「紳士の嗜み」と聞いてどんな趣味を思い浮かべますか? もしかしたらそこで浮かぶのは、ほとんどが西洋発祥の文化ではないでしょうか。
そこで、日本らしい紳士の趣味として紹介したいのが「盆栽」。盆栽はサザエさんの波平さんがやっている趣味というようなイメージを抱く人もいるかもしれません。
しかし、1981年2月15 日生まれという若さにして世界を股にかける盆栽家、平尾成志(ひらおまさし)の活動を見れば、きっとその印象は覆るはずです。
加藤蔓青園の門を叩き弟子入り。師事していた故加藤三郎の「盆栽を国内外問わずいろんな人に伝えられる人間になってくれ」という言葉を胸に、修業に励み海外へと活動の幅を広げてきた平尾成志氏に、趣味としての「盆栽」についてお話を伺いました。
盆栽は日々の世俗から離れることのできる趣味
−−平尾さんは盆栽のどこに魅力を感じられたのでしょうか?
平尾成志(以下、平尾):もともと盆栽自体に興味を持ったというよりも、日本文化の継承に興味を持ったのがはじめでした。京都の東福寺にある重森三鈴作・方丈庭園を見た時に、自分の悩みが浄化されるような気持ちになったんです。
その庭園は昭和の初期に作られたもので、僕が見たのが2000年ごろ。その間ずっと、誰かがここを管理して継承し続けて来たということに感銘を受けました。
そうして何かしら日本文化を継承する仕事に就きたいと思っていた中、縁があって盆栽と巡り合ったんです。盆栽を見た瞬間、実家の徳島で幼少期に遊んでいた林を思い出しておもしろく感じ、この道に進むことに決めました。
−−平尾さんは仕事として盆栽に向き合われているわけですが、趣味としての盆栽をどう思われますか?
平尾:僕も最初は素人で、何の知識も無いところで始めました。
盆栽は、ちゃんと観察しているとその時その時の表情をしていて、自分のやったことに対してちゃんと答えてくれます。まるでペットを飼うかのように癒しになりますし、嬉しい気持ちになれる趣味だと思います。
−−盆栽を趣味とすることで身に着くものなどはありますか?
平尾:感覚力や空間把握能力はつくと思います。でも、何よりも心に余裕ができますね。物を言わないものに対して愛情をそそぐ時、日々の世俗から離れることができます。人間にはそういう時間が1日1回は絶対必要じゃないかなと思いますね。
−−瞑想のようですね。
平尾:そうですね。僕も日々の仕事として盆栽だけじゃなくて、打ち合わせやパソコンに向かう時間が少なくありません。でも、木を触る時はメールも見ないで、ひたすら木と向き合います。そういう日のほうが充実感があるし、僕自身も癒されますね。
平尾氏の盆栽教室は、異様に高い
−−2006年にご自身の盆栽園である「成勝園」をオープンされて以降、こちらでは教室もされているんですよね。
平尾:はい。オープンする前は依頼されて出張で教えることもありましたが、「成勝園」を始めてからはここで教室を行なっています。でも、僕の教室ってちょっと変で、異様に料金が高いんですよ。
−−どうして高いのでしょうか?
平尾:軽食、ドリンク、アルコール全部含めた料金にしていて、4時間ほどかけて盆栽としてもだいぶ大きいものを作ってもらうんです。そして単発で終わりという形式なのも特徴ですね。
年間契約で年に12本も盆栽を持って帰ってもらうと、参加者の皆さんもお手入れが大変になってしまうので、今は単発で手を汚して盆栽の楽しさを知って、綺麗なものを作ってもらうという方針でやっています。
−−教室を開かれて、実際にやって来られるのはどういったプロフィールの方々が多いのでしょうか?
平尾:ほとんどが盆栽未経験の方ですね。おそらく不安も持ってらっしゃると思うのですが、できるだけフランクな空間を作って、気楽に質問ができる環境を心がけています。
お酒も入るので、盆栽や作品だけでなく、盆栽以外の話もして盛り上がりますね(笑)。
−−年齢層はいかがですか?
平尾:僕が比較的若いということもあり、30代や40代の方が多いですね。あとは海外の方も結構多いですよ。
出典:盆栽シザーハンズ
−−そして趣味として気になるのは、どれくらいお金がかかるのかということですが…。
平尾:そこまでお金のかかる趣味ではないですよ。安いものでは1,000円以下のものもありますし、全ての木が何十万円や何百万円もするわけではありません。高級なものは、その木が生きていた年数を始め、誰かが水をやって誰かが作ってきたという時間を買うみたいなものなのです。
−−この記事を読んだ方や、盆栽に興味がある方へのアドバイスをいただけますでしょうか。
平尾:盆栽以前に、植物は僕たちの生活にとって重要な存在ですし、自分以外を愛でることそれ自体にも癒しがあります。ぜひ自然のあるところに行ってみるなど、そういったところから始めてもらえればと思います。
そこで見て感じたものが盆栽にも見えたなら、そこで初めて盆栽を購入してみればいいと思います。分からないことがあったらいつでも何でも聞いてください。
盆栽初心者にもオススメのオンラインサロン
現代社会において、日々のタスクを忘れられる静寂な時間は貴重な人もいることでしょう。
そんなとき、趣味として、盆栽を育てるという選択肢を持つことによって得られる、喧騒を忘れた時間を手に入れるのもいいものだな、と思わせてくれる取材でした。
個性的な盆栽の見どころ、作品への想い、制作秘話など、平尾成志の作品紹介に始まり、一般にはお見せできない普段の手入れ、オリジナル作品制作、イベント・パフォーマンスなどの舞台裏について、写真や動画をアップしていくオンラインサロン「盆栽シザーハンズ」は現在メンバーを募集中。
盆栽以外にも、平尾成志が日常で気になったアート、音楽、ファッション、ニュースのシェア&討論も行われていますが、盆栽初心者に嬉しいのが「盆栽質問コーナー」。この機会に、ぜひ紳士の嗜みとして盆栽を始めてみませんか。