「育児休業期間は2年?3年?」「取得する条件って?」「申請方法は?」など、育児休業に関して疑問を持っている方は多いかと思います。基本的に育児休業は男女関係なく取得することができ、上手に使えば子育ての強い味方となってくれるはず。知っていそうで意外と知らない育児休業の期間や申請方法、さらに「パパ・ママ育休プラス」や「パパ休暇」制度についてもご紹介します。
「育児休暇」と「育児休業」の違い
まずは育児休業の定義や期間、取得条件などを見ていきましょう。
「育休」と聞くと、まず「育児休暇」という言葉を思い浮かべる人も多いでしょう。実は「育休」には「育児休暇」と「育児休業」の2通りの意味があります。言葉は似ていても「育児休暇」と「育児休業」には決定的な違いがあるのをご存知でしょうか?育児休業の内容を詳しく見ていく前に、それぞれの言葉の定義を確認しておきましょう。
育児休暇=育児のためにとる休暇
育児休暇は、子どもの育児を目的として取得する休暇全般を指します。例えば、子どもの学校行事参加のために有給休暇を取得する場合などは、育児休暇と呼ぶことができます。育児休暇の適用範囲や日数は企業の就業規則によります。
育児休業=国の法で定められた労働者の権利
一方で育児休業は、国の法律に定められた労働者の権利のひとつです。取得条件や期間などは法律で定められており、育児休業中は手当金や税金免除などの措置を受けることも可能です。一般的な労働者は「育児・介護休業法」に従って取得します。
公務員の場合は「国家公務員の育児休業等に関する法律」や「地方公務員の育児休業等に関する法律」に従います。
育児休業期間はいつからいつまで?
育児休業はいつから取得できるのかご存知でしょうか。ここでは「育児・介護休業法」に定められた育児休業期間を見ていきます。
原則として、子どもが1歳になるまで
育児休業は、子どもが生まれてから1歳になるまでの期間で取得することができます。ただし母親の場合、産後8週間は産後休暇扱いになるので、育児休業を取得できるのは産後休暇終了日の翌日以降となります。
子どもが1歳になるまでの間であれば、希望する日数分、育児休業を取得することが可能です。
育児休業の取得可能回数は、育児対象となる子ども1人につき1回のみです。例外として、母親の産後8週間以内に父親が育児休業を取得・終了した場合、再度育児休業をとることができます。この特例については、後ほど詳しく説明します。
最長2年まで延長可能
前述したように、育児休業は子どもが1歳になるまでの間、取得することができます。しかし子どもが1歳になっても、保育所が見つからないなどの理由で育児への不安が残るケースもあるでしょう。
そこで知っておきたいのが育児休業の延長制度。条件を満たす場合に限り、育児休業を最長2年まで延長することができます。育児休業の延長条件は以下の通りです。
1. 子どもが1歳に到達する日(子どもの誕生日前日)の時点で本人か配偶者が育児休業をしている
2. 希望しているにもかかわらず保育所(認可外保育所は含まない)に子どもを入れることができない場合。もしくは、今後子どもの育児をする予定であった配偶者が死亡、負傷、離婚などの理由で育児ができなくなった場合
上記の2つの条件を満たしている場合、子どもが1歳6ヶ月になるまで育児休業期間を延長することができます。子どもが1歳6ヶ月に到達する日においても上記の2つの条件を満たしている場合、子どもが2歳になるまで育児休業期間を再延長できます。
ただし、育児休業期間は1年から2年にいきなり延長できるわけではありません。1年、1年6ヶ月、2年という順番で延長できる、という点に留意しましょう。育児休業の延長には別途申請が必要になります。申請方法については後述します。
育児休業の取得条件
ここで一つ注意しておいて欲しい点は、育児休業は誰でも取得できるとは限らないということです。育児休業は、法律で定められた一定の条件を満たすことで取得することが可能です。条件は育児休業取得希望者の雇用形態によって異なりますので、育児休業の取得条件を詳しく見ていきましょう。
育児休業を取得できる人は?
育児休業は、事業主に雇われた全ての労働者(日々雇用を除く)が取得することができ、労働者からの育児休業の申出があったとき、事業主は育児休業申出を拒むことができません。しかし、事業主と労働者の間で、育児休業に関しての労使協定が締結されている場合、以下の場合については、育児休業の申出が拒否されることがあります。(法第六条、法律施行規則第八条)
1. 現在勤めている事業所で、継続して雇用された期間が1年未満の場合(産前・産後休暇の期間も含む)
2. 子どもが1歳6ヶ月になるまでに現在勤めている会社を辞める予定がある場合(育児休業終了後は同じ会社で働く予定がない)
3.1週間の所定労働日数が2日以下の場合
日雇い、自営業、派遣、パートの育児休業
前述したように、日雇い労働者は育児休業を取得できません。また、自営業や個人事業主など、会社に属していない人も育児休業取得の対象外となります。
一方パート、派遣、契約社員などの有期契約労働者は、以下の条件を全て満たしている場合には、育児休業を取得することができます。
1. 現在勤めている事業所で、継続して雇用された期間が1年以上
2.子が1歳6か月に達する日までに現在の労働契約が満了し、更新されないことが明らかでないこと
公務員の育児休業
公務員の場合、「国家公務員の育児休業等に関する法律」や「地方公務員の育児休業等に関する法律」に定められた内容が適用されます。前述したように育児休業取得可能期間は、一般企業では子どもが1歳になるまでの期間とされています。しかし、公務員の場合、子どもが3歳になるまでの期間であれば育児休業を取得できます。また、産後57日以内に育児休業を取得した場合、再度育児休業を取得することも可能です。
一般企業では育児休業を取得するためには1年以上現在の会社で勤務している必要がありました。しかし、公務員の場合は特に勤務期間の条件は明記されていません。
申請方法
育児休業の申請は事業主に対して行います。事業所所定の用紙か、自分で作成した書面に以下の内容を記入し、提出します。
1. 申請する年月日
2. 申請する労働者の氏名
3. 子どもの氏名・生年月日、申請する労働者との続柄(※子どもが生まれる前であれば出産予定者の氏名、出産予定日、申請する労働者との続柄)
4. 育児休業開始希望日と育児休業終了予定日
上記の他に、事業所によって記入項目が追加されている場合や、医師の診断書や出生届受理証明書などが必要になる場合もあります。
また、申請は育児休業開始希望日の1ヶ月前までに行うようにしましょう。出生予定日が早まるなどの理由で育児休業を急きょ取得する必要がある場合は、育児休業開始希望日の1週間前までに申請するようにします。
育児休業でもらえる手当金・税金免除
育児休業中は収入が減少する場合が多いですが、収入を補うための手当金をもらえる場合があります。また、一部の税金も免除になる可能性があるため、出費をおさえることもできます。ここでは育児休業中にもらえる手当金や、免除になる税金について説明していきます。
育児休業給付金
育児休業中は条件を満たせば、雇用保険や共済組合から育児休業給付金を受け取ることができます。
育児休業給付金の取得条件は以下の通りです。
・育児休業中に、月給の8割以上の給料が支払われていない
・本人が育児休業を取得した時点で1歳未満の子どもを育てている
・本人が雇用保険の被保険者となっている
・本人が育児休業前の2年間で、11日以上働いた月が12ヶ月以上ある
・現在勤めている事業所で1年以上働いている(有期雇用者の場合)
・子どもが1歳6ヶ月になるまでの間に現在勤めている事業所を辞めることが明らかでない(有期雇用者の場合)
育児休業給付金の金額は育児休業の長さによって異なります。育児休業開始日から180日目までは、1ヶ月につき育児休業取得直前の標準月給の67%が支給されます。上限額は月299,691円、下限額は月49,647円です。
育児休業開始日から181日目以降は1ヶ月につき、育児休業取得直前の標準月給の50%が支給されます。上限額は月223,650円、下限額は月37,050円です。
もし、育児休業中も勤務先から一定額の給料をもらっている場合、育児休業給付金の額と育児休業中にもらっている給料を合計し、育児休業取得直前の標準月給の8割以下となるように給料を調整する必要があります。
また、育児休業給付金を受け取るためには申請が必要です。希望者は「育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書」に記入し勤務先にすると、勤務先からハローワークに書類が提出されます。その後、育児休業給付金の支給が決定すると、約1週間後から指定の口座に所定の金額が振り込まれます。
社会保険料の免除
育児休業中は健康保険や厚生年金保険といった社会保険料が免除されます。免除期間は育児休業開始日の月から、育児休業終了日の翌日が属している月の前月までの期間が対象です。例えば、5月8日から8月31日まで育児休業を取得した場合は、以下の期間の社会保険料が免除されます。
例:5月8日から8月31日まで育児休業を取得した場合
育児休業開始日:5月8日
育児休業終了日:8月31日
育児休業終了日の翌日:9月1日
育児休業終了日翌日の前月:8月
→5月~8月分の社会保険料が免除
ここで、厚生年金保険料が免除になると将来受け取ることのできる年金が少なくなるのでは、と不安に思う方もいるでしょう。しかし、結論から言えば、育児休業中の保険料免除を理由に将来の年金受給額が減らされることはありません。育児休業による保険料免除期間中でも、保険料納付が行われたと見なされるためです。この場合の納付額は、育児休業取得直前の標準報酬を基準にして算出されます。
所得税と雇用保険料の免除
育児休業中に会社から給料が支給されない場合は、所得税と雇用保険料も免除になります。また、育児休業中に支給される育児休業給付金は非課税となります。
住民税の減免措置
育児休業期間中でも住民税は支払わなければなりません。しかし、自治体によっては育児休業中に収入が下がることを考慮し、住民税の減免措置をとっている場合もあります。自治体によって対応が異なるので、必ず確認するようにしましょう。
他にも会社によっては、独自の手当金などを支給している場合があります。育児休業に入る前に勤務先に確認するようにしましょう。
男性も育児休業は取得できるの?
男女ともに取得権利があるとはいえ、まだまだ男性の取得率が低い育児休業。実は男性が育児休業を取得しやすくするために、さまざまな制度があるのをご存知でしょうか。ここでは「パパ休暇」と「パパ・ママ育休プラス」について説明していきます。
パパ休暇
母親は、出産後8週間は産後休暇扱いとなるため、育児休業を取得できませんが、父親はこの期間でも育児休業を取得することができます。冒頭でも触れた様に、この期間に父親が育児休業を取得・終了した場合は、再度育児休業の取得ができます。つまり、父親は1人の子どもにつき最大で2回の育児休業をとることが可能になります。この制度は通称「パパ休暇」と呼ばれています。
出産後の母親は心身ともに疲労が蓄積され、大変な思いをしている方が多いかと思います。そこで、父親が母親の手助けをしやすいようにと、このような特例が定められているのです。ただし、パパ休暇を取得するためには、1度目の育児休業が産後8週間以内に終了している必要があるので注意しましょう。
パパ・ママ育休プラス
両親ともに育児休業を取得済みの場合、子どもが1歳2ヶ月になるまで両親のうちどちらかの育児休業取得可能期間を延長できる制度が「パパ・ママ育休プラス」です。
パパ・ママ育休プラスの取得条件は以下の通りです。
1. 育児休業を取得する本人の配偶者が、子どもが1歳になるまでの間に育児休業を取得している
2. 本人の育児休業開始予定日が、子どもの1歳の誕生日以前
3. 本人の育児休業開始予定日が、配偶者の育児休業開始日よりも後である
上記の条件をすべて満たす場合、パパ・ママ育休プラスが適用され、子どもが1歳2ヶ月になるまで育児休業を延長することができます。ただし、育児休業を取得できる期間は、親1人につき最大で1年です。母親の場合は、産後休業と育児休業を合わせて最大1年となるので注意しましょう。
育児休業に関する法改正
育児休業は法律で定められた制度であり、時代に合わせて改正されてきました。2017年にも「育児・介護休業法」の改正があり、育児休業期間などに変更が加えられました。育児休業に関する法改正のポイントをいくつか見ていきましょう。
育児休業が最長2年まで延長可能に
法改正前は育児休業終了日から子どもが実際に保育所に入所するまでに空白期間ができるケースがありました。その空白期間を埋めることを目的に、育児休業を最長2年まで延長できるよう、法律が改正されました。
事業主への育児休業周知義務
育児休業取得率が低い背景には「職場に育児休業の相談をしづらい」という意見が多く見られました。そこで育児休業、パパ休暇、パパ・ママ育休プラスなどの制度を周知するよう事業主に義務付け、育児休業について相談しやすい環境づくりを目指しています。
育児目的休暇の導入をうながす
小学校就学以前の子どもを持つ労働者が育児目的の休暇をとれるよう、事業主に育児目的休暇制度の設立を求めています。たとえば、卒園式などの子どもに関する行事に参加するための休暇を設ける、といった対応をとることが推奨されます。
育児休業延長に必要な手続き
法律改正により、育児休業期間は最長2年まで延長できるようになりました。延長手続きをどのように行うのか確認しておきましょう。
育児休業を1年6ヶ月もしくは2年に延長したい場合、申請が必要になります。当初予定していた育児休業終了日の2週間前までに、以下の内容を事業主に伝えます。
1. 育児休業の延長を申請する年月日
2. 申請する労働者の氏名
3. 延長後の育児休業終了日
申請は原則として書面で行います。事業所によってはメールで申請できる場合もあるので、担当者に確認するようにしましょう。
育児休業3年説とは?
育児休業の期間は前述したように、一般的な労働者の場合は最長2年、公務員の場合は最長3年です。2013年には安倍総理大臣が「育児休業を3年に延長する」という発言をしたこともあり、いわゆる「育児休業3年説」が広まったこともありました。しかし、実際の法律はまだ快晴されておらず、2018年12月時点では「最長2年の育児休業」が適用されています。ただし、会社によっては2年以上の育児休業を認めている場合もあるので、就業規則を確認するようにしましょう。
育児休業を取得した場合のシミュレーション
育児休業を取得した場合、どのような生活になるのか想像するのは難しいでしょう。そこで育児休業中にもらえる手当金や育児休業取得スケジュールのシミュレーションをしてみます。気になる保育園の入所手続きについてもご紹介します。
もらえる手当金の金額シミュレーション
まずは育児休業中に受け取ることのできる育児休業給付金の金額をシミュレーションしてみます。前述したように、育児休業給付金の金額は育児休業開始から180日までは月給の67%、それ以降は月給の50%です。たとえば月給25万円、育児休業300日の場合、以下のような計算になります。
例:月給25万円の労働者が300日間(約10ヶ月)の育児休業を取得する場合
育児休業開始から180日(6ヶ月)までの支給総額
250,000×0.67×6=1,005,000円
育児休業開始から181日以降(残り120日)の支給総額
250,000×0.50÷30=約4166.6円(まず日給を計算)
4166.6円×120=約500,000円(日給に残り育児休業日数をかける)
育児休業中の総支給額
1,005,000+500,000=1,505,000
→約150万円の育児休業給付金がもらえる
育児休業の取得時期シミュレーション
次に育児休業の取得時期をシミュレーションしてみます。パパ休暇取得の場合、パパ・ママ育休プラスを適用した場合など、いくつかのパターンで見ていきましょう。
例1:両親ともに育児休業を取得した場合
上記の例は、母親が産後休暇終了の翌日から育児休業を取得し、父親も子が1歳になるまでに育児休業を取得した場合です。母親と父親の育児休業取得時期は、重複していても離れていても問題ありません。
例2:パパ休暇を取得した場合
上記の例では、母親が産後休暇終了の翌日から育児休業を取得し、父親は子どもが生まれた日から8週間以内に育児休業を取得しています。子どもの生後8週間以内に育児休業を取得・終了している場合は再度育児休業を申請できます。そのため、父親はパパ休暇として子どもが1歳になるまでの間に再度育児休業を取得しています。
例3:パパ・ママ育休プラスを適用した場合
上記の例では両親ともに、子どもが1歳になるまでの間に育児休業を取得しています。そして、母親よりも後に2度目の育児休業に入った父親は、パパ・ママ育休プラスを活用し、子どもが1歳2ヶ月になるまで育児休業を取得しています。また、母親も父親が1度目に育児休業を取得したよりも後に育児休業を取得しているので、パパ・ママ育休プラスの対象になります。
母親にパパ・ママ育休プラスが適用される、別の例も見てみましょう。
この例では、父親が子どもの生後8週間以内に育児休業を取得し、母親は産後休暇終了後、少し時間をおいてから育児休業を取得しています。また、母親はパパ・ママ育休プラスを利用し、育児休業期間を子どもが1歳2ヶ月になるまで延長しています。
例4:育児休業を子どもが1歳6ヶ月になるまで延長した場合
上記の例では子どもを預ける保育所が見つからなかったため、1歳6か月まで父親が育児休業を延長しています。下記のように、母親が育児休業を延長することも可能です。
例5:育児休業を子どもが2歳になるまで延長した場合
上記の例では、保育所が見つからないため母親が育児休業を2回延長し、子どもが2歳になるまで育児休業を取得しています。以下のように、父親が育児休業を2回延長することも可能です。
保育園の申込日と入所日
保育園に入るためには、自治体を通じて入所申し込みをする必要があります。保育園の入所申し込みは常時受け付けています。しかし、年度初めとなる4月入所は人気が高く、申し込み締め切りなどが設定されているケースが多いです。4月入所の場合、入所前年の10月~12月に申し込み、選考結果は入所年の2~3月に通知されるのが一般的です。近年話題となっている待機児童問題のように、子どもを保育園に入れるのが難しい地域もあります。保育園選びのための情報収集は早めに始めておくといいでしょう。
保育園について、詳しくはこちらの記事でも紹介しています。
ここまで育児休業の内容や、育児休業中にもらえる手当金などについて見てきました。育児休業は労働者の権利であり、条件を満たせば誰でも取得することができます。子育てと仕事の両立が大変になる時期を、育児休業を利用して乗り越えてみてはいかがでしょうか。