ビジネス本などでもよく目にする「自己実現」。漠然としたイメージは浮かぶ言葉ですが、具体的にどう行動すれば自己実現につながるのか、説明できる人は少ないでしょう。場合によっては、自己実現の内容を誤解しているかもしれません。
自己実現とは、そもそもどのような状態を指しているのでしょう。また、自己実現ができる人に共通する特徴はあるのでしょうか。この記事ではそんな疑問にお答えしながら自己実現をするための方法を紹介します。
自己実現とは
自己実現とは、自分が内面で抱えている欲求を社会生活の中で実現させること。英語では“self-actualization”と表現されます。
20世紀アメリカの心理学者であるアブラハム・マズローは「欲求段階説」を提唱しており、人間の欲求の上位には“self-actualization”があると述べました。欲求段階説についてはのちほど詳しく解説します。
ほかにも自己実現の英訳として“self-realization”が挙げられる場合があります。19世紀イギリスの哲学者であるトーマス・ヒル・グリーンが提唱した思想で、「自我実現」と訳されることも。マズローの“self-actualization”とは内容が異なり、自身の中にある自我を実現することが目標です。
本稿ではこの先、“self-actualization”としての自己実現を解説していきます。
(参考:マイナビウーマン│心理学の「自己実現」とは? 自己実現欲求を満たす6つの手順)
自己実現でよくある誤解
自己実現は「自分の夢や目標を達成すること」や「成長すること」だと誤解される場合があります。
前述したように、自己実現で叶えるものは自身の欲求です。欲求の内容は必ずしも夢や目標と同じではありませんし、叶えたからといって自身の成長につながるとも限らないのです。
また、欲求は「好きに行動して周囲から持ち上げられること」ではありません。
自己実現で叶える欲求とは、「自分らしく生きて社会に貢献すること」。誰もが自分の心を偽らずに行動した結果、社会が豊かになっていくとマズローは考えています。
(参考:indeed│「その使い方間違っている」誤用の多い「自己実現」の正しい意味とは)
自己実現できている人の特徴
自己実現ができている人とは、具体的にはどのような特徴を持っているのでしょうか。
考えられる例を挙げて、一つずつ紹介します。
・自分を偽らない
自己実現ができる人は、自分の考えを偽らない傾向にあります。そのため、意思決定をするときも周囲に流されず、自分自身の判断を重視するようです。
・先入観を持たない
自己実現をしている人は先入観を持ちにくいといわれています。どのような情報もまずはありのまま受け取るため、最初からうがった見方をせず、自分自身で考えることができるのです。
・思いやりがある
自己実現ができている人は、相手も自分も大切にしている人が多いです。他者をないがしろにしないため視野が広く、自分のためにも他人のためにも努力できる傾向にあります。
・失敗を恐れない
失敗を次の学びに活かすことができるのも、自己実現をしている人の特徴のひとつだといわれています。なぜ失敗したのかなど原因を探り、成功につなげているのです。
・人助けを幸せだと感じる
人助けに幸福感を覚えるのも、自己実現ができている人の特徴だといえるでしょう。自己実現できてる方は義務感で他者を助けるのではなく、自らすすんで人の役に立ちたいと感じる傾向にあります。その結果、自分らしい行動が社会貢献に結びつくのです。
(参考:Domani│100人に聞きました!自己実現できている人は何%?臨床心理士に聞く「自己実現できる人に見られる特徴」も紹介)
心理学者マズローの欲求段階説
冒頭でも述べたとおり、自己実現はマズローが述べた「欲求段階説」に含まれています。
もともと「自己実現」は心理学用語でしたが、今ではキャリアアップやマーケティングなど、さまざまな分野に取り入れられるようになりました。
欲求段階説では、人間の欲求を5段階に分類。それぞれの欲求はピラミッドのように積みあがっており、下の階層から順に実現していくと心が満たされていくと考えられています。各階層の欲求を詳しく見てみましょう。
生理的欲求
一番下の段は生理的欲求。人間の三大欲求と呼ばれる「食欲、性欲、睡眠欲」のほか、呼吸など生きるために最低限必要な内容も含まれています。
たとえば仕事が忙しくて食事や睡眠がままならない状況は、生理的欲求が満たされていないといえるでしょう。
安全的欲求
ピラミッドの下から2段目に位置する内容が安全的欲求。安全な場所で安定した生活を送りたい、といった欲求です。具体的には住居やお金、健康などに関する欲求を指します。
お金がなくて家賃が払えない、働きすぎて病気になってしまった、などの状況は安全的欲求が満たされていないといえるでしょう。
社会的欲求
3段目は社会的欲求。英語では“love”、“belonging”と表現されており、愛や集団への所属を指します。社会的欲求は他者とかかわることでしか達成できません。
たとえば退職してから居場所を失ったようで寂しさを感じる、恋人がほしい、などの気持ちは社会的欲求に起因します。人間は家族や仲間などと一緒に生活することで、精神的に満たされようとしているのです。
承認欲求
4段目に位置するのは承認欲求。自分自身を認めたい、もしくは他者から認められたい、と思う気持ちです。前者は「高位の承認欲求」、後者は「低位の承認欲求」に分類されています。
たとえば自分の手料理に対して自分が「おいしい」、「上手にできた」と満足できれば、高位の承認欲求が満たされるでしょう。一方、料理の写真をSNSに投稿して「他者から高評価をもらいたい」と思う気持ちは低位の承認欲求だといえます。
自己実現欲求
ピラミッドの5段目に存在する欲求が“self-actualization”、つまり自己実現です。これまでの4段階を満たすと、「自分らしさを発揮した生き方をしたい」と思う気持ちが生まれます。
「小説や絵を描きたい」といった創造的な活動への興味や、「好きな仕事で社会貢献するために起業したい」などの前向きな向上心も自己実現のひとつです。
自己超越
マズローは後年になって、自己実現のさらに上に6段目の階層として自己超越の存在を挙げています。
自己実現では、自分自身が努力すれば実現できそうな内容を考えていました。一方、自己超越の場合、自分ひとりでは実現が難しい内容への欲求が生まれます。たとえば「世界を平和にしたい」、「環境問題をなくしたい」、「貧困に苦しむ人々を救いたい」などスケールの大きな欲求です。自己超越では、実現したい内容のベクトルが、自分から他者へ、さらに世界へと広がっていきます。
自己実現を目指すには?
自己実現はピラミッドの5段目に位置する欲求。4段目までを積み上げなければ実現は難しいでしょう。まずは自分自身の生活を振り返り、4段目までのピラミッドがしっかり積みあがっているか確認してみましょう。
マズローは1段目から4段目、つまり生理的欲求から承認欲求までを「欠乏動機」だと述べています。欠乏動機は満たされなければ生活への不満が生まれるため、自己実現について考える余裕が失われがちです。たとえば衣食住が満たされていない、など誰が見ても明確な欠乏もあれば、「SNSで高評価されないからイライラする」といった本人にしかわからない不満もあります。
まずは生きるため、次は健康的な生活を送るため、などピラミッドを下から順に積み上げていくと、不満が解消されていくはずです。
一方で自己実現欲求は「成長動機」と称されています。欠乏したものを補うために動くのではなく、自分らしさを実現するために行動するのです。
たとえば「家賃を稼ぐために仕事をする」は一見自己実現のように思えるかもしれません。しかし欲求段階説と照らし合わせると、住居を確保するための行動は安全的欲求に当てはまります。つまり、ピラミッドの2段目までしか到達できておらず、5段目の自己実現には届いていないのです。
「人に喜んでもらうことが好きだから仕事をする」といったように、周囲からの評価や報酬額などに関係なく動きたいと感じたら、自己実現ができているといえます。
自己実現で陥りやすい行動が、社会貢献を重視しすぎて自分の気持ちに嘘をついてしまうこと。「本当は別のことがしたいけどボランティア活動に取り組もう」と考えて動いた場合、社会貢献はできても自分らしく生きているとはいえません。
まずは自分が何をしたいのか、どう生きたいのかを重視してみるといいでしょう。自分らしい生き方の積み重ねが、いずれ社会貢献につながるかもしれません。
「そもそも自分らしさがわからない」と悩んでしまう場合は自己分析をしてみましょう。向いていることは何か、好きなことは何かなどを深掘りすると、自分が実現したい方向性が見えてくるはずです。新たなアクティビティを体験したり、人と話したりすることも自分らしさの発見につながるでしょう。
(参考:REEED│自己実現とは?その正しい意味と達成方法について解説します)
まとめ
マズローの欲求段階説で有名になった自己実現。ハードルが高いと感じるかもしれませんが、大切なのは日々の生活を振り返り、欲求の階層を順に積み上げていくことだといえます。欠乏を感じず心身が満たされていれば、おのずと自己実現欲求が湧き上がってくるはずです。自己実現によって、偽りのない自分らしい生き方を手に入れてみてはいかがでしょうか。