが、ひとりでも多くのヒトにサバゲ―の魅力が伝わればと思っています。
ー先生の存在も重要ですが、近しい観点で趣味を楽しめる人がいるというのは、とても貴重なことかもしれませんね。
コボさん:サバゲ―のようなマニアックな趣味って、世の中にいろんな情報が錯綜しているので、はじめる際に「難しい」と思われがちだと思うんです。
でも、実際はそんなことよりも「どう楽しむか」が重要ですし、どこかの誰かが決めた見えないハードルなんて、気にする必要もないと思っているので、部員には自分なりの楽しみ方を「沼カツ!」を通して見つけてもらい、それを皆で積極的に共有しあえるようなアットホームな空気感の中、部活を運営できればと思っています。
吉田さん:最近、マンションや自宅、庭で家庭菜園をやる人も増えていますよね。
野菜には季節の概念があって、地域によっても生育しやすいものは変わりますし、北陸と都内では環境の違いも大きいです。
だから、その人のやりたいことを、今いる環境でスタートできるようにするというのを主軸に、まず種をまき、肥料や水をやるというシンプルなところから始めたいですね。その過程で、もっと詳しく聞きたい人が出てくれば、柔軟に対応していきたいなと。
和田さん:図工部は当初「伝統工芸部」という名前で発足する予定でしたが、それだと入門のハードルが上がってしまうかもしれないという心配があったので、今の名称に落ち着きました。
図工やモノづくりとなれば、さまざまなジャンルに興味を持つ人が集まるだろうなと思っています。自分は彫金(金属工芸)ですが、革細工やフェルト、木材加工をしてみたい人も多いんじゃないでしょうか。図工部は、そういう方々が上手い下手関係なく同じ場所でモノづくりを楽しめる場所にしたいと考えているんです。
そうやって、モノづくりをやってみたいという初心者の部員を増やしつつ、いろんなモノづくりに挑戦していく過程で、沼に沈めていけたらなと(笑)。
僕が普段行っている金属加工の伝統工芸も、経験者は少ないので少しずつ紹介していけたらいいですね。
現実の部活を楽しむように
ー部活動の今後の予定も教えてください。
今川さん(P.A.WORKSスタッフ。プロジェクトの運営なども担当):
「沼カツ!」はオンラインサロン上の企画なので、メインの活動はオンラインで行われています。コロナ禍でも安心して、おうちで部活を楽しんでいただけるかなと。
2021年9月から、少しづつ部活動は動き始めているんですが、情報解禁直後から「気になる部活がある」「早く入りたい」というお声も多くいただいていて。実際、自宅の3Dプリンターでモノづくりを始めた、銃のグリップを自作したという人もいるくらいです(笑)。
ーすごい。かなり本格的に動いている人がいるんですね。
今川さん:こうした積極的な人もいる一方で、ひそかに興味を抱いている人もいることでしょう。だから、「沼カツ!」では部員皆さんが初心者という前提で活動していきたいと思っています。
各部活は1年間を区切りに活動し、来年は新しい部も発足する予定です。「沼」は星の数ほどありますから(笑)。ゆくゆくは、現実の学校のように部活ごとの色が出てくるといいですね。
サロンメンバーさんは、どの部活にも入部自由で、兼部も可能です。それぞれの空気感を、楽しんでもらえればなと考えています。
逆に、事情があって廃部になるという可能性もありますが、実際の部活にもありえることとして、ネガティブな出来事すらもネタにできればなと。新陳代謝を繰り返して、「沼カツ!」が発展していったらいいですね。
ーコンテンツ化を意識してそれぞれの部活をコントロールするのではなく、ドキュメンタリーとして捉えている感じですね。
堀川さん:最初からセッティングされたビジネスではなく、人間関係の構築も含めて、ゆるいところから手探りする。「何が起こるかわからない」というワクワクを、関係者全員で楽しみたいですね。
年間計画に沿って皆さんと活動するなかで、「こんなことがあった」「こんな失敗をしちゃった」というエピソードを、たくさんストックしていきたい。同時に、各分野に愛情を持った人々のうんちくを、たくさん吸収したいと思っています。
通常、1本のオリジナルアニメの制作には、約3年の時間を要します。「沼カツ!」はもっと長い時間をかけて、想像を膨らませていきたいですね。
自分の大好きな趣味を通じて、多くの人と出会う。ずっと興味があったジャンルに手を出して、仲間や顧問に教えられながら貴重な体験を重ねる。そして、純粋に部活動を楽しんだ先に、自分のエピソードがアニメの題材になる「かも」しれない。
アニメ好きにとって、こんなにワクワクする話があるでしょうか。アニメーション制作の立役者のひとりになりたい人も、好きなことを通じて仲間を増やしたい人も、趣味に没頭して沼にガッツリハマりたい人も。P.A.WORKSが始める「沼カツ!」の部活動に、ぜひ入部しましょう!