毎年6月は、LGBTQ+の権利を啓発する活動がおこなわれる「プライド月間」であることをご存じですか?LGBTQ+の当事者を筆頭に、プライドパレードやイベントが世界各地で実施されています。
そこで今回は、LGBTQ+の人たちのヘアスタイリングを手がける美容室「MINT」のオーナー・MISAKIさんへインタビューを実施。オンラインサロンの活動内容や、LGBTQ+にまつわる世の中の課題、理解を深めるためにできることについて伺いました。
東京・恵比寿のヘアサロン「MINT」をはじめ複数の美容室を経営。LGBTQ+の人たちが気軽に訪問できる美容室を、全国に広げていく活動も精力的におこなっている。
DMMオンラインサロンでは、“女性化”したいLGBTQ+の人たちの会員制サロン「Collabo(コラボ)」を運営中。
お客様の「人生をデザイン」すべく、多様性を受け入れる
――MISAKIさんは美容室のオーナーとして、「MINT」など複数のヘアサロンを経営していますよね。普段はどのようなお客様がいらっしゃいますか?
MINTの客層は本当に幅広くて、多分世界一じゃないかな。小さいお子さんから、お年を召したお客様までいらっしゃいます。また、幅広いのは年齢層だけではありません。たとえば、日本に住んでいるムスリム(イスラム教徒)の方も来店されるんですよ。
ムスリムは、宗教上家族以外の男性に髪や素肌を見せないように「ヒジャブ」という布を巻く習慣があります。つまり、男性のスタッフには髪を見せられないため、ヘアサロン探しもひと苦労なんです。
MINTでは、ムスリムの方でも安心して来店してもらえるよう、予約の入った時間帯を女性スタッフだけで担当するなどの配慮をおこなっています。そういった配慮ができる美容室は少ないようで、評判を呼んでいますね。
ほかにも、髭にパーマをあてに来店する男性や、学園祭のために個性的なヘアセットをしたいと来る学生さんも。MINTで働くスタイリストがそれぞれ得意分野を持っていることもあり、結果的にさまざまな目的を持つお客様が訪れるようになりました。
その中でも私は、LGBTQ+の人を中心としたスタイリングを担当しています。
――LGBTQ+の方を担当しようと思ったきっかけがあったのでしょうか?
いえ、きっかけは特になくて。いろいろな人のスタイリングを担当しているうちに、気がつけばLGBTQ+のお客様が増えていきました。
MINTが掲げている考えのひとつに、「人生をデザインする」という言葉があります。性別や国籍にとらわれず、一人ひとりの人生を彩れるように向き合ってきた結果、今があると思っています。
――多くのお客様を受け入れる中での、自然な流れだったのですね。
そうですね。ただ、LGBTQ+の方を担当していくうちに、「気軽に通える美容室が見つからない」「美容師に要望を伝えられない」といった悩みを抱える当事者が、予想以上に多いことが分かってきました。
そこで、悩んでいるLGBTQ+の人たちに向けて、「MINTであればどんな方でも受け入れる」と伝えるために、10年前からブログで発信を始めました。
LGBTQ+に理解のある美容室を広げ、当事者同士の交流活性化を目指す
――MISAKIさんは現在も、ブログでLGBTQ+の方のヘアカットや、メイクアップの様子などを発信していますよね。発信を続けてみての反響や、気づいたことはありますか?
ありがたいことに、発信前とくらべて、さらにLGBTQ+の方々の来店が増えましたね。今、私が担当しているお客様の約7割は、LGBTQ+です。
しかしその一方で、世の中にはまだまだ、LGBTQ+の人たちが気軽に立ち寄れるような美容室が少ないと思い始めるようになりました。スケジュール的に、私が地方へ出張するのもなかなか難しい……。そこで、LGBTQ+に理解のある美容室を全国に広める活動を始めることにしたんです。
美容師は、お客様をより綺麗にしたい、幸せにしたいという思いのもと、仕事に向き合っている人がほとんどだと思います。LGBTQ+への正しい認識を持った美容師がもっと増えれば、当事者が足を運べるサロンも増えるだろうと、動き始めました。
――具体的にはどういった活動をされているのでしょうか?
ひとつは、ヘアケアブランド・パンテーンが協賛する「#PrideHair サロン」プロジェクトの一環で、「ヘアサロン向けLGBTQ+フレンドリーマニュアル」の作成に協力しました。このプロジェクトは「ヘアサロンをLGBTQ+フレンドリーな場所へ」という願いを込めて、一人ひとりの個性に寄りそう美容室を、全国に広げていくことを目的としています。
マニュアルでは、LGBTQ+の言葉の意味から、性の在り方に関して、接客の心得などを紹介しています。
――これ一冊で、美容師以外でもLGBTQ+について理解を深めることができますね!
そう言ってもらえてうれしいです!もうひとつは、有志の美容師4人で、Instagramアカウント「LGBTQフレンドリーサロン」を開設しました。LGBTQ+フレンドリーな美容室を増やしていくと同時に、当事者の発信の場も増えればいいなという思いのもと、運用しています。
モデルさんはみんな、LGBTQ+です。女装姿、男装姿などさまざまなスタイルでの写真をのせています。少し前には動画撮影にもチャレンジしたんですよ!ジェンダーフリーで生きる人たちの応援をモットーに、TVアニメ「明日ちゃんのセーラー服」を実写化した短編ドラマを作りました。
キャストは、トランスジェンダーもいれば、学生服を着て女子高生気分を味わいたい人などさまざま。出演者を募集したら全国から応募が殺到したので、オーディションも開催したんです。
――オーディションまで、本格的ですね……!!
選考の場では、真剣に撮影にのぞんでくれそうな人を選ばせてもらいました。みなさんには簡単に演技指導や立ち振る舞いをアドバイスしつつ、あとは楽しんでもらいながら作品撮りをしました。
演技未経験の方がほとんどで、セリフを覚えたり所作の練習が大変だったと思いますが、出演者からは「もう一回やりたい」と大好評!LGBTQ+の人同士の新たな交流の場を提供するきっかけにもなったと感じています。
非常に好評だったので、今度はメンズバージョンの動画も撮影してみたいと考えています。いろいろな形で、ジェンダーフリーで活動する人たちを応援していきたいですね。
外見と内面を磨くレッスンで、女性らしくありたいLGBTQ+の願いを叶える
――あらためて、運営しているオンラインサロン「LGBTQ+会員制サロン“Collabo”(コラボ)」の活動内容を教えてください。
美容室では、ジェンダーフリーでさまざまな人を受け入れていますが、「Collabo」はその中でも、“女性らしくありたい”LGBTQ+の人たちを対象に運営しています。具体的には、かわいらしいファッションやメイクを体験したい、きれいな声を出せるようになりたいといった人たちに向けて、メイクレッスンやボイスレッスンなどを開催しています。
たとえばメイクレッスンでしたら、基本的なスキンケアの方法から、ファンデーションの塗り方や眉毛の書き方などを、動画で配信しています。
お買い物同行イベントも人気ですね。スタッフと一緒に化粧品店へ行って、一人ひとりの肌質に合ったコスメを選びます。肌やメイクの悩みを話せる場所がなかなかないということで、好評なんです。
ボイスレッスンは、家でできる発声トレーニングの動画配信や、オフラインでのグループレッスンをおこなっています。
――ボイスレッスンを通して、外見だけでなく内面からも、女性らしさを身につけるアプローチをしていくのですね。
そうなんです。ヘアメイクまわりは私やスタッフで対応できても、声は簡単に変えられるものではありません。自分の声が低いことに悩んでいて、声帯手術を受けたいという人も結構多いんです。ですが、手術で理想の声が手に入るとは限らないですし、失敗例もあります。
私自身も女性でありながら声は低いですし、高い声が必ずしも女性らしいとは限らない。そこで、専門のボイストレーナーに協力してもらいながら、高い低いにこだわらず、きれいな声を出せるようなレッスンをしています。
――今後は、オンラインサロンでどのような展開を考えていますか?
かわいくなりたい、美しさに磨きをかけたいと思っているLGBTQ+の人たちは、まだ世の中にたくさんいるはず。Collaboをそんな人たちの望みを叶え、交流の輪を広げられるような場所にしていきたいです。
そのためにも、引き続きコンスタントに動画配信を続けていければいいですね。オンラインサロンの魅力って、それこそ遠方で都内のMINTまで足を運べない人たちにも、コンテンツを届けられることだと思っています。今後も、全国のLGBTQ+のみなさんの願いが叶うようなコンテンツやイベントを企画していきますので、楽しみにしていてください!
一番は「知ること」。LGBTQ+の話題に関心を持ってほしい
――LGBTQ+を取り巻く社会課題は多いですが、MISAKIさんが思う一番大きな課題はなんだと思いますか?
やはり一番は、LGBTQ+に関する知識が、世の中全体に不足していることだと思います。
本当は、幼少期から義務教育で、性の多様性について学べるのがベストなのですが……。当然、世の中の大人は教えを受けずに社会に出ています。知らないからこそ、どこか偏見を持ったり、意図せず相手を傷つけるような言葉をかけてしまうケースは、少なくないはずです。
先ほど話したマニュアルには、LGBTQ+に関する基本的な知識をのせています。また、毎年世界で開かれているプライドパレードも、当事者たちが自分の想いや活動を知ってもらいたい目的のもと、おこなわれています。
そういった情報に少しでも触れて知ろうとする行動が、何よりも大事。知識があれば、相手を不用意に傷つけるようなケースは少なくなると思います。
――まずは一人ひとりが知る、理解を深めることが第一歩になるということですね。一方、自分らしく生きられない、周りにどう思われるか怖いと悩む人も多いはず。そんな方に向けて、なにかアドバイスはありますか?
たとえば、男性だけど髪を伸ばしてみたいとか、 メイクしてみたいとか、少しでもやりたいことがあったら、ぜひ勇気を持ってチャレンジしてほしいです。
以前、「女だけど男らしくかっこいいショートカットにしたい」と、MINTにいらしたお客様の話をしますね。その方は、これまで美容院で“男らしく”と希望を伝えても、フェミニンなショートヘアにされてしまい、自分のなりたい姿をうまく汲み取ってもらえないことに悩んでいました。
この話を私にするのも、かなりの勇気が必要だったと思います。その方の想いを受け取り、よしと思い切って後ろを刈り上げるようなスタイルにしたら、すごく喜んでくれて。後日、その方がとある飲食店に入ったとき、店員には男性として認識されたそう。それがうれしかったみたいで、「このヘアスタイルにしてよかった」と笑顔で話してくれました。
自分の気持ちに正直になるのは難しいことですし、その想いを誰かに打ち明けるのにも勇気がいりますよね。でも一歩踏み出すことで、何かが大きく変わるかもしれない。私はどんな人でも応援します。
――今のお話を聞いて、MISAKIさんはまさに一人ひとりの「人生をデザイン」すべく、お客様と真剣に向き合っていることが伝わってきました。
大事なのは、先入観を持つことなく、いかにその人の想いや人生観に寄りそったスタイルを提案していくかだと思っています。これは、LGBTQ+の人でも外国の人でも、誰に対しても同じです。
今後も、美容室やオンラインサロンなどでの活動を通して、少しでも人生楽しい!と前向きになってもらえる人を増やせたらいいですね。一人ひとりのなりたい姿を叶えるべく、これからも活動を続けていきます。
「人生をデザイン」するをモットーに、多様性を受け入れ、真っすぐにお客様に向き合うMISAKIさんの姿勢に、心打たれた取材でした。また、一人ひとりがLGBTQ+について知ろうとする行動こそが、世の中の社会課題へアプローチするひとつの手段になることも実感しました。
LGBTQ+会員制サロン「Collabo」では、女性らしくありたいLGBTQ+の人たちを応援すべく、楽しく実践的なレッスンを展開しています。気になる方は、ぜひ下記のページをチェックしてみてください!