気分屋で、自分がこだわる部分に関しては執拗に子どもに干渉し、興味のないことは放置する「毒親」たち。声楽家でカウンセラーの宮澤那名子さんは、「毒親」に悩む人のオンラインサロン「ひだまりサロン〜親のこと、家族のことで悩む人のコミュニティ〜」を昨年4月に立ち上げ、今まで悩みを打ち明けられなかった「毒親育ち」の輪を広げています。
今回は、「毒親」について語り尽くす“毒親バナシ”前後編の後編。「ひだまりサロン」で行われる会員同士のコミュニケーションや、メンバーであるあかり(仮名)さん、りつ子(仮名)さんがどのようにサロンを使っているのかなどを紹介します。
前半の「『毒親』育ちのサロン会員が語る『ここがヘンだよ、毒親は』」に引き続き、今回も「毒親育ち」のライター・横山が、宮澤さん、あかり(仮名)さん、りつ子(仮名)さんの3名に話を伺いました。
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「毒親」を同じ温度感で話せる仲間が、探せど探せどいなかった
--改めてお聞きしますが、「ひだまりサロン〜親のこと、家族のことで悩む人のコミュニティ〜」を作ったきっかけは何でしょうか?
宮澤:まだ「毒親」という言葉がない頃、私は「お母さん つらい」「母親 ひどい」というワードを入れてGoogleで検索していました。すると、自分の知りたかった他のお母さんの情報もたくさん出てきた。その検索結果を目にした時に、「私と同じようにつらい思いをしている人たちが、この世にちゃんといる」とすごく励まされたんですね。
そして、親の問題で苦しむ誰かと共感しあいたいと思って、インターネットの中で自分に合う仲間を探すのですが、どうもしっくりこないんですよ。というのも「母親 ひどい」で検索すると、子どもを虐待する親御さんの例も出てきてしまう。そうなると、「いや、ウチの母はそこまでじゃないんだよな」と尻込みしてしまうんです。
あと、Twitterなどの無料のコミュニティで「毒親」についてつぶやくと、その意見にお説教してくる人が出てきます。「それはあなたの甘えです!」「きちんと育ててもらったのに、親に対してそんなことをいうあなたは!」なんて言われてしまうと、気持ちが一気に萎えますよね。
あかり(仮名):凹みますよね。「毒親」の手にかかったら「甘え」なんか通用しませんから。あと「親の世代はみんな厳しいものなんだよ」なんていうのもよく言われてきましたね。でもそういうことをいう人は、親が「毒親」じゃないんですよ。
宮澤:わかります。だから、「毒親」に悩んでいる人たちが同じ温度感で語り合える場を作ろうとずっと考えていて。そんな時に、偶然DMMさんのサロンのお話があり、語りの場が実現できるかもしれないと、まずはオンラインサロンを始めてみました。
私は有料のオンラインサロンに意義を感じていて、例えるなら「新宿御苑で見る花見」だと思っているんです。入場料を取る新宿御苑だと花見の跡もキレイで、きちんと桜を愛でる印象がありますが、無料で見られる代々木公園での花見だと、どうしても雑然としてしまう。それと同様に有料のオンラインサロンは、登録して、クレジットカードで決済してと、入会までに何段階も手順を踏みますよね。そういった手続きを経てでも入会してくださる方なので、きちんとした方が多い印象ですね。
--昨年4月に開設して1年以上経ちました。手応えはいかがですか?
宮澤:オンラインサロンを始めた当初は、プラットフォームがFacebookだけでしたので、会員数は10人程度。Facebookだと実名登録しかできず、「ひだまりサロン」の入会を知人に知られてしまうのがネックで、センシティブな話題を吐露するコミュニティには不向きでした。
でも昨年(2018年)8月から、匿名投稿のできるDMMオンラインサロン専用プラットフォームでの運用に変更し、そこから一気にメンバーが増えました。現在は37名の方に入会いただいています。
40名近い人数になってくると、皆さんが思い思いにコメントしやすくなりますね。自分の作りたかったコミュニティが、ようやく形になってきた感じです。
悩みから「住所閲覧制限方法」「裁判のやり方」までサロンで共有
--「ひだまりサロン」では、どういった形でメンバーの悩みを共有しているのですか?
宮澤:サロン内で、「ちょっと聞いてください」、「毒親にオススメの●●」、「エピソード集」といったトピックに分けて、情報共有をしています。
使い方は会員の皆さんそれぞれで、さっき起こった毒親エピソードを「ちょっと聞いてください」に書く方もいれば、自分の過去のエピソードを幼少期・青年期・中年期と分けて書くことで、気持ちを整理される方もいます。
そのほかですと「この本、良かったですよ」といった軽いトピックから、「本気で毒親から逃げるにはどうしたらいいの?」や「住所閲覧制限の方法」、「裁判のやり方」まで本当にさまざまです。
--「住所閲覧制限の方法」から「裁判のやり方」まで……ですか。サロン会員さんの持つ知識と、皆さんの格闘の歴史がすごいですね。
宮澤:サロンには実際に裁判を経験した方もいらっしゃるので、「その対応だと親が挽回してしまうので、この方法で対処したほうがいい」などとすぐにアドバイスをくださいます。
皆さん、本当にすごいんですよ。主宰の私がそこまでの知識がないことを、他の会員さんが答えてくださるので、本当にありがたいです。
りつ子(仮名):サロンの投稿を見ていると、どういうわけかどこの毒親さんも言動が似ているんです。風邪を引くとくしゃみが出るように、入口は違うのですが出口の言動は同じなんです。
--「どこの毒親さんも言動が似ている」という話が出ましたが、ありがちな「毒親あるある」を教えていただけますか?
あかり(仮名):ウチの母は自分がいらないものを、やたらと定期的に送ってきますね。
りつ子(仮名):あと外面がすごくいいんです。だから、私が親について過剰に言っているように見えて、周囲にまったく理解してもらえない。これは「毒親あるある」ですよね。
あかり(仮名):一見すると、普通に「子どもを思っている親」に見えてしまうし、周りからは「むしろいい親だね」なんて言われてしまう。
りつ子(仮名):そうなんです。「毒親」は自分自身を「すごくいい人」「頑張り屋」だと思っているフシがありますよね。子どもを虐待するような表裏のある人ならば、周りから見てもわかりやすいのでしょうが、「毒親」は仕事を一生懸命しますし、掃除が大好きで家をものすごくキレイにしますし。
あかり(仮名):ウチもです。実家はホテルみたいに生活感がありませんから。
宮澤:あと母の好意を無にすると、すごい勢いで怒られませんか?
あかり(仮名):怒られます。さらに見返りを求めてきて、親が送ったものを使わないと逐一チェックされます。私にくれた商品だから、私がどうしようと勝手なのに。
あとは電話をかけてきて、出ないと怒りますね。携帯も留守電になるだけで怒られます。
りつ子(仮名):ほとんど束縛ですよね?
あかり(仮名):本当に束縛ですよ。「束縛」しておいて、興味のない場合は「放置」。あとは「支配」(笑)!
--ちなみに皆さんの語られている「毒親」はお母さんですよね。「お父さんが毒親」という方はサロンにいらっしゃいますか?
あかり(仮名):時々父親が「毒親」という方もいらっしゃいます。ただ、9割型は母親に手を焼いている方ですけれど。
りつ子(仮名):ウチは父親も「毒親」な気がしますね。母は「支配」と「放置」の両方がありましたが、どちらかというと「支配」系。父は頼るとすぐに逃げる、事なかれ主義の「放置」気味な人でした。父を見て育つと「人は頼れない」と思いこんでしまう。人格形成に問題が出てくるから困りましたね。
サロンでは積極的に書き込む人もいれば見る専門の人も
--サロンに入って感じたことを教えてください。あかり(仮名)さんはいかがですか?
あかり(仮名):このオンラインサロンに入会した時、「私だけじゃなかったんだ」という安堵感がありましたね。自分に起こった出来事に対して、「すごくわかる」「ウチもです」と共感してもらえる。サロンに入るまで「親はそういうものだよ」とずっと周りから言われてきたので、自分の意見を誰も否定しないことが嬉しかったですね。
30代はずっと母の言いなりになって過ごしてしまったので、もっと早くこういったコミュニティに気づけば良かったとも思います。でも、母と共依存状態だった30代があったからこそ、話せることもあるんじゃないかと、今は前向きになれていますね。
--自分の起こったことに関して、サロンだと共感してもらえるということですが、あかり(仮名)さんはどんな投稿をするのですか?
あかり(仮名):「ちょっと聞いてください」への書き込みが多いですね。現在進行形の悩みです。
私は母と離れて暮らして、多少「毒親」問題について整理できるようになりましたけれど、今でも母と直接会うと落ち込んでしまうんです。そんな時に「ちょっと聞いてください」トピックスに書き込んで、他の人から言葉を少しもらうだけでも、少し気分が上がるんですよ。
--過去について書き込むことはありますか?
あかり(仮名):過去についてまだ語ることができないんです。そのうち投稿しようと思うんですけど、実際に語りだすと長くなっちゃう。いつかものすごく時間のある時に語ろうかなと思います。
--りつ子(仮名)さんはサロンをどうやって活用していますか?
りつ子(仮名):私は見る専門で、自分の内面を出すことがまだ怖くて出来ないんです。
というのも、今までの人生で母のことを打ち明けると、精神的にぶり返しのくることが多くて。母の問題は人に話してはいけないことなんだと、自分の感情に嘘をついて心に蓋をしてしまっていたんです。そのまま育った結果、感覚が麻痺した人間になってしまいました。
今は私の気持ちを代弁してくれるサロンの皆さんの投稿を見て、「私もこんな風に思っていたんだ」と後で気づかされることが多いですね。たまに「毒親対決」めいた勇敢な投稿を見ると、「私以外のみんなも、頑張って親と対決しているんだな〜」と感心したりして。そういった他の人の投稿が自分の励みになっていますね。
今後は自分の感情をサロンで素直に出しながら、自分自身を整理していきたいです。
親から奪われた主体性を段階的に取り戻す場を
--りつ子(仮名)さんは自分の感情に蓋をして生きてきたので、素直な気持ちをまだ出せないと話してくれました。これは自分らしさを失っているということですよね?
りつ子(仮名):やっぱり「毒親育ち」は、親から奪われた主体性を最終的に取り戻したいじゃないですか。でも主体性を取り戻すまでに、今まで言えなかったあんなことやこんなことをまず吐き出したいですよね。そのためにまず悩みや愚痴を共有するところから始めたいと思います。
宮澤:自分の素を出していけるまでのプロセスがほしいですよね。
りつ子(仮名):道徳的ではない親の元で、みんな自分の抑え方を体で覚えてしまっている。だから、自分を段階的に出していける場が必要ですね。
あかり(仮名):あとサロンの人たちは皆、真面目で優しい人が多くて。本当にきちんとした返事や共感の文章をくれるんです。
宮澤:皆さん、すごく文章が長いんですよ。返事をするために、こんなに時間を割いてくれたのって、優しさを実感します。
--「毒親育ちあるある」なのかもしれませんが、毒親育ちは「ちゃんとしなきゃ」という気持ちが強いですよね?
一同:それはありますね〜!
あかり(仮名):投稿された文章には、みんなが編集した跡もよく見える(笑)。伝えたいことをきちんと言わなきゃという思いがあふれているんですよ。
宮澤:この言い方だと、相手によっては不快に感じる人もいるかなとか。伝えるにあたって齟齬のないように、皆さんそれぞれ気をつけていますよね。
--最後にこれからサロンに入会する方へのメッセージをお願いします。
りつ子(仮名):それぞれ親と向き合って頑張ってきた人たちが、わざわざお金をかけて入会してくる。だから、話が自然と合うと思います。
宮澤:人生のつらかった時期を皆さん経験済みなので、頭から自分の説明をする手間が省けますね。
あかり(仮名):このサロンには「親なんだから仕方がない」「親はあなたのために言っている」という人が誰もいない。否定する人が1人もいないのがいいですよね。
宮澤:そうですね。これまでまわりからの理解を得られずひとりで抱え込んできた重い荷物を、このサロンでひとつづつ降ろしていき、本来の自分を取り戻すプロセスとして、大いに利用していただければと思います。
「毒親」にまつわる書物やマンガは、既に親の支配下から逃れた“解決済み案件”が多いものです。しかし、いまだに親の影響下にある人は、「毒親」の理解よりも前に、まずは自分のつらい気持ちを素直に吐き出すことが大切。それも自分の意見を否定せずに聞いてくれる仲間に……です。
記事で登場したあかり(仮名)さん、りつ子(仮名)さんのように、オンラインサロン『ひだまりサロン〜親のこと、家族のことで悩む人のコミュニティ〜』で、自分の気持ちに向き合ってみませんか? 他の会員さんの投稿を見ることで、心がフッと軽くなること請け合いです。