2021年9月25日、映像コンテンツにおけるシナリオ執筆のノウハウを学べるサロン「シナリオランド」と、「ショートショート作家・田丸雅智のオンライン研究室」とのコラボイベントが開催されました!
3人のプロが語るストーリーづくりのテクニックは、「物語を書くなんて大変そう」という不安を吹き飛ばすほど、自由で楽しいものでした。
小林雄次(こばやし・ゆうじ)さん
高校時代、星新一選ショートショート・コンテストに入選。アニメ・特撮・一般ドラマなどの脚本やノベライズを手がける。日大芸術学部映画学科非常勤講師。代表作は『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』『ウルトラマンX』『美少女戦士セーラームーンCrystal』など。
高達俊之(こうだて・としゆき)さん
アニメ製作会社トムス・エンタテインメントを経て、2017年4月、コウダテ株式会社設立。アニメ・映像等に関連したコンテンツ企画・製作・コンサルティングを行う。「シナリオランド」の他、作画をしないアニメスタジオ「No Pictures」などの運営も。
田丸雅智(たまる・まさとも)さん
2012年、樹立社ショートショートコンテストで「海酒」が最優秀賞受賞、ピース・又吉直樹氏主演により短編映画化された。全国各地でショートショートの書き方講座を開催し、その内容は2020年度から小学4年生の国語教科書(教育出版)に採用されている。
映像化に向いたショートショートの特徴とは?
田丸雅智さん(以下、田丸さん):普段、僕のショートショート書き方講座では、参加者の皆さんに自由に作品を書いていただきます。でも、今日はせっかくのコラボイベントなので、少しだけハードルを上げて「映像化を意識したショートショート」に挑戦していただきたいなと。
講座を始める前に、まずは小林さんと高達さんから、映像目線でどんなショートショートがいいかを教えていただきましょう。
小林雄次さん(以下、小林さん):小説を映像化するうえでは、次の3点がポイントになると思います。
1.カメラで具体的に撮影できるもの
具体的に撮れるものが望ましい。群衆など大人数が必要なシーンは、アニメ・実写でも予算やコロナ禍の都合で撮りにくい。また抽象的なものも難しい。
2.主人公の視点が一貫しているもの
映像作品においては、誰が主人公なのか、誰の視点で展開しているのかという点が小説以上に重要。客観的な物語や視点が飛びやすい作品は、映像での表現が難しい。主人公目線で不思議な体験・物語を経験する作品が望ましい。
3.時間の流れが意識されているもの
映像は「時間の芸術」とも言われ、どのように時間を切り取って物語を構成するかが重要となる。ショートショートの場合、数百年という時間軸を描くのは非常にハードルが高い。
田丸さん:アニメでも群衆のシーンって難しいんですね。
小林さん:ハリウッド並みの予算があれば、CGという選択肢もあります(笑)。
田丸さん:ちなみに「抽象的なもの」というのは、どんなものを指しますか?
小林さん:画面上で表現できないような、不思議なアイテムやアイディアなどですね。
高達俊之さん(以下、高達さん):「世界一怖いお化け」とか。
田丸さん:なるほど!ちなみに小説だと、改行などの行間で時間経過を表現できるんですが、映像だとどうやって時間の流れを描くんですか?
小林さん:外観や風景をインサート(挿入)するという手法があります。たとえば、時計にクローズアップして時間経過を示すなど、演出・編集の領域で工夫することが多いですね。
思いがけない言葉と言葉の組み合わせが小説になる
田丸さん:おふたりとも、ありがとうございます。ではここから、僕の「ショートショートの書き方講座」を始めていきたいと思います。
今回初めて小説を書くという方もいらっしゃると思いますが、ショートショートをはじめとして、お話づくりで一番大切なのは「楽しむこと」だと、僕はいつもお伝えしています。映像化向けを意識しすぎたり、「言葉・表現を間違えたらどうしよう」と不安になったりはせず、ぜひ楽しんで創作してみてください。
ショートショートは、数ある小説のジャンルのなかでも「発想力」「論理的思考力」アップにつながります。この力は小説を書けるようになるだけでなく、どんなことをするにも大切な力だと思うんです。その点も念頭に置いていただければなと。
さて、僕はいつもショートショートのことを、講座の中では簡易的に「短くて不思議な物語」と表現しています。それは一体どういうことか、ふたつの具体例を用意しました。
かなり短いし、とても不思議な物語ですよね。僕がどうやってこのショートショートを書いたのか、事前にお配りしているワークシートをもとに説明していきますね。
まずおこなうのは、「名詞を探す/名詞から思いつくものを書く」という事前ワークです。1枚目のシートの下部が、赤の点線で囲ってありますね。まずは、この部分をみてください。
右枠には、太陽、ガラス、粘土など、好きなモノや嫌いなモノ、動物、目の前にあるものなど、とにかく思いつく言葉を書いていきます。
そして、左枠には、右枠に書いた名詞からひとつを選び、その言葉から連想するものを書きます。たとえば、太陽の場合なら「発電に使える」「マグマみたい」などですね。
小林さん:右枠の名詞は、人名など固有名詞でもいいんですか?
田丸さん:はい。「田丸雅智」でも大丈夫です(笑)。左枠の思いつくものは、「丸い」「おいしい」などシンプルなものでもまったくかまいません。右枠・左枠それぞれを埋めたら、3つの手順に従って物語を作り始めていきます。
田丸さん:「1.不思議な言葉をつくる」では、左側の言葉と、その言葉を連想した名詞“以外”を選んで、左側の言葉と組み合わせます。組み合わせはなんでもかまいません。僕は、「発電に使えるタコ」「ぼかぽかする傘」という言葉を作りました。
田丸さん:そして選んだ言葉に対して、空想・妄想を存分に膨らませるのに行うのが、「2.不思議な言葉から想像を広げる」と「3.想像したことを短い物語にまとめる」です。
田丸さん:まず、選んだ言葉がどんなモノかを具体的に説明してみます。そして、それが「どこでどんなときに、どんないいことがあるか」というメリットと、逆に「どこでどんなとき、どんな悪いことがあるか」というデメリットを考えてみてください。
最後に、それらをまとめて文章にします。これが、先ほど皆さんにお見せしたショートショートであり、今日の皆さんのゴールです。
続々と生まれる「気になる不思議な言葉たち」
田丸さん:まず「1.不思議な言葉をつくる」をやってみましょう。事前ワークの言葉から、ふたつの言葉を組み合わせてください。
高達さん:この段階で「オチ」を考える必要はありますか?
田丸さん:この時点ではオチを含めた結末や、このあとの展開はまったく考える必要はありません。とにかく「不思議」であれば大丈夫です(笑)。
小林さん:あらかじめ、面白くなりそうな組み合わせを考えるわけではない点が興味深いですね。偶発性にアイディアが眠っているという考え方は、創作においてとても重要な姿勢だと思いました。
田丸さん:そうなんです!「決まっていない」というスタンスが、発想を鍛えるいい訓練になるんですよね。
~数分後~
田丸さん:せっかくなので、皆さんに出来上がった言葉を発表していただこうと思います。思いついたものをチャット欄にお書きください。
「いただきものを入れる風船」
「ゴミ出しに使えるノート」
「たたむと小さくなるボールペン」
「燃えるブレスレット」
「虫を捕まえるマスク」
「戦場レストラン」
「吸血鬼の引っ越し」
…etc
小林さん:漫画のタイトルのようなものもあり、とても面白い言葉が並びましたね。
田丸さん:続けて「2.不思議な言葉から想像を広げる」へ進みましょう。考えた言葉からひとつを選び、どんなものかの説明・メリットとデメリットを書き出してみてください。どこから書きはじめても大丈夫です。
高達さん:メリットとデメリットを書き出すのはなぜですか?
田丸さん:このふたつは、一番シンプルな物語構造なんです。題材となるモノをめぐる背景があって、いいことがあったと思ったら悪いことがあった。逆もまたしかりで、メリットとデメリットによって、非常にシンプルな序破急(ストーリー構成)を作れるんですね。
小林さん:ドラマも、グッドニュースとバッドニュースのふたつで成り立ちます。それをここで仕込んでおくわけですね。
~数分後~
田丸さん:ここでも内容を発表していただこうと思います。まだ悩んでいるという方も、途中でも構わないので、ぜひ発表してみてください。
参加者Aさん:私は「風情のあるスポンジ」という言葉を選びました。
「風情のあるスポンジ」
モノの説明:その日・そのときの空気を吸収する。
メリット:五感でわかる思い出を蓄えられる
田丸さん:スポンジから風情を感じられるなんて、非常にいいですね!空気は同時に蓄えられるんですか?1回絞らないとダメとか、混ぜると変な空気になるとか(笑)。
参加者Aさん:変な空気になったら面白いかもしれませんね。
田丸さん:参加者さんならどんな空気を閉じ込めたいですか?
参加者Aさん:今くらい(9月頃)の季節の晴れた夕方が好きなので、落ち込んだ時に絞って取り出したいです。
田丸さん:僕もそれ欲しいなあ。そのスポンジは、一般的に買えるものですか?特別なひとつですか?
参加者Aさん:流通していたら面白そうだなって、今感じました。
田丸さん:いたるところで、そのスポンジを使っている人がいる様子をイメージできて、とてもいいですね。
ほかに完成している人・悩んでいる人はいますか?
参加者Bさん:私は「一度入ったら二度と出られない水の町」という組み合わせは思いついたんですが、具体的なアイディアが出てこなくて…。
「一度入ったら二度と出られない水の町」
メリット:見たこともないほど自然と寄り添った人々が暮らす、美しい町。人々が上下関係なく、楽しく暮らしている。
田丸さん:面白そうな町ですね。この町は水のなかにあるんですか?
参加者Bさん:地上にある町です、イタリアのヴェネツィアをイメージしました。
田丸さん:一度入ると出られないのはなぜだと思いますか?
参加者Bさん:ううん…。外に出ようという発想が生まれなくなるとか。
田丸さん:そうすると、町には人があふれていると思うんです。人が増え続けると、どうなるのか気になりますね。
参加者Bさん:たしかに…。町に入れる定員は決まっていて、ひとり入ればひとり出られる。というのはどうでしょう?
田丸さん:いいじゃないですかそれ!町を出た人は、そのことを覚えているんでしょうか?
参加者Bさん:忘れてしまう方が面白そうですね。
田丸さん:いいですねえ、怖い感じが出てきています。ぜひその調子で続けてみてください!
この話では「出られなくなる」というのが、すでに悪いこと=デメリットとしてカウントできると思います。それに「水にまつわる悪いこと」を組み合わせて考えてみると、切り口が見えてくるかなと。
たとえば、本が濡れると、文字がにじんでしまうじゃないですか。それと同じで、記憶があやふやになってしまうとか。それ以外にも、水質汚染や水太りみたいなイメージもありますね。
膨らませた言葉から生まれる、不思議で短い物語
田丸さん:最後に、ここまでに書いたことをまとめてストーリーにしていきましょう。もしも余裕がある人は、その内容をさらに膨らませてみてください。僕が最初に紹介した「発電するタコ」なら、次のようになります。
小林さん:下の作品は、主人公の視点があることで物語として「立ち上がった」感がありますね。こうして読んでいくと、電気タコが主人公の話も面白そうと思いました。生み出されてしまった悲劇の生物みたいな。
田丸さん:それも面白いですね!電気タコを浴槽に入れたら、おじいちゃんが感電しちゃった!でもそのおかげで腰痛が治ったとか。
アイディアの分岐点はたくさんあります。物語の正解はないので、何を選んでもいいんです。
ちなみに、最初の短いほうの文章でも十分作品として成立します。作家の北野勇作さんがマイクロノベルという形式を提唱されていて、まさにこれくらい短い作品をTwitterで3000作以上発表されつづけていらっしゃるんですが、独特の面白さや考えさせられる深みがあるんですよ。
例としてお出しした「発電生物」でも、膨らませたほうの作品を見るとどうしても「ショートショートと言っても、やっぱりより長いほうがいいんだ」と感じてしまうのではと思いますが、そんなことは決してありません。数行でも、数十行でもいい。これは非常に重要なことなので、念頭に置いていただければと思います。
そろそろお時間ですね。3~4名のグループを作って、お互いに作品を発表いただきましょう。
~数分後~
田丸さん:皆さんお疲れさまでした!最後はせっかくなので、全体発表もしていただこうかと思います。発表してくれる方はいらっしゃいますか?
参加者Cさん:じゃあ私が。題名は「自然ノート」です。
「自然ノート」
地球の記憶・未来が細かく記載されているノート。
ピラミッドなど、いまだ解明されていない建造物・未来に起こる天災情報まで網羅されている不思議なノート。あまり未来の部分を読んでしまうと、地球の中に取り込まれてしまい、地球のコア部分の中であらゆる自然現象のコントロール権を得る。ただし、人間・あらゆる生物の声が聴こえてしまう。出してと叫んでも、未来を知ってしまった罰として、暗闇に閉じ込められる刑を受ける。暗闇から解放される条件は誰かに地球ノートを読ませることである。
田丸さん:いろいろなことが書かれているノートを読むと、地球のコアに取り込まれるのが面白いですね。取り込まれた先には何があるのか、想像が膨らみます。
高達さん:ビジュアルが見たくなるアイディアですよね。
小林さん:「地球のコア」という、誰も見たことがないものだからこそ興味がわきますね。一見壮大なテーマですが、地球のコアという一部屋だけで完結するとか、映像として脚色しがいがあると思いました。
田丸さん:他にはいらっしゃいますか?
参加者Dさん:いいですか?私の題名は「ドラキュラ引っ越しセンター」です。
「ドラキュラ引っ越しセンター」
吸血鬼の引っ越しは大変だ。
そもそも洋館を探すのに、不動産屋を何軒もハシゴしなきゃいけないし、棺桶・マント・豪華な食器類……なんだかんだ荷物が多い。
そんな吸血鬼の救世主が、吸血鬼専門の引っ越し業者、通称『ドラキュラ引っ越しセンター』だ。
スタッフは、吸血鬼に理解のある者ばかりなので、いちいち隠し事をする必要もない。
いい業者は特典で新鮮な血液をつけてくれるし、ペットのコウモリも一緒に運んでくれる。
でも……これが一番大事だぞ。金はケチるな。
「失敗したなぁ……」吸血鬼のヤマダは、狭い箱の中で後悔した。
その1。引っ越しは夜間にすべきだ。
夜間の引っ越しは割高だ。でも、それはどこも同じだってわかっていたのに……。
ついついケチって昼間を選んじまった。
お陰で今、荷物と一緒に段ボールの中で運ばれている。
「失敗したなぁ……」膝を小さく折り曲げたヤマダは再び後悔した。
その2。昼だろうが夜だろうが、安すぎる業者は選ぶべきじゃない。
薄ーい段ボールの外から臭う、スタッフの荒い息に、ヤマダは何度も嗚咽した。
「仕事の日にニンニク入りラーメン食べるんじゃねぇ!」
田丸さん:素晴らしい!タイトルからワクワクします。冒頭の断定的な一文で、ドラキュラがいる世界に一気に引き込まれます。吸血鬼にまつわる特徴がたくさん登場しつつ、それを小出しにしているのもいいですね。
結末のオチも含め、引っ越しという言葉と絶妙にブレンドされていると思いました。
高達さん:組み合わせが秀逸ですね。吸血鬼でケチという設定も面白い。このキャラクターだけでも、十分、物語を引っ張れると思いました。
小林さん:これを映像作品にするなら、違う観点も面白いかなと思いました。たとえば僕なら、主人公を「ドラキュラ引っ越しセンター」を手伝う普通の人間にします。この業界に足を踏み込んだ人として、ストーリーが展開するみたいな。
田丸さん:いいショートショートや原作は、想像の余地があるんですよね。作品から刺激を受けて、いい意味の二次創作が始まるというか。「ドラキュラ引っ越しセンター」は、そうした空想が生まれる素晴らしい作品だと思います。ありがとうございました!
「お話をつくることは楽しい」
その気持ちさえあれば、産みの苦しみがあっても乗り越えられると思っています。いつはじめても遅くないし、どんな人がお話を作ってもいい。皆さんも、ぜひそんな目線でショートショートや作品を考えてみて欲しいですね。
今回作っていただいたお話は、ぜひこの後にそれぞれのサロンで投稿いただければと思います。皆さん、あらためてお疲れ様でした!
たったひとつの言葉から、次々とストーリーが連想され、ひとつの物語になっていく。ワークショップでこの体験を一度すると、不思議と日常のあらゆるものが、物語の主役に見えてきます。
身近にあるモノを題材に、今すぐ始められるショートショート。今回紹介したワークシートを使いながら、皆さんも自分の物語を書いてみませんか?「自分も物語を書きたい」という気持ちが少しでもわいてきたら、今すぐふたつのサロンを要チェックです!
書籍紹介
この講座の内容は、より詳しい解説とともに『たった40分で誰でも必ず小説が書ける 超ショートショート講座 増補新装版』に収録されています。
書籍の公式サイトからはワークシートも無料でダウンロードできますので、ぜひみなさんも創作に挑戦してみてください。