「自分に自信が持てない」、「仕事がうまくいくか不安」などの悩みを抱えているとき、試してみたい方法が自己暗示。自分の心をコントロールする手段のひとつで、日常生活や仕事にも役立つと注目されています。
自己暗示にはどのような効果や使い方があるのでしょうか。この記事では注意点も含め、自己暗示について掘り下げていきます。
自己暗示とは
自己暗示とは、自分自身に何度も言い聞かせることで「そうに違いない」と思い込ませることです。
暗示の内容はポジティブなものからネガティブなものまで多種多様。ビジネスやスポーツなどの場面では、ポジティブな内容で自己暗示をすることによってパフォーマンスを向上させる人も見られます。
自己暗示はもともと医療の一種として考案されました。フランスの薬剤師で精神療法学者のエミール・クーエは患者に対し、「私は毎日よくなる」などの言葉を言い聞かせて身体の痛みなどを和らげたといわれています。
現在も心療内科などでは、自己暗示の練習を通して緊張を和らげていく「自律訓練法」が使われています。
(参考:マイナビウーマン│自己暗示の意味と心理学的効果。自己暗示をかける方法【恋愛・仕事】)
自己暗示の類義語
自己暗示には特定の類義語がありません。それでも言い換えるとするならば、「なりたい自分を言い聞かせる」、「自分に暗示を与える」、「自己催眠」などが挙げられるでしょう。
自己暗示に似ている手法には「アンカリング」や「アファメーション」があります。
自己暗示は主に言葉を使いますが、アンカリングは動作で暗示を与えます。スポーツ選手が競技前に行うルーティーンも、集中力を高めて最高のパフォーマンスを発揮するためのアンカリングの一種です。
アファメーションは自己暗示のように、言葉を使って現実を好転させていく方法。自分自身を肯定する言葉を何度も言い聞かせ、目標を達成するための前向きな気持ちをつくります。
自己暗示による効果
続いては自己暗示をすることで得られる主な効果を紹介します。
モチベーションアップ
自己暗示はモチベーションアップに役立つと考えられています。たとえば難しい仕事に取り組む前などは「失敗したらどうしよう」、「どうせうまくいかない」といった不安を抱えがち。すると仕事へのモチベーションが下がり、次に同じ内容を任されたときも億劫になってしまう可能性があります。成功した自分をイメージして自己暗示をかければ、モチベーションが上がるかもしれません。
ポジティブになる
前向きな自己暗示をかければ、ポジティブになれると考えられています。ネガティブになっていると、「自分のせいだ」、「きっと嫌われているんだ」と思ってしまうこともあるでしょう。そんなときに自己暗示でポジティブな考えに変えることができれば、気分が明るくなるはずです。
積極的になる
自己暗示をすれば、積極的に行動できると考えられています。たとえば、友人に「食事に行こう」と提案して断られてしまったときも、自己暗示をして自分を励ませば「また誘ってみよう」と思えるでしょう。このように、自己暗示を習慣づけるうちに、仕事で新しい企画を提案する、好きな人をデートに誘うなど、普段の生活でも積極的な行動ができるようになるかもしれません。
冷静でいられる
焦ってしまったときや怒りが爆発しそうなときも、自己暗示をかければ冷静になれる可能性があります。自分を勇気づけるような言葉や、感情を落ち着かせるような言葉をくり返し唱えてみましょう。自己暗示で冷静さを取り戻す習慣が身につけば、自分自身の感情をコントロールしやすくなるかもしれません。
ストレス緩和
自己暗示をストレス緩和に役立てた人もいます。ドイツの精神科医シュルツは、治療法として1932年に「自律訓練法」を考案しました。
自律訓練法では、身体の動きと自己暗示を組み合わせることで、ストレス緩和や心身のリラックスなどをうながします。「心が落ち着いている」、「今は手足が重たくなっている」、「身体が温まっている」のように特定の言葉によって自己暗示をかけ、身体の余計な力を抜いていくのです。
自律訓練法の最後には、消去動作と呼ばれる手順を行って自己暗示を取り去ります。消去動作を忘れると、脱力感や倦怠感が残ってしまう場合があるからです。慣れないうちは医師をはじめとする専門家に指導してもらいながら実践してみましょう。
(参考:CanCam.jp│心を落ち着けて!イラっとしたときに思い出したい心理学4選)
自己暗示をかける場面例
自己暗示はいつ使うと効果的なのでしょうか。日常生活の中で自己暗示が役立ちそうな場面を紹介します。
発表前など緊張しているとき
大事なプレゼンの前、大きな案件で営業をするとき、結婚式のスピーチ前など、緊張しているときには自己暗示が役立ちます。成功した自分を思い描き、きっとその通りになるはずだと自己暗示をかけてみましょう。
スポーツ選手の中にも、試合の前や自分の番が来たときなどに緊張をほぐすために自己暗示を活用している人が見られます。「いい結果を残せる」と言い聞かせることで、パフォーマンスを高めようとしているのです。
思い通りにならないとき
思い通りにならずモヤモヤしているときも、自己暗示を活用できると考えられています。「もっと大変なことになるかもしれない」と悪い方向に考えず、これから事態が好転するイメージを自分に言い聞かせてみましょう。
失敗などで落ち込んだとき
失敗や悲しいことがあって落ち込んだときなども、自己暗示が役に立つはずです。次も失敗してしまう、自分のせいで状況が悪化した、と考えていては気分がどんどん沈んでしまいます。また、失敗した記憶を何度も思い出し、同じような場面でうまく動けなくなるかもしれません。
そんなマイナスな循環を避けるためにも、「次はうまくいく」などの積極的な言葉で自己暗示をしてみましょう。くり返しているうちに成功のイメージが強くなり、新しいことにチャレンジしやすくなるはずです。
感情的になったとき
感情的になり、つい声を荒げてしまいそうなときには自己暗示をすれば気持ちが落ち着くかもしれません。原因となっている感情が消えていく最中だ、とイメージし、自分に言い聞かせるといいでしょう。
(参考:日経GOODAY│結果を出す人は独り言が違う!一流選手に学ぶ“プラス思考”法)
自己暗示の注意点
便利な自己暗示ですが、使い方を間違えると逆効果になってしまいます。自己暗示をするときに注意しておきたいポイントを確認してみましょう。
ネガティブな暗示は避ける
自己暗示ではネガティブな言葉を使わないほうがプラスの効果を得られると考えられています。「~してはいけない」、「~はだめだ」などの否定表現を使ってしまうと、かえってプレッシャーになるからです。
たとえば緊張をほぐそうとして「緊張してはだめだ」と自己暗示をかけると、「だめ」という否定表現が頭の中に残りやすくなってしまいます。すると無意識のうちに、自分がネガティブな暗示にかかってしまうかもしれません。ほかにも「焦るな」、「失敗してはいけない」、「どうせ私にはできない」など、現在の自分を否定するような言い回しは避けたほうがいいでしょう。
自己暗示で言い聞かせるときのコツは「肯定的なフレーズをくり返す」ことです。自己暗示法を考案したエミール・クーエは、身体の痛みを訴える患者に対して「痛みが消える、消える、消える……」と何度も唱えるようにアドバイスしたそうです。ネガティブなイメージのある「痛み」はあまり言わず、「消える」という前向きな言葉をくり返しているのだとわかるでしょう。
また、「~になる」という表現も使い方には注意が必要です。たとえば「幸せになる」と自己暗示をかけると、同時に「今が幸せではない」と言い聞かせていることになります。まずは「今も幸せだ」とポジティブな現実を受け入れ、「これからもっと幸せになる」と、前向きな自己暗示をすることがポイントです。
自己暗示の例
最後に、自己暗示をかけるときの例文を紹介します。前述した注意点も参考にしながら、自分なりのフレーズを考えてみてください。
「私にはできる、できる、できる……」
「怒りが消える、消える、消える……」
「きっといいことがある」
「大丈夫」
「成功する」
「私は優秀だ」
「私は愛されている」
「私は幸せだし、これからもっと幸せになれる」
ただし、これらのフレーズを言い聞かせてもすぐに効果が出るとは限りません。自己暗示は継続によって自分の中に浸透していくので、毎日続けてみると気持ちをスムーズに切り替えられるようになるはずです。
まとめ
自分自身に言葉で暗示をかけ、心持ちを変えていく自己暗示。ネガティブな言葉をかけると気分が沈んでしまいますが、ポジティブな言葉を使えばモチベーションアップや緊張の緩和などに役立つと考えられています。心をうまくコントロールして成功体験を積み重ねていけば、自信にもつながるはず。毎日の生活や仕事を少しでも楽しむために、自己暗示を役立ててみてはいかがでしょうか。