「花咲くいろは」や「SHIROBAKO」などの名作アニメを手がけてきた制作会社P.A.WORKSは、ファンとの交流を目的にしたオンラインサロン「P.A.SALON」を運営しています。
前回の記事では、サロン内で新たに始動したプロジェクト「沼カツ!」について取材しました。
「沼カツ!」がスタートして約1年、そしてP.A.SALONを開設してからおよそ3年。節目を迎えたタイミングで、「沼カツ!」の進展やサロン活動にどのような変化が起こったかを、P.A.SALON運営スタッフの今川拓郎さんに伺いました。
2008年にP.A.WORKSへ入社。制作デスクとして「花咲くいろは」などを担当したのちに他の会社へ移るが、2019年に再入社する。会社のブランディング担当として、オンラインサロンの運営を中心に、イベントやコンテンツの企画、発信に従事。
サロン開設から3年。ファンと双方向のコミュニケーションが増えた
ーーP.A.SALONを運営して3年が経ちますね!アニメーション制作会社がオンラインサロンを立ち上げるケースは珍しいと思うのですが、開設の経緯を教えていただけますか?
弊社の代表・堀川は、「誰に向けてアニメを作るのか」を意識したほうがいいと、日ごろから社員に呼びかけています。その言葉を胸に、ファンの皆さまへ向けたイベントを、2011年に初めて開催しました。
ちょうどその頃、弊社が手がけたアニメ「花咲くいろは」を放送している時期で、劇中には「ぼんぼり祭り」という石川県金沢市の温泉街を舞台にした架空のお祭りが登場します。せっかくならそれを再現しようと、観光協会の協力をいただきながらイベントを実施しました。
当日は予想以上に多くのファンに来場いただき、あらためて「私たちはこの人たちに向けてアニメを作っていたんだ」と、強く実感したんです。これからも、誰に向けてアニメを作っているかを体感できる場所を作っていきたいけど、イベントだと機会が限られてしまう……。
そこで、オンラインサロンならファンの方々との繋がりをより身近に感じられるのではないかと、私が発案して2020年に「P.A.SALON」を立ち上げました。
ーー今川さんがサロンの発案者だったのですね!
そうなんです。開設してからは、ファンの方々に喜んでもらえるようなコンテンツを発信しています。たとえば、制作中のアニメの原画や打ち合わせの様子など、普段なかなか見ることのできない制作現場の舞台裏を公開しています。過去作品にフォーカスを当てて、当時の絵コンテなど貴重な資料を集めたオンラインギャラリーも人気ですね。
最近は、そこから一歩踏み出して、 会員の皆さんと一緒に楽しむ参加型プロジェクトにも力を入れています。前回記事に取り上げていただいた、部活動のように趣味に没頭するプロジェクト「沼カツ!」も、そのひとつですね。
ーーサロンを始めて3年、よかったことや、変化を感じられたことはあるでしょうか?
サロンを始めてから、ファンの皆さんの存在をより近い距離で感じられるようになったなと。「誰に向けてアニメを作るのか」の解像度が高くなったと思っています。
会員さんと双方向のコミュニケーションが増えてきたことも、とてもうれしいです。最初はこちらの一方的な発信が多かったのですが、「沼カツ!」をはじめ参加型のプロジェクトを軸に、皆さんからやりたいことを提案いただくことが多くなりましたね。
5つの部活が発足。活動を通して趣味の「沼」にハマる!
ーー前回は、これから「沼カツ!」プロジェクトが始まるタイミングでお話を伺いましたが、活動状況はいかがですか?
現在、「沼カツ!」では5つの部活動を発足しています。前にご紹介した家庭菜園部、図工部、DIY部、サバゲー部のほかに、昨年10月から新たにゲーム制作部が立ち上がりました。どの部活も和気あいあいと楽しく活動していますよ!
図工部やDIY部は、オンラインで仲間と集まりながら作業する「もくもく作業会」を開いています。プラモデルや革細工など、それぞれ作りたいものを持ち寄って、たわいもない話をしながら作っていく……私が参加したときは、4時間あっという間に過ぎていました(笑)。
サバゲー部のオンライン交流会は、銃やミリタリーのちょっとマニアックな話でアツく盛りあがっていますね。実際にサバゲーを体験するオフ会も開かれていて、皆さんエアガンを撃ち合いながら爽快感を楽しんでいるみたいです!
ーー本当の部活みたいに、ワイワイ楽しむ雰囲気が浮かびます。
そうですね。いっぽう「沼カツ!」では、部員同士がゆるくつながれるような楽しみ方もできますよ。家庭菜園部は、基本的にひとりでの活動で、部員がそれぞれ自宅の庭やベランダでお野菜を育てています。
育てている野菜を観察日記のようにFacebookグループへアップして、それを見たほかの部員や顧問がコメントし合うやりとりに、ほのぼのしますね。
ーー部活によって、多様な関わり方ができるんですね。新しく発足したゲーム制作部についても教えてください。
ゲームはもちろん、今話題になっているVRや3Dモデル、アバターなどのデジタルコンテンツを制作していく部活です。
「沼カツ!」を始めて1年の節目に、新しい部活を立ち上げようと会員にヒアリングしたら、「デジタルに関わるものづくりがしたい」といった要望が多くて。そこで、金沢市のゲーム会社・株式会社グランゼーラの松尾悟郎さんに顧問をお願いして、ゲーム制作部を立ち上げました。
さっそく本格的なゲームやアバター作りに熱中する部員の姿がみられて、これからの活動に期待が高まります!
ーーそれぞれの部活のイベントや企画には、今川さんも関わっているのでしょうか?
いえ、活動自体は顧問や部員の皆さんが企画してくれていて、こちらはほぼノータッチ。自由に楽しくやってくれればいいのでお任せしていて。むしろ私は、部員の一員として活動を楽しんでいますね(笑)。
おもしろいなと思うのが、このサロンにはP.A.WORKSの作品やアニメ好きな方が集まっているはずなのに、部活の中ではアニメの話が一切出ないこと。ミリタリーのディープな話やゲームの複雑な構造の話を聞いていると、「これは何の集まりなんだ?」と不思議な感覚になることもあります(笑)。
でも、アニメに関係なく楽しめる場所になっているのは確かなので、これでいいのかなと。何にも縛られず好きなことに夢中な皆さんの姿を見ていると、新しい発見に出会えて、こちらも刺激をもらえます!
部活での実体験がコミックに!アニメ化の目標に向けて動き出す
ーー昨年の11月に、「沼カツ!」での実体験がコミックになったと伺っています!
そうなんです!前回の取材でも話しましたが、「沼カツ!」では活動中に生まれたエピソードを題材に、アニメを作ることを目標に動いています。アニメ化を目指すにあたって、まずひとつステップを踏もうと、コミックを作ることに決めました。
私と代表の堀川が、顧問の先生方からヒアリングしたエピソードをベースに、それぞれの部活の個性が出るようなストーリーを作ったんです。さらに、サロン内では「最も沼ってる」エピソードを募集して、大賞に選ばれた話も盛り込みました。コミックは「沼カツ!」の公式ホームページに載せているので、個性豊かなキャラクターが巻き起こすストーリーをぜひ読んでみてください!
(コミックはこちらから読めます)
ーー部員の皆さんからの反響はいかがですか?
さっそく、オリジナルキャラクターの考察で盛り上がっています(笑)。大賞に選ばれた方からは「自分のエピソードがコミックになるのは本当にうれしい」といった声をいただきましたね。
ーーコミックを作ったことで、アニメ化に一歩前進したのではないでしょうか。
前には進んだものの、アニメ化が実現するまでのハードルは非常に高いですし、コミカライズが必ずアニメ化に結びつくとは限りません。完成したコミックをどれだけ多くの人に見てもらえたか、どんな評判だったかなどを踏まえて初めて、アニメ化への道がひらけます。
ですので、これからもコミックをコツコツ作り、「沼カツ!」の活動を応援してくれるファンを広げながら、アニメ化を目指す構想を立てています。
ーーということは、第二弾のコミックも制作される……!?
はい、今年の3月からクラウドファンディングを実施して、集まった資金をもとに第二弾のコミックを作ります!具体的なストーリーはこれから決めていきますが、キャラクターやベースの設定は変えない予定です。ご支援いただいた皆さまには、出来上がったコミックを冊子でお届けするなど、さまざまなリターンを考えています。
ーーなぜ、クラウドファンディングをしようと考えたのでしょうか。
もともと、「沼カツ!」自体が参加型プロジェクトなので、コミックも皆さんと関わりながら作っていきたいと思ったからです。応援してくれる方々が、企画や制作など何かしらで関われるような形を取るために、クラウドファンディング実施を決めました。
また、クラウドファンディングをきっかけに、「沼カツ!」を含めたP.A.SALONの取り組みを、より多くの人に広めたい目的もあります。アニメ好きの方、作品のファンの方には「沼カツ!」をぜひ応援していただきたいですし、興味のある人をサロンにも呼び込めるような、いい循環が作れることを期待しています。
(クラウドファンディングはこちら)
手がけた作品を、長く愛せる場所にしていきたい
ーー第二弾のコミックも楽しみにしています!今後はどのようなことを大切にしながら「沼カツ!」を展開していきたいですか?
部員の皆さんが、趣味に没頭できる環境作りを大切にしていきたいです。「沼カツ!」には、実体験がアニメになる可能性をモチベーションに活動する方はもちろん、ただ純粋に好きなことを楽しむスタンスの方もいます。部活に打ち込むモチベーションは人それぞれ。どんなスタンスでも受け入れながら、「沼カツ!」を心地よく自由に活動できるコミュニティにしたいです。
のびのびとした環境から、新しいアイデアの火種や、ワクワクするようなエピソードがきっと生まれるはず。できごと一つひとつの積み重ねを、大事にできる場所にしていきます。
ーーサロン全体を踏まえた、今後の展望も教えてください。
制作会社側の視点になりますが、このサロンを「今までの作品が長く愛される場所にしたい」と思っています。
手がけた作品がオンエアされている間は盛り上がりますが、終わってしまうとだんだん熱気が薄れ、やがて他の作品に埋もれてしまう。それは、私たちもファンの方にとっても寂しいことです。
今後もオンラインギャラリーや過去作品に絡めたイベントを企画することで、作品を一時の消費で終わらせるのではなく、長く愛せるようにしていきたい。ファンの集まるサロンだからこそ、できることだと思っています。
また、サロン内での交流を通して、ゆくゆくはP.A.WORKSの会社ごと好きになってくれる方を増やしていきたいです。社員一丸となって、今後もどんどんコンテンツを発信していきますので、これからの展開を楽しみにしていてください!
「沼カツ!」を中心に、より大きな盛り上がりを見せるP.A.SALON。自分の活動がマンガやアニメになるかもしれないと思うと、ワクワクしますね!部活への入部はいつでも受付していて、初心者も経験者も大歓迎とのこと。興味のわいた方はぜひP.A.SALONに入会して、趣味やアニメの沼にどっぷりつかってみてください!