子どもの健やかな成長を願う行事は数多くありますが、中でも大切なのが初節句です。日本に古くから伝わる習慣で知名度が高い一方で、具体的な祝い方がわからないという方も多いのではないでしょうか。
そこで、この記事では初節句で気をつけたいマナーや、用意しておきたいものなどを男女別に徹底解説します。前もって準備をして、素敵な初節句のお祝いをしましょう。
初節句とは
節句とは、中国から日本に伝わったとされる文化であり、伝統的な行事を行う節目の日のことを言います。年間にわたって様々な節句が存在していましたが、江戸時代に入ると「人日の節句」「上巳の節句」「端午の節句」「七夕の節句」「重陽の節句」の5節句が公的に行事を行う祝日として定められました。
そして、初節句とは赤ちゃんが生まれて初めて迎える節句のこと。女の子のための節句は3月3日の桃の節句(上巳の節句)、男の子のための節句は5月5日の端午の節句とされています。端午の節句はこどもの日、桃の節句はひなまつりと言い換えた方が馴染み深いでしょう。
初節句にはなにをする?
桃の節句にはひな人形、端午の節句にはこいのぼりなどを飾り、子どもの健やかな成長を願います。とくに初節句では身内を招き、祝い膳と呼ばれるお祝い用の料理を囲むなど、盛大に行うのが一般的です。
子どもが早生まれなら翌年に行ってもOK
子どもが1~3月に生まれた場合、初節句を翌年に祝うこともあります。
子どもが生まれたばかりのタイミングは、家庭内も混乱していますし、子どもの状態もめまぐるしく変化していきます。初節句を翌年に延期すること自体に問題はないので、無理をせず状況によって判断しましょう。
(参考:成美堂出版編集部『赤ちゃん・子どものお祝いごと』成美堂出版(2008))
お祝いの仕方【男の子編】
端午の節句には、五月人形と呼ばれる兜や鎧、そしてこいのぼりなどを飾ります。具体的な祝い方を見てみましょう。
兜などの五月人形を飾る
五月人形とは、男の子の誕生を祝うとともに、逞しく、賢い大人になるようにという願いを込めて端午の節句に飾る人形のこと。家の中に飾るので、「内飾り」と呼ばれることもあります。
桃太郎や金太郎、若大将など、様々な種類がありますが、メインとなっているのが兜や鎧です。この習慣は武家社会の文化に由来していると言われています。
もともと、兜や鎧は武士が身を守るために装備した道具であり、同時に武士のシンボルともなる精神的な意味を持ち合わせたものでした。そのため、武士は自身の安全を祈願して神社へお参りする際、兜や鎧を奉納していたそうです。この武士のしきたりから、男の子の命を病気やけがなどから守る意味合いで兜や鎧が飾られるようになったとされています。
いつからいつまで飾る?
五月人形の一夜飾りは縁起が悪いとされているので、遅くとも端午の節句の1~2週前までに飾りましょう。
しまう時期は特に定められていませんが、「出しっぱなしでだらしがない」と思われないよう、端午の節句の翌日以降になるべく早く片付けることをおすすめします。
誰が買う?
もともとは母方の祖父母が贈るものでしたが、近年では金銭的負担を軽減するために、両親や両家の祖父母が分担して買うことも増えているようです。
値段の相場
購入する前に、兜と鎧のどちらかにするのか、または両方にするのかを考えておきましょう。一般的に、鎧は兜に比べて高価で、多くのスペースを必要とします。そのため、兜のみを購入しても問題ありません。
価格はお店や商品の素材などによって差があり、兜は3万円~60万円、鎧は10万円~100万円とピンからキリまであります。各家庭の予算や住宅事情を考慮して決めましょう。よく売れている価格帯は、兜が10万円~20万円前後のもの、鎧が10万円~25万円前後のものだそうです。
父親や兄弟のお下がりでもいい?
五月人形は、子どもに代わって厄を引き受けるものとされています。そのため、おさがりではなく、1人につき1つ用意するのが理想的でしょう。大きなものでなくともかまわないので、新しいものを用意してあげてください。
こいのぼりを飾る
鯉は生命力が強く、滝をのぼって龍になるという故事があります。そこからこいのぼりは男の子の立身出世を象徴するものになりました。外に飾るものなので、「外飾り」と呼ばれることもあります。
いつからいつまで飾る?
こいのぼりは春彼岸の後から飾ることができます。しまう時期は明確に決まっていませんが、湿気が少なくて天気のいい日が続く5月中旬ごろまでに片付けるといいでしょう。
誰が買う?
五月人形同様、もともとは母方の祖父母が嫁入り道具のひとつとして贈っていました。しかし、家庭の経済事情などを考慮して、両親や両家の祖父母でお金を出し合って購入することもあります。
飾る場所
かつては一軒家が多かったため、鯉のぼりは庭に飾られていることがほとんどでした。しかし、マンションなどの集合住宅に住んでいて庭がないという家庭も増えてきたため、代わりにベランダや玄関に飾ることのできるコンパクトサイズのこいのぼりが人気を集めているようです。
値段の相場
大きさや素材などによって価格が異なり、玄関などに飾る小さなものは3,000円~10万円、ベランダ用は1万円~10万円となっています。一般的には、3万円前後のこいのぼりを購入する家庭が多いようです。
屋外用の本格的なこいのぼりは、スタンドタイプが2万円~20万円、ポールタイプは2万円~100万円と、価格帯が広くなっています。どのタイプを買う場合も、予算だけでなくスペースも考慮して選ぶといいでしょう。
その他喜ばれるプレゼント
現金を贈る場合は新札を用い、4や9といった縁起の悪い金額を避けるようにしましょう。明確な金額の規定はありませんが、親族であれば1万円~2万円、友人であれば5,000円~1万円が相場のようです。水引きは縁起のいい紅白蝶結びにしましょう。
また、現金の代わりにギフト券を贈ったり、両親の希望する品物を選んだりすることもあります。保管場所の問題もあるので、迷った時は思い切って両親に欲しいものを聞いてみるといいでしょう。
男の子に着せる衣装
せっかくの初節句、子どももおめかししてあげたいですよね。ここでは代表的な衣装を3種類ご紹介します。
祝い着
初節句で決まった衣装はありませんが、スタンダードなのが祝い着。お宮参りのときに来たものを仕立て直して使っても問題ありません。
祝い着には鶴や宝船、鷹といった縁起のいいモチーフが刺繍されていることが多いので、初節句のお祝いにもぴったりです。
陣羽織
縁起を担ぐために、陣羽織を着せることもあります。袖がないので簡単に着用できるのも嬉しいポイント。五月人形のお店で取り扱っていることが多いので、気になる場合は店員に相談してみましょう。
ロンパース
赤ちゃん用の衣類として重宝されているロンパース。初節句にぴったりな正装用も販売されています。袴風、陣羽織風、タキシード風とさまざまな種類があるので、子どもにぴったりなデザインを選んであげてください。
(参考:成美堂出版編集部『赤ちゃん・子どものお祝いごと』成美堂出版(2008)、株式会社 吉徳|男の子の初節句の祝い方について、株式会社 吉徳|五月人形の基礎知識! 兜や弓を飾る意味について、株式会社 工房天祥|人形屋Q&Aその1~お節句の素朴な疑問にお答えします、株式会社 増村人形店|五月人形の選び方:五月人形の種類や相場、飾り方、株式会社 増村人形店|一生に一度の初節句。男の子の衣装のしきたりや種類について)
お祝いの仕方【女の子編】
ここからは女の子のための節句である桃の節句について、具体的なお祝い方法をご紹介します。
ひな人形を飾る
桃の節句(上巳の節句)は「ひなまつり」とも呼ばれており、ひな人形を飾って女の子の厄除けと健やかな成長を願います。
諸説ありますが、自分の厄を水に流すという中国の風習や日本古来の「人形(ひとがた)」の風習などが複雑に混じり合った結果、日本ならではのひなまつりが誕生したそうです。ひなまつりに飾られる雛人形はもともと神や藁などで作られた簡素なものでしたが、それが時代とともに豪華になり、やがて家の中に飾られるようになりました。現代でも見られるようなひな人形のスタイルが確立したのは、江戸時代以降だと考えられています。
(参考:一般社団法人日本人形協会|五節句と節句人形|上巳〜桃の節句とひな人形〜、ニッポン放送|雛人形が江戸時代に立ち姿から座った理由とは? 雛まつりの歴史(1))
かつては7段飾りのひな人形が一般的でしたが、近年は住宅事情などを考慮してコンパクトなものも販売されています。とくに、1段目のみで構成された「親王飾り」が好まれているようです。
いつからいつまで飾る?
「ひな人形をしまうのが遅れると嫁入りも遅れる」という言い伝えがある通り、ひな人形は早めに飾って桃の節句後はすぐにしまうことが推奨されています。そのため、立春後の2月4日ごろから3月4日まで飾るといいでしょう。桃の節句前日にひな人形を飾ると「一夜飾り」になってしまい、縁起が悪いと言われています。
誰が買う?
かつては母方の祖父母がひな人形を贈る習慣がありましたが、近年ではとくに担当は決まっていないようです。いずれにしても、人気があるものは売り切れてしまうので、早めに買いに行きましょう。
7段飾りは値段も高く、一度に購入すると金銭的な負担が大きいため、初節句の際は親王飾りを買い、年々ほかの段を買い足していっても問題ありません。
ひな人形は1人につき1つが基本です。そのため、姉妹で使いまわすのは避けましょう。しかし、ひな人形をいくつも飾るには広い場所が必要になるため、市松人形で代用するケースも見られます。
値段の相場
ひな人形はお店や素材、人形の数などによって価格が異なります。
親王飾りの場合は5万円~20万円、おだいりさま、おひなさま、三人官女で構成される3段飾りは10万円~25万円ほどが相場とされています。そして、すべての人形と小道具がそろっている7段飾りの場合は、20万円~100万円が相場となっており、他の2種類に比べるとかなり高価なことがわかります。
女の子に着せる衣装
初節句では、衣装に決まりはありません。しかし、記念写真を撮ったりお祝いの雰囲気を出したりしたい、と思っている人もいるでしょう。そこで女の子の初節句における代表的な衣装を3種類ご紹介します。
着物
定番はやっぱり着物。上にはおる被布(ひふ)をセットで用意する家庭も見られます。ひな人形店で取り扱っていることもあるので、衣装に悩んだときには相談してみるといいでしょう。色や柄の決まりはないので、子どもが喜びそうなものを選んであげてください。
ドレス
初節句に合わせてドレスを用意する人もいます。また、着物よりも身動きがとりやすいため、活発な子どもに衣装を着せるときにもおすすめ。さらに、パーティなどあらゆる場面で使うことができるので、初節句後も活躍してくれるはずです。
ロンパース
手入れが簡単なロンパースも人気。袴風、巫女風、羽織風など、さまざまなバリエーションがあります。費用も着物やドレスに比べ安価なものが多いので、候補のひとつとして検討するのもいいでしょう。
参考:成美堂出版編集部『赤ちゃん・子どものお祝いごと』成美堂出版(2008)、 シャディ株式会社|いくらするものなのか? 雛人形の相場を知る、株式会社 吉徳|雛人形の価格相場はいくら?、女の子の初節句にぴったり!思い出に残る可愛い衣装の選び方|株式会社増村人形店)
食事会
初節句に欠かせないのが祝い膳。縁起のいい食材を使い、子どもの成長をお祝いしましょう。
縁起物の食材
男の子の初節句では、柏餅とちまきが定番です。
柏は新芽が出てくるまで葉が落ちないことから、家系が絶えない樹だといわれています。また、ちまきに使われる茅(ちがや)の葉は、中国の故事で難を避けるものだと言い伝えられてきました。そこで、子どもの厄除けを願い、ちまきを食べるようになったのです。ほかに決まったメニューはありませんが、ブリ、カツオ、タイ、赤飯など、縁起のいい食材を使った料理を並べるのが一般的です。
女の子の初節句では、ちらし寿司、はまぐりのお吸い物、ひし餅、ひなあられ、白酒などを用意します。
ちらし寿司は華やかな見た目がお祝いにふさわしいとされ、ひなまつりの定番メニューになりました。はまぐりは同じ貝同士でなければ貝殻がぴったり当てはまらないことから、夫婦円満の象徴とされています。ひし餅は上から順に赤・白・緑となっており、着色に使う食材にも意味があります。桃の花を表す赤は、解毒作用のあるクチナシで着色。残雪を表す白には、血圧低下の効果があるとされるひしの実を使用。そして春の芽吹きを表す緑には、厄除けの効果があるとされるヨモギを使用します。ひなあられは、ひし餅から転じたものとされ、同様の意味合いが込められているようです。白酒には身を清める意味合いがあるとされていますが、子ども用にノンアルコールの甘酒を用意してもいいでしょう。
祝い膳を作ることが難しい場合は、仕出しをお願いしても問題ありません。
(参考:成美堂出版編集部『赤ちゃん・子どものお祝いごと』成美堂出版(2008)、株式会社ベネッセホールディングス|たまひよ 初節句のお祝いをしよう! 端午の節句と桃の節句の祝い方、株式会社 吉徳|初節句の祝い方と両親から雛人形をもらったときのお返しについて?)
内祝いのマナー
初節句のお祝いでは、お返しを送る必要はありません。感謝の気持ちは手紙にして送り、身内であればお祝いの席に招待しましょう。
もし、どうしてもお返しをしたい場合は、内祝いを送ってもかまいません。その場合は子どもの名前をのし紙に書き、品物を送りましょう。内容に決まりはありませんが、タオルセットやかつお節、紅白まんじゅうなどが一般的なようです。
両親にも必要?
両親が初節句のお祝いに参加してくれた場合、祝いの席そのものがお礼となるため、内祝いは必要ありません。しかし、中にはお土産として紅白まんじゅう、赤飯などを持たせる家庭もあるようです。
ただし、両親が遠方に住んでいて初節句に参加できない場合は、感謝の気持ちを込めて内祝いを送るのもいいでしょう。
子どもへの願いがこもった初節句は、一つ一つの行いに意味があります。マナーを守ることはもちろん大切ですが、なにより重要なのは子どもをお祝いする気持ちではないでしょうか。初節句は家族とともに、かけがえのない時間を過ごしてみてください。