わが子同然にかわいいペット。しかしペットと人間が一緒に暮らすには、さまざまなルールを守らなくてはいけません。
なかでも、犬を飼っている人の多くが、「吠える」「咬む」などの、しつけに関する悩みを抱えているのではないでしょうか。
オンラインサロン「チャーリーオンラインドッグスクール」を主宰する夏目真利子さんは、犬のしつけについて、「叱る必要はない」と言います。
犬の行動を理解し、犬の社会性を尊重する。そうすると犬は不安を解消し、飼い主を信頼して、無駄に吠えたり咬んだりしないようになるのだそうです。
今回は公園で行われた、お散歩トレーニングに同行し、夏目さんにいろいろなお話を伺ってきました。
お散歩トレーニング
集合時間になると輪になって自己紹介。すぐに、「じゃあ行きましょうか」と歩き始める夏目さんと飼い主さんたち。思い思いに犬が進む方向へ歩いていきました。
――とても自由にお散歩しているんですね。
夏目:パック(群れ)ウォークといいます。バラバラに動いているように見えますが、犬たちはお互いを認識しています。
――何か決まりごとはあるんですか?
夏目:犬が苦手な犬も参加するので、犬同士のあいさつはさせません。あいさつしなくても、犬同士は風に乗ってくる匂いでほかの犬の情報を理解しているんです。
そういうことも含めて飼い主さんには犬のことを勉強してもらう場になります。
――飼い主が気をつけることはありますか?
夏目:犬はお散歩が大好きなので、犬の行動を制限しないように、リードがピンと張らない程度の距離を保って犬について歩きます。リードワークのトレーニングでもあります。
よく知られている脚側歩行(犬が飼い主の足の横にぴったりついて歩く散歩方法)とは全然違うので、びっくりされることもありますね。
――リードを引っ張らないと犬が言うことを聞かないのでは?
夏目:そこは犬との信頼関係ですね。犬って引っ張ると、抵抗して引っ張り返すんですよ。好きなことをしているときに無理やり引っ張られたら人間だって嫌ですよね。
お散歩中は飼い主さんには、犬をしっかり観察してもらいます。お散歩は犬の行動や感情などを理解するための大事なコミュニケーションなんです。
名前を呼んでおやつ
チャーリーオンラインドッグスクールの基本トレーニング、「名前を呼んでおやつ」を見せてもらいました。
夏目:本当に簡単なトレーニングです。
1、名前を呼んだらすぐにおやつをあげる
2、名前を呼んだらワンテンポおいて、おやつをあげる
3、名前を呼んでから歩いて、ついてきたところでおやつをあげる
これだけです。
名前とおやつを結びつける古典的条件づけといわれるものです。飼い主さんに名前を呼ばれるのは、うれしいことなんだと覚えて、犬に自分の名前を好きになってもらうんです。
たとえば名前を呼んでワンテンポあけると、お座りができるようになったり、お散歩中に興味がそれて少し離れても呼び戻せたりできるようになるので、このトレーニングはいろいろなしつけの場面で応用できます。
――名前が、飼い主と犬とのコミュニケーションの基本になるんですね。
夏目:みなさん、犬を迎えたときにいろいろな思いを込めて名前をつけると思うんです。その名前で叱ってばかりだと、ちょっとさみしいですよね。だからいちばん最初の関係作りとして、名前を呼んであげる。
おやつをあげるだけじゃなくても、名前を呼んでいい子だねってたくさん撫でてあげるのも効果的です。
道具を使って罰を与えたり、薬を使って興奮を抑えたりしなくても、犬と飼い主にとって平和的なしつけの基本になるんです。
お散歩は犬のSNS
――よく見かける犬の散歩は、飼い主が犬をグイグイ引っ張ったりその逆だったりしますけど、まったく様子が違うことにおどろいてます。
夏目:犬は嗅覚から、人間には想像もつかない量の情報を得ているといわれています。だから散歩中の犬って、いろんな匂いを嗅ぎたくて下を向いてクンクンしてるんです。それが犬の本来の歩き方なんです。
――匂いを嗅ぐのを止めないほうがいいんですか?
夏目:私は匂い嗅ぎは推奨しています。吠える犬や、犬ぎらいの犬は、お散歩中に飼い主さんにグイッとリードを引っ張られて、匂い嗅ぎを充分にできていないことが多いんです。引っ張られると首が上を向いちゃいますよね。上を向くってことは犬にとっては緊張状態になるので、よけいに吠えるという悪循環を招きます。
犬にとってニュートラルな歩き方って、頭が背中より下にあることなんですよ。
――匂いを嗅ぐっていうのは、犬の本能的な行動なんですね。
夏目:犬同士は匂いでコミュニケーションをとってますからね。お散歩中のおしっこは、犬のSNSなんです。興味深い内容だったら一生懸命匂いを嗅いで、「いいね!」ってしるしを残したり。
――おしっこは、「いいね!」なんですね(笑)。
夏目:昔は犬の伝言版なんていったりしてましたけど、今の時代は犬もSNSですね(笑)。でもこうやって歩いていると、お散歩ぎらい、犬ぎらいの犬もだんだんと落ち着いてくるんです。よくわからない場所や相手は犬にとって警戒の対象になりますから、しっかり情報を与えてあげると犬は安心して、飼い主さんを信頼するようになってきます。
飼い主の意識の変革
――犬のしつけって飼い主の意識の問題なんだなってことが、だんだんとわかってきました。
夏目:実際、トレーニングを経験して、飼い主さんがよく言うのは、「うちの子はダメ犬だと思っていたけど、ダメなのは私のほうでした」っていう感想です。
飼い主さんも方法を知らないだけなんですよ。犬のしつけの世界ってなかなか新しい風が入りにくいから。
――昔ながらの、リーダー論的なしつけを実践している人は多いですか?
夏目:そうですね。最近でもテレビで、飼い主が犬を威嚇して服従させるしつけ方法をあたりまえのように流してますけど、それだけがしつけの方法じゃないってことをもっと知ってほしいですね。知ったうえで犬にとって何がいいのか、自分と自分の犬に合ったスタイルを見つけてもらえればいいなと思います。
――犬を変える前に、飼い主が変わることってすごく重要なんですね。
夏目:まずは気がついて、そこから考えてほしいです。犬の個性も飼い主さんの考え方も千差万別ですから、正解はないと思います。ただ犬にとっても飼い主にとっても、痛みを伴うようなしつけは、本当に必要なのかなと疑問があります。しつけってもっとシンプルでいいはずなんです。
お互いの社会性を認め合って、一緒に着地点を見つけていけるようになれば、犬も人間も、もっと暮らしやすくなるんじゃないでしょうか。
犬と飼い主の未来のために
――オンラインサロンではどんな人に参加してもらいたいですか?
夏目:しつけで悩んでいる人も、ちょっと今までの見方を変えてもらって、まずは経験してもらいたいですね。犬の気持ちや、飼い主の気持ちを勉強してもらって、そこからいずれトレーナーになりたいって言ってもらえたら嬉しいです。
もちろん、これからトレーナーになりたい人や、違う学校でトレーナーの資格を取ったけど、学びなおしたいっていう人も大歓迎です。
――毎日密度の濃い記事を更新されていますね。
夏目:全国各地に会員さんがいるんですけど、なかなか足を運べないのが心苦しいです。だからできるだけ情報発信して、飼い主さんには毎日の記事だけでもたくさん勉強してもらえたらいいなと思っています。
――これからの活動について聞かせてください。
夏目:この活動を少しずつ広げて、日本のしつけ事情を変えていきたいです。
吠えて手に負えないとか、お散歩が大変すぎるから、などを理由に、飼育放棄される犬がたくさんいるのが現状です。
そんな不幸がひとつでもなくなればと願ってやみません。
お散歩トレーニングをうしろから見守りながら、「こうやって飼い主さんと犬がのんびりお散歩しているのを見ていると、胸がジーンとするんです」と、夏目さんは話してくださいました。
犬を飼うことは、命と暮らすこと。
その子の一生を責任をもって幸せにしてあげることが、飼い主に必要な覚悟なのだと感じました。
「チャーリーオンラインドッグスクール」では、個別のメールカウンセリングにも応じています。
愛犬のために新たな学びを求めている方、大好きな犬たちにもっと幸せになってもらいたい方はぜひ参加してみてください!