最後発の大型WEBメディア? 「文春オンライン」立ち上げの経緯
『ネットメディアsalon』のmeetupは、業界のトップランナー達をゲストコメンテーターとして招聘し、松浦茂樹さん(SmartNewsメディアコミュニケーションディレクター・元ハフィントンポスト日本版編集長)がファシリテーションしながら、メディア関係者ならではのコミュニケーションを行うサロン会員限定イベントです。
今回の「雑誌とネットの2017年」もWEBメディアはもちろん、テレビ、雑誌、新聞といったあらゆるメディア関係者で満員盛況となりました。
スタートから約2週間経ったばかりという「文春オンライン」。その立ち上げの経緯からトークセッションはスタートしました。
竹田直弘氏(文春オンライン編集長 以下:竹田):「週刊文春WEB」「文藝春秋WEB」「本の話WEB」が統合することは僕が編集長に就任する前から決まっていて、難しい仕事だと思っていましたね。
「文藝」と「春秋」が合わさった社名の通り、文藝春秋は文学とジャーナリズムをミックスした会社だというカルチャーがあって、昔は文芸部門の名編集者と、「週刊文春」や「文藝春秋」などの報道系で活躍した人が交互に社長になるという慣習があったくらいでした。
だから会社としては「週刊文春」だけでなく、その他のコンテンツも入れてほしいと期待している、でも実際にWEB上でウケるのは「週刊文春」のコンテンツである、そのあたりに難しさはありますね。
「文春オンライン」は、文学とジャーナリズムのミックスという、文藝春秋のカルチャーを体現するWEBメディアとしてスタートしたという竹田さん。
ちなみに、文藝春秋社の人気スポーツ雑誌「Number」のWEBメディア版である「Number Web」と女性誌「CREA」の「CREA WEB」は、すでにメディアとしての立ち位置がはっきりしているため統合の対象にはならなかったそうです。
話は立ち上げ時の人材確保に移ります。
竹田:「文春オンライン」は、集めるというより当初から3人の編集部で立ち上げることに決まってました。あとは社内のWEBチームが3人。会社の中にいるWEBプロパーの人の話を聞きながらやっているけど、WEB視点の意見を言う人を増やさないといけないだろうなと思っています。人材という点で言えば、まだ規模は小さいですね。
武政秀明氏(東洋経済オンライン副編集長 以下:武政):東洋経済オンラインが2012年秋にリニューアルする前は、実質的に編集長1人体制でした。リニューアル準備の過程で6~7人に増強されましたが、そのうち3人は兼務の仕事もたくさんあって、なかなかままならないことも多かったです。少人数で形成されてから、成長と共に人材が増えていった過程が思い浮かびます。
WEBメディアってどうすれば? 教えてセンパイ!
そして話題は、メディア立ち上げにおける目標や参考といった「ベンチマーク」へ。
武政: 「東洋経済オンライン」は2003年にスタートしたのですが、2012年半ばぐらいまでは月間500万PV程度のサイトでした。それがリニューアルによって、半年足らずで5,000万PVまで引き上げられました。
さまざまなことを変えたり、試したりしましたが、先行する競合サイトのことは結構研究して、マネができるところはマネをした。竹田さんは「文春オンライン」を始めるにあたって、どの程度研究しました?
竹田:僕らの会社っていい意味でアマチュアリズムがあって、わからないところはとにかく人に聞きます。だから編集部の3人で手分けして、名のあるウェブサイトを運営している人たち何十人にも話を聞きに行きました。みなさんけっこう教えてくれるんです。
うちは「週刊文春」はじめ、強いコンテンツを持っているからそれをどう出すべきか、技術、WEBメディアの作法まで。それとマネタイズについて。
武政:それが「おしえて、ウェブのセンパイ!」なんですね。
竹田:みんな口を揃えて「目標はPVじゃない」と言っているのが印象的ですね。「最初はPVだけど、ある程度のところで変わってくる」と。
武政:たしかに僕自身もPVを絶対視してはいけないと思っています。メディアとしての矜持を持った上で、その結果数字がくればいいと思っています。
ただし、雑誌と違って記事が読まれているかどうかが分かるのがWEBなので、数字に向き合うのは前提だと思っています。そうすることで読まれたいという願望が出てきて、タイトルや構成、掲載タイミングなどを考えてやっていくようになりますから。
竹田:「数字ばかり追いかけているとダメになる」とも言われましたね。でもそれは広告的なところも含めて意識しています。数字を取ろうとするとスキャンダル的な記事ばかりになって、メディアが殺伐とするだけでなくクライアントにも嫌われてしまうので。
同じコンテンツでも、読者層は雑誌とWEBで大きく変わる
「雑誌とWEB」という切り口で最も印象的だったのが、読者層の違い。それは同じコンテンツを掲載しても大きく変わるという場合も。
竹田:「文春オンライン」の想定読者層は30~40代のビジネスパーソンと言っていたのですが、実際に見ると20~40代が90%でした。「週刊文春」の読者層は40〜50代で、月刊誌の「文藝春秋」になるともはや60代以上が中心なんです。
でも「文藝春秋」のコンテンツを「文春オンライン」に載せると、30代くらいの人が読む。コンテンツが、紙の雑誌では出会えていない読者に出会えているのかなと思いますね。
松浦:もともと雑誌がオリジナルであるということから「雑誌に人が帰ってきてほしい」という話はありますか?
竹田:そういう考えもありますが、実際のところ、オンラインで「文藝春秋おもしろい!」と思っても、簡単に部数が右肩上がりになるかというと、疑問はありますね。それに今は、紙の売上を考えるよりも、どうWEBでマネタイズできるかを考えるのに精一杯です。
武政:うちは雑誌の特集の抜粋をオンラインで掲載する際、その雑誌を購入するためのアマゾンへのリンクを張ります。そこで分かったのは、本屋で売れる号とアマゾンで売れる号は違うということですね。
本屋で売れるのは特集のターゲットが50代以上の層である号。ネットで売れるのは30~40代程度を狙ったものです。
竹田:年齢層や特集を考えると、幕の内弁当をみんな食べなくなったという印象がありますね。 「Number」をやっていたときも、野球特集の号を作ったら「色んなスポーツを扱うコラムをやめて、まるごと一冊野球でやってくれ」という投書が来ました。
もともと「Number」は色んなスポーツを扱っている総合誌であることがウリだったのに、今はもう違うんだなと感じました。
武政:個人の関心がどんどん絞られていっているのを感じますね。だから課金のチャンスがあるとすれば「もっと深く入っていきたい」というところなのかと。
竹田:この前ニコニコ動画での「文春砲Live」でアイドルについての放送をしたところ、乃木坂の話題のときに8万人くらいの視聴者が見てくれたんです。でも、話題がジャニーズになったら「乃木坂早よ」というコメントがたくさん来て(笑)。
「文春砲Live」の視聴者は若い男性がメインということもあるのでしょうが、彼らは他の芸能人には興味がなくて、乃木坂しか好きじゃない。
武政:雑誌でもそれが起きているのを感じますね。「週刊ダイヤモンド」が慶応三田会の特集をしたら爆発的に売れて、「週刊東洋経済」で早慶MARCHを特集したらヒットしたのは端的な例かもしれません。
読者が「自分の関係するところなら買う」っていう感じになっちゃって、広く包括した総合的なものは売れなくなってきている。
竹田:Jリーグ特集は売れないけど、レッズ特集は売れるみたいな。
武政:固有名詞ですよね。「クルマ」じゃなくて「トヨタ」なら売れる。読者の「リアルに知っているものを、もっと知りたい」という要望を強く感じますね。
「ネットの読者層は若い」とよく言われてきたことですが、どうやら予想以上に紙の雑誌の読者層は高年齢化している様子が伺えます。そして、読まれる特集の傾向が、急激に狭まっているようです。
話が尽きない「雑誌とメディア」
トークセッション後の懇親会も含めて90分という時間設定のはずが、トークだけで90分を使い切るという充実の内容だった「雑誌とネットの2017年」。
ここでは紹介しきれないほどの話題に満ちた貴重な時間となりました。 もちろんこのイベントだけで結論や答えが出たわけではありませんが、多くのメディア関係者にとってのヒントや新しい課題発見の場となったのは間違いありません。
気になった方は「ネットメディアsalon」や、次回のmeetupに参加されてみてはいかがでしょうか?