『BLOGOS』『WIRED.jp』『GREEニュース』などの運営に関わり、インターネットメディアの最前線にいた松浦シゲキさん。『ハフポスト』日本版 初代編集長を経て、2014年からは『スマートニュース』にてメディアコミュニケーションディレクターを務めています。
そんな松浦さんは、忙しい合間を縫って読書を欠かしません。松浦さんがピックアップする、いま読むべき本とは? そこには、2018年のネットメディア業界で飛躍するためのエッセンスが詰まっています。
読書からのインプットが、ネットの多様なアウトプットにもつながる
―もともと、読書の習慣はありますか?
松浦シゲキ:高校時代からずっと、結構いろんな本を読むタイプです。より爆発的に読み始めたのは、5、6年前にKindleを手に入れてから。いまはもう雑誌に新書、漫画まで、月に最低でも30冊くらいは読んでいるんじゃないでしょうか。
僕は、FacebookとTwitterは本屋だと思ってるんです。友人が推している本は、とりあえず買っちゃう。もともとの関係性があって、その人がどんな人かわかっているから、信頼して読んでみるわけです。
そうすると思いも寄らない出会いがあるし、セレクトの手間も省ける。Kindleなら置き場所を考えずにがんがん買えるから、手軽でいいですよね。
―名だたるネットメディアを世に送り出し続けてきた松浦さんにとって“本”はどんなところが面白いですか。
松浦シゲキ:ネットの記事は、旬なネタを扱う“フロー”型のコンテンツが多いですよね。ボリュームも1000文字くらいで、さらっと一気に読めるものも多いです。対して本は、網羅性があるいくつものネタを、ひとつのパッケージで流し込めます。
もちろん、ネットと本のどちらが優れているかという話ではありません。大きなストーリーが楽しめるコース料理と一品でも味わい深いカレー、自分の状況に応じて食べたいものは変わるでしょう。でも、カレーしか食べたことのない人には、コース料理を試してないのはもったいないよ、って言いたいですね。
―本を読むと、どんなことが身につくと思いますか? 松浦さんは読書体験から、どんなインプットをしてきたんでしょう。
松浦シゲキ:読書は、客観性を磨くのにとても大事だと思います。多様なインプットがあれば、そのぶん多様なアウトプットができる。たくさんの人に情報を届けるネットメディアをつくるうえでも、大切なことなのではないでしょうか。
第二次世界大戦で、日本が負けた理由を分析した『失敗の本質―日本軍の組織論的研究』という本があります。日本人の悪しき体制などを分析しているのですが、それは、現代の企業にも当てはめることができる。ビジネスをやるうえで効率的なものの考え方とか、正しい退却の仕方とか、歴史からさまざまなケーススタディができるわけです。
昔の自慢話をするのは老害だけど、失敗から学べることはいろいろあります。歴史の本を読んで「これを現代に当てはめたらどうだろう?」と思考実験できるかどうかが、読書を自分に活かせるかどうかの分かれ目かもしれませんね。
2018年のネットメディア業界は「動画」「AI」「タイム」
―2018年のネットメディア業界を泳いでいくうえで、押さえておきたいキーワードと、その予習として読むべき本を教えてください。
◆キーワードその1 “動画”
動画表現の可能性は、2018年も模索されていくでしょう。短尺のムービーや『AbemaTV』のように無料で楽しめるものから『Netflix』みたいな課金モデルまで、さまざまなジャンルが充実してきました。次世代通信『5G』によって大容量のデータを遅延なく届けられるようになれば、さらに動画の可能性は広がります。
◆“動画”を読み解くための本
『日本人のための第一次世界対戦史 世界はなぜ戦争に突入したのか』板谷敏彦
歴史が動くときには、大きなイノベーションが起きます。第一次世界大戦では飛行機や潜水艦といった乗り物のほか、いまに通じる無線技術も生まれました。やりとりできる情報の量が増えたとき、日本や世界では何が起こったのか。この本を読むことで、ツールの飛躍的なアップデートにどう対応していくべきかというフレームワークが学べるのです。
◆キーワードその2 “AI”
AIは、僕らのさまざまな仕事を奪い去っていくといわれていますよね。どういうふうに我々の生活に入ってきて、どんな労働をなくしていくのか。そのとき僕らは、どんな働き方にシフトすればいいのか、ということを考えなければなりません。
◆“AI”を読み解くための本
『魔法の世紀』落合陽一
落合さんの未来予測は、とても面白いですね。テクノロジーによってあらゆる時間が短くなるという未来が、すぐそこまで来ています。そして、そのあらゆる時間を短くすることに、AIは大きな役割を果たす。タイトルずばりの『超AI時代の生存戦略』も合わせて読むといいと思います。
◆キーワードその3 “タイム”
時間を売買する『タイムバンク』が話題になるなど“タイム・イズ・マネー”の感覚はどんどん強まっています。そこで、AIに頼るだけではなく、人間にできる時間の効率化を考えてみる。たとえば、何かを選ぶ時間を減らす、ということは大事な視点だと思います。
スティーブ・ジョブスは手間をなくすため、毎日同じ洋服を着ていたという話がありますよね。不要なモノやコトをそぎ落とせば、余った時間をもっと面白いことに使えるわけです。
◆“タイム”を読み解くための本
『LIFE PACKING2.1 未来を生きるためのモノと知恵』高城剛
年間50ヵ国以上を訪れる高城剛さんは、生活必需品をスーツケース2個に収めています。必要なものはすべてそこに詰まっているから、迷ったり、選んだりする時間がありません。僕も、この本から得たノウハウをこまごまと実践しています。洋服はグレーのパーカー&デニム、デジタル家電はSONY、なんて少しのルールを決めるだけで、ほかのもっと興味のあることを考える時間がぐっと増やせるんです。
ネットメディアの最新動向を知り、一緒に考えていく場所
よりよいネットメディアを生み出していくために、多様なインプットをすること。読書は、その一端を担ってくれるようです。
ネットメディア業界の最新動向をもっと知りたい! 松浦さんの知見をフィードバックしてほしい! という方は、DMMオンラインサロン「松浦シゲキの『ネットメディアラボ』」へ。松浦さんやサロンメンバーとともに、これから求められるネットメディアの姿を模索してみてはいかがでしょうか。